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夜暮れに語る怪異奇譚  作者: たんぽぽ3号


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21/21

サンクチュアリ



何とか気怠げな午後を終え、ようやく下校の時間になる。

病み上がりでどことなく疲れて(精神的に)しまった俺はすぐに帰ろうと昇降口に向かう。


すると、校門の前に人だかりができてるのが見えた。


嫌な予感を感じて、俺は特に覗いたり様子を確認することなく、正門ではなく裏の方にある出口から帰ることにする。


狙われるかもしれないって言われたし警戒するに越したことはないはず、、、だよね?



特に用もないので真っ直ぐ帰ることにして足早に歩いていると、ふと視線を感じて振り返る。


そこには特に誰もおらず、一羽の白い鳩が飛んでいるだけ、、、。



「・・・自意識過剰か。」



気恥ずかしくなって一人頬をかいていると、ポケットのスマホが震える。


なんだろうと不思議に画面を見ると、琴音さんか、メッセージが入っていた。


ええと何々?『助けて下さい』、、、と、、、



・・・・・。

・・・・。

・・・。




バタバタバタッ!


ーーバァンッ!



「琴音!?」



汗だくだくに急いで帰ってきて明け放ったドアから転がるように居間に向かう。


居間のドアを急いで開けると、そこには、、、



「・・・あ、湊さん。」


「お邪魔させて貰っています。」



気まずげにソワソワしている琴音さんと、切れ長の鋭い目に腰まで伸ばされた金髪。シスター服とセーラーを混ぜたような服を着た謎の女性が姿勢よく出されたお茶を飲んでいた。



・・・えっと、どちらさまぁ?



状況がつかめず琴音さんに説明を求めて視線を向けると、彼女は涙目で震えるように首を振る。あまり分かってない感じかな?



「私が急に押しかけました。彼女も最初は渋っていましたので、責めないであげてください。」


「おう、最初からお前しか責める気ねぇぞ不審者。金髪美女の知り合いとかいねぇから。」



やけに落ち着いている不審者に警戒しながら琴音さんの横に座る。

目の前の不審者に説明を求めていると、不審者はそっと目を細く開いた。



「・・・私はサンクチュアリ所属の二級エクソシスト、名は メリア・ニアットと言います。」


「よし、何処の病院を紹介してもらいたい?」


「紹介できる病院があることが驚きです。」



最悪だ、昨日の今日だぞ?

しかも家にまで押しかけてくるとか思わなかった、、、。



「こ、断ろうとしたのですが、もしなかに入れなければ湊さんの正体を近所に言いふらすと言われまして、、、。」


「タチ悪っ!」


「何のことですかね?」



と言うか正体? まさか本当に見ただけで俺が半人半鬼だってバレたっていうのか?


目の前の不審者は変わらずお茶に口をつけている。


琴音さんが急須で淹れてくれたお茶はとても香りが良く苦味と相まって美味しい。


と言うか何でこんな不審者入れたのか判明して良かったよ。



「・・・それで、精神異常者は何しに来たんだ?」


「エクソシストと名乗っただけでそこまで言われますか。まぁ一般からすればイタく扱われることもありますけどね。・・・でもこうすれば信じたくもなるのでは?」



言いながらメリアと名乗った彼女は首にかけていた十字架のネックレスに触れる。

その瞬間、眩い光の十字剣が現れ、俺の首元に添えられた。



「ーー湊さん!?」


「・・・ど、どういうおつもりでっしゃろ?」


「何語? どうも何も悪魔を祓うのですが。」



光の剣は徐々に首に迫ってくる。

肌をジリジリ焼くような感覚に冷や汗を流しながら虚勢を張った笑みを浮かべた。



「ひ、人殺しは犯罪だぞ?」


「ご安心を、人であればこの剣は何一つ害はありません。もしあなたが人であれば、、、ね。」



ヤバい、、、!



