29・2度目の報告。に
「まぁ、無神経な男ね」
アルヴァトロとのデートについてターナ様に報告に来ていたキアラ。あれから四日経っている。マルトルの話も一応報告を、と話したところでターナ様のこのお言葉である。ターナ様も思うってことは、自分の感覚はおかしくないのだな、とキアラは安心した。
「本当ですね、お嬢様! なんかこう、お仕置きみたいなことがないですかね」
本日のターナ様付きの侍女は初めて会った方だなとキアラは思いつつ、それでもキアラの友人のように怒ってくれることが嬉しい。初めて会ったのに寄り添ってくれるのは主人であるターナ様が優しいからか。
「無い。……わけじゃないけれど」
さすがにターナ様でもマルトルの無神経な発言程度でどうこう出来るなんて、キアラは思っていなかったので。方法が無い、わけじゃない。とか言ってしまうターナ様に驚く。ハッキリと有ると断言しない辺り、正当性は無いのかもしれない。
「えっ、あるのですかお嬢様?」
お仕置き、なんて言葉を言い放った侍女までも驚くところを見るに、言ってみただけなのかもしれない。
「なんでそこで驚くのよ。……まぁいいわ。お仕置きみたいな事でしょう? お仕置きとはいかないかもしれないけれど、まぁ方法はあるわ。ただ。キアラさんとアルヴァトロさんが、私の婚活を利用していることを伝えても良いか、確認しないとだけど」
キアラは構わないがアルヴァトロは嫌かもしれないので、困惑する。
「アルヴァトロさんにご迷惑をおかけすることは本意ではないので……」
キアラの消極的な意見にターナ様は、ふむと考える……こともせずにあっさりと宣う。
「まぁキアラさんがオッケーならいっか。お仕置きというか実に簡単なことなのだけれど。私のこの仕事について、お父様だけじゃなくて国王陛下にも期待されているのよ。そうでなくてはいくらお父様が大臣で公爵だからって王城の一画に私の執務室なんて出来ないのよね」
キアラは、それはそう、と納得する。ターナ様のお父様である大臣様の執務室の隣とはいえ、王城の一画を確保するなんて、国王陛下並びに宰相様が許可を出さずに出来るわけがなくて。
「つまり、私とアルヴァトロさんの婚活は国王陛下もご存知だと……?」
キアラは話が大きくなりそうで背筋に冷や汗が伝わる。
「ちょっと違うかしら。国王陛下は私がこの仕事をするに至る事情をご存知なのね。その事情を知ってそういうことなら、と快く受け入れて頂いた。それで。国王陛下も認めた仕事ということが明確になるように執務室を与えて下さったの。実際に誰が婚活を考えて利用しているのか、ということまではさすがに把握されていらっしゃらないわ。お父様経由で陛下にはその辺りの報告をしないことを奏上させて頂いてご理解を得られているから」
キアラは利用者までは知られていないことに安心する。でも、確かにその辺りのことを国王陛下がご承知になられていても仕方ないことか、と納得。
利用者は知らなくても王城の一画に執務室を与える許可が下りていることは確かで。
「つまりね? 国王陛下もご存知の私の仕事をある意味で邪魔をしたようなものだから。余計なことはしないでね、とちょっとした釘を刺すことが出来るのよ」
ターナ様の言葉の意味を捉えるとその怖さにキアラは息を呑んだ。要するに陛下に期待されている仕事の邪魔をするなよ、と脅すということ。
ちょっとした、なんて可愛らしい表現を使っているけれど、そんな可愛らしい釘じゃないですよね、とキアラは引き攣り笑いを浮かべたくなる。さすがに大き過ぎる釘を持ち出すのはやめてもらう事にしてもらう。
「その、次が無い、と思いますから。今回はターナ様からの釘刺しは無しでお願いします」
ちょっとした牽制に軽く使えるような釘ではないので、とキアラはターナ様にお願いしておいた。
「あらそれって次があったら釘刺して良いってことかしら」
ターナ様が面白そうに口元を緩めて言うので、いえ、大丈夫です、とやっぱり顔を引き攣らせながらキアラはお断りした。……大き過ぎる釘というのも考えものである。
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