看病
ーー狂餓鬼との戦いから3日後。
俺は部屋の自室で熱を測っていた。
ーーpipipipipi
「・・・39度5分、全然下がらねぇじゃん。」
あの狂餓鬼との戦いから帰ったら俺は玄関で倒れ、そのまま気絶したように眠ってしまったらしい。
琴音さんが慌てながらも必死にベットまで運んで看病してくれたらしく、なんとか無事に昨日起きれたのだが、身体がだるすぎてまともに動けなかった。
結局昨日も寝たきりで1日を終え、ようやく容態は安定したのだが、それでもまだ熱は下がっていない。
俺はため息をつきながら体温計をしまって、横に置いといてもらっていたポ◯リを口に含む。
「・・・なんで鬼なのに熱が出るんだよ。」
【狂餓鬼との戦いでの無理が祟ったのじゃろう。体が破壊と再生でぐちゃぐちゃになり、無理にもとに戻した反動が来ているのじゃ。・・・完治にはもう少しかかろう。】
俺のベットの横にちょこんとヨルが顎を置いてそう言った。まぁ死ななかっだけましだけどさ、、、。
俺はもう一度ベッドに横になってため息をついた。
するとガチャッと居間のドアが開けられる。
「・・・あ、湊さん。体調は大丈夫ですか?」
いつもの見慣れた着物にエプロンを着けた琴音さんが心配そうに入ってきた。
俺は雑に体温計を見せながらそこまで問題ないと返す。
「熱はあるけど昨日ほど悪くはない。頭の痛みも引いてきたしな。もうちょい寝れば治るだろ。」
「・・・良かったです。でも無理はなさらないでくださいね。39度5分は普通に体調不良です。」
どこかじっと詰めるように言われて俺は口を噤む。
そもそもな話、琴音さんにはだいぶ心配をかけてしまった。まず家に着いた途端に倒れてしまい、その時の琴音さんの慌てようは相当だったらしい。
なんとかヨルが落ち着かせ、病院に連れて行くわけにもいかないので2人で色々頑張ってくれたみたいだしね。
だから今は2人に頭が上がらないんだよなぁ。
「食欲はありますか? もし可能であれば食事をとってもらいたいのですが、、、。」
「あぁ、食べれそうだし貰えるか?」
「はい!」
俺が食べれそうだと言うと琴音さんは嬉しそうにキッチンに向かう。少ししたら湯気が立ち上るお粥とスープを持ってきてくれた。
それを臨時で置いてくれたベッド横のテーブルに載せて琴音さんはスープを持ってベッドに腰掛け、冷ましながらレンゲを口元に運んでくれる。
「はい、どうぞ。」
「・・・一人で食べれるぞ?」
「ダメですよ、熱がある