この場をどう切り抜けようか必死に頭を回す。


すると、、、



「・・・お待ちください。」



凛と冷たく、背筋が凍るような声が横から響いた。


その思わぬ圧にメリアは困惑し、光の剣の動きをとめる。恐る恐る横を確認すると、琴音さんがまるで感情を感じさせないほど冷たく突き放すような目をメリアに向けていた。



「いくら貴女がサンクチュアリの活動を許可されたエクソシストであったとして、日道連の管理下であるこの土地で好き勝手は出来ないはずです。」


「・・・そうね、でも悪魔祓いに関してはお互いに不可侵のはずだけど?」


「湊さんはまだ魔祓いの対象として定まっていません。日道連が未だに審議してる段階で、外様の貴女が勝手に処罰するのは問題では?」


「・・・・・。」



琴音さんの言葉にメリアは押し黙り、しばらく見つめ合ったあとため息をついて光の剣を消した。


そして彼女は荷物を持って立ち上がる。



「確かに少し勇み足だったわね。ここで日道連と事を構えるのは得策ではないし、御暇させて貰うわ。」



そう言いながら彼女は玄関に向かって歩いていく、すると、一度立ち止まって悪い笑みを浮かべて振り返り、



「でも、もし巻き込んでしまっての事故だったら、仕方ないわよね?」



そう言い捨てて去っていった。



「・・・塩まいとこ。」


「小皿持ってきますね。」



サラリと盛り塩を提案してくる琴音さんに笑いそうになりながら、なんとか嵐が過ぎたことに安堵したのだった。




・・・・・。

・・・・。

・・・。



琴音さんと夕飯の支度をしていると、ふと先ほどの会話を思い出す。



「そう言えば琴音さん。やけに日道連の事情に詳しかったけど、灰円から何か聞いてたりするの?」



そう、先ほどは見事にメリアを言い負かしてくれたが、内容はどことなく日道連の内部事情な話の気がした。


もちろん俺はそんなの知らないし、彼女がどうやってそれを知ったのか気になっただけなのだが、琴音さんは味噌を溶くのを止めて、キョトンとした。



「え、適当ですが?」


「・・・・・へ?」



思わぬ答えに俺のほうが目を丸くする。

あんなスラスラと発言してたのに全部適当だったの?あの緊迫した状況でよくあそこまで頭が回るよね。



「夜那さんが前からよく言ってました、交渉事には必要なのは度胸とハッタリだと。ウソだとその場でバレなければ言い訳や逃げ道を探す時間が作れるとも。」


「・・・やっぱあまり参考にしないほうがいいと思うよ、そいつ。」



会ったことのない琴音さんの恩人だが、聞けば聞くほど碌でもない人物な気がしてならない。


まぁ、間違ってるとも言わないけどさ。



「それでどうします? もし彼女の言う通りであれば、、、あの、、、えーっと、、、。」


「事故に見せかけて殺されるかもしれない、、、か。」



琴音さんが言い辛そうに口籠ったことを正直に言う。

その言葉に琴音さんは悲しそうに顔を暗くするが、俺は気にすんなと心配させないように笑いかけた。



「琴音さんのおかげで今殺されずに済んだしな。時間もあるし対策くらい思い浮かぶだろ。」


【どうかのぉ、皆が言っておったが向こうは手段を選ばない可能性もある。もし最善を取るなら山奥に行く方をくらませるなどが効果的なくらいじゃ。】



フワッと横に浮かぶヨルからそんな提案をされる。


てかお前、俺がピンチだった時に一切出てきてくれなかったよね?



【あほか、儂がでてしまえば鬼であると証明してしまうようなものじゃろう。まぁ向こうは何処か確信しておるようだし意味はなかったがの。】


「じゃあ助けてくれよ。」


【心配せずともあの光の剣で主が死ぬことはない。】


「「え、そうなの(ですか)?」」



ヨルの言葉に俺と琴音さんは驚く。

あんな堂々と脅されたし、実際心当たりがあったからまずいと思ってたんだが、そこまでギリギリじゃなかったのかな?



【主は半人半鬼じゃ、仮にあのまま首を切られたとしても焼けるような痛みが走ったろうが、斬り落とされはせん。】


「めっちゃ痛そうじゃん。」


【死ぬよりはマシじゃろ?】



いやまぁそうなんだけどさ、、、。


でも焼けるような痛みって相当怖いよ?



「でもそっか、向こうが事故を狙ってくるなら俺はとことん怪異を避ければいいってことか。」


【間違ってはおらんが難しいぞ? 前にも言ったが、怪異は引き寄せ合う性質がある。主が避けたとしても向こうから寄ってくる可能性があるぞ。】


「・・・最悪じゃん。」



どうしよ、お祓いとか行けば解決するか?お祓いされるのはお前だつってね笑



【それにしても琴音の先ほどの問答はかっこよかったのぉ。『外様の貴女が勝手に処罰するのは問題では?(キリッ)』。】


「おー、似てる似てる。」


「は、恥ずかしいのでやめてくれませんか!?」



琴音さんをからかいながら夕飯の支度を終え、また美味しい食事を食べて今日を終えた。




ーーー




月曜日



「えー、また転校生を紹介します。喜べー、メリア・ニアットさんだ。」


「おぉ!めっちゃかわいい!」「すげぇ、どこの国の人!?」「彼氏いる!?」



・・・オロロロロロロロ



あまりに急ピッチで迫ってくる死の予感に吐き気を感じながら、皆から黄色い声援を受けているメリアを見る。


ニッコリとした自然に見える笑みを浮かべた彼女は鶴山に後ろの席を紹介されて歩いていく。よくある漫画のテンプレよろしく、俺の隣の席じゃなくてよかったよ。ま、空いてないけどさ。


てかおかしいだろ、急に学校に現れたのが灰円を含めて3人目だぞ? なんか普通に違和感感じてくるだろ。俺だけか?


