28・2度目の報告。いち
「アルヴァトロさん、ありがとうございました」
マルトルが去って行くのを見ながら女性たちがマルトルの行いについて話し合っている今のうちに、とばかりにサッと広場から撤退したアルヴァトロとキアラは王城へ足を動かしている。その中でキアラは軽く立ち止まって頭を下げた。
「いや。マルトルの話は無神経だし有り得ない。それに騎士の任務も放棄しているような形だったし」
アルヴァトロは軽く頭を振ってキアラに頭を上げるように促す。再び歩きながらアルヴァトロは、少し悩みながらも気になったので声をかけた。
「その、キアラ嬢は」
「はい」
「嫌な思いはしていないか。傷ついて……いないだろうか」
何の心の準備もなく、マルトルに会ってしまったどころかあのように話を聞かされたことでキアラは傷ついてないか、とアルヴァトロは気になる。
「傷ついてはいないですね。ただ幼馴染と言ってもここ何年も交流していなかったので、あんなに無神経なことを言う人だったか、とは思いましたが。婚約者といっても親同士が仲が良くてずっと付き合いが続けば良いな、という親同士の考えで子どもたちが結婚すれば良いのでは……と思っての婚約みたいなものでしたし。いくらか政略的な意味合いもありましたけどね。そちらは婚約が無くなっても問題の無いものですし。だから幼馴染の情はあっても互いに恋愛的な情は無かったんです。十八歳前後くらいまでは手の掛かる弟みたいな気持ちでしたし。でもあんなに無神経なことを言えるマルトルに幼馴染としての情も無くなった……と言ったら薄情ですか」
キアラは率直に気持ちを話す。
「いや。あれだけ無神経なことを言うマルトルに対してそう思っても仕方ないと思う」
「そうですか。……婚約破棄を言い渡された時、雀斑顔であることもあまり好きでは無かったらしくてそんなことも言われたんです。長い間幼馴染として一緒に居て、雀斑があることは私自身が気にしているのに、それを婚約破棄の話に恋人と結婚したいという言葉だけでなく容姿まで貶してきたので。実はその時からマルトルには幼馴染の情も無かったのです。だからその後会っても挨拶程度にするつもりだったのですが。マルトルは全く私の容姿を貶したことについて、悪いとは思ってないんだなって改めて先程思いました。出来ればもう“次”が無いといいなとは思ってます」
キアラはマルトルから容姿を貶されたことを話すつもりは無かった。でも、アルヴァトロになら話してもいいか、と思わせる気持ちが生まれた。
なんとなく、アルヴァトロはキアラが雀斑顔だからと言って否定するようなことは言わない気がしたから。
「は? マルトルのやつ、そんな無神経なことを言ったんですか? 容姿を貶すって失礼だろう! キアラ嬢に雀斑があることは気づいていなかったですが、あってもなくても、キアラ嬢はキアラ嬢でしょう」
アルヴァトロは、さすがにそこまで無神経な男だとは思わず、マルトルとは関わりたくないな、とも思う。
「ふふ。ありがとうございます。怒ってくれて嬉しいです」
キアラはここまで怒ってくれたアルヴァトロの気持ちが嬉しくて声を上げて笑う。
その笑顔が可愛い、とアルヴァトロは不意に思った。
なにか言おうと言葉を探す前に広場からよく見えていた王城に到着し、今日のデートが終わったことを二人に教えた。
さすがにマルトルのあの無神経な話でデートを続ける気には互いになれなかったのである。
「今日のこと、ターナ様に報告します。アルヴァトロさんもマルトルのこと、気にしないでお好きに報告してくださいね。今日はありがとうございました。楽しかったです」
アルヴァトロが言葉を探している間にキアラが別れの挨拶を告げた。
「あっ」
「はい、なにか?」
アルヴァトロは咄嗟にキアラに声をかける。
「次、も会いましょう」
アルヴァトロは自分で言って驚いた。
次の約束を取り付けたい相手に会うとは思っていなかったので。
でもキアラならば、良い。次、を約束するのも。
だからアルヴァトロは次の約束を改めて望んだ。
「はい。私もまたお会いしたいです」
キアラも同じように思ってくれた、と知ってアルヴァトロは少しだけ胸が温かくなった。
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