朝のHRが終わり、鶴山が出ていくとメリアは多くの生徒に囲まれる。赤兎のときと同じだな、てかお前も混じってんのかよ。


まぁコミュ力高そうだもんね。

俺と違ってクラス中の全員と仲良さそうだし。



どういうつもりなのか相手の真意がわからずそっと様子を窺うと、バッチリと目が合ってしまった。相手はニコリと笑って軽く会釈する。それが俺には獲物を狙う笑みに見えて身震いした。



「なんか最近新しく来る人多いね。」


「・・・・・・・そやね。」



悠に何か言われたが、それどころじゃなくて返事は適当になる。


どうやって逃げようか、今から頭を回し続ける。




・・・・・。

・・・・。

・・・。



その日、俺は一切教室から抜け出さなかった。


昼休みも悠に買い出しを頼んで珍しく教室で食べ、できるだけ人混みから離れないように意識する。普段気づいたらいなくなってる奴がずっといるものだからクラスメイトから視線を感じて気まずい。



「ーーそれで終わりがまさかの無理やりなハッピーエンドでさー、確かにバッドエンドじゃなくていいと言えばいいんだけど無理やりすぎると逆にモヤモヤしない?」


「まぁ今までの流れを壊してまでハッピーにはしなくてもいいかもな。・・・てかお前、俺と飯食ってていのか?」



俺が珍しく教室で食べていると、悠も珍しく付き合ってくれる。


悠は俺と違って友達も多いしめっちゃモテる。

おかげで俺は今も教室の外から知らない女子に怨嗟の目を向けられていた。


それを一瞥しながら悠はコーラを飲む。



「んー、珍しく湊が教室にいるし、たまには経験値稼ごうかなって。」


「俺をメタルスライムか何かと勘違いしてんの?」


「似たようなものでしょ、逃げ足が速くて適当な群れに紛れても孤立してるところとかそっくりだね。」


「よし、あとで泣かす。」


「悪いけど君の弱みなら嫌なほど知ってるよ?」


「すみませんでした。」



付き合いで言えば同じなのに握られてる弱みは悠のほうが圧倒的に多いのは納得いかない。


あ、俺がだらしないのが悪いんだね。

すみませんでした。



「それにしてもニアットさんは人気だねー。」


「それはまぁ、目を引くだろうな。愛想も良さそうだし。」



見た感じメリアは上手くほかの生徒たちに馴染んでいる。

あのなかに急に割って入って「コイツってエクソシストなんだよー。」って言ったらどうなるかな?うん、俺に向けられる視線が悲しいものになるだけだね。



「・・・・・興味あるの?」


「はぁ?俺が誰に?」


「ニアットさん、やけにチラチラ見てるからさー。」



ニヤニヤとからかってくる悠を無視する。

確かに少し意識しすぎかもしれない。変に見すぎても怪しいし、変な邪推されそうだ。


今のところ特に接触もされてないし気にしすぎかな?


そう思って立ち上がり一人トイレに行く。


ぬぼーっと小を終わらせて手を洗っていると、、、



「やっと一人になりましたね。」



鏡に映る金髪に腰を抜かしそうになった。



「ここ男子トイレだが?」


「知ってるけど?」



・・・あ、知ってたんだ。



おかしいな、男子トイレって女子も入っていいの? いつから常識って変わったんだろ、ちゃんと通知してくれないかな。



「人呼んでいい?」


「いいけど、私は連れ込まれたって叫ぶ。」


「クソ卑怯だし、自覚してたぁ。」



まさか男子トイレで脅されるとは、くっそ、女子トイレじゃないのに不利なのか、、、!



「・・・まぁいいや、個室はあっちだ。好きに使ってくれ。」


「いやトイレが用事なわけないじゃない。」


「ここトイレなのにぃ、、、。」



さて、冗談もほどほどに逃げ道を探すかな。

ここは3階、窓は小窓が一つ、あまり開かないタイプだが蹴り飛ばせばなんとかなるかも。


もう一つは普通にこいつを躱して外に出る。


うん、多分無理、相手専門家だし相手になる気がしない。



「これ、何だと思う?」



メリアはそう言って懐から小さな小指ほどの小瓶を取り出した。

勿論そんなのに心当たりないので眉をひそめる。



「『吸気の呪瓶』、これの蓋を緩めた状態で人の名を記録させます。そしてこの蓋を開けると、名を覚えた人間の生気を吸い取り命を奪います。」



その言葉に俺は驚き、徐々に怒りに顔を歪めていく。



「おまえ、転校生の立場を利用しやがったな?」


「ふふっ、皆自分から名前を教えてくださるから助かりました。」



俺のなかのスイッチがきり替わる。


こいつは敵だ、ぶつからなくっちゃならない、打ち負かさないといけない相手だ。


もう人質は取られてる、逃げ場はない。



「・・・では、交渉を始めましょうか。」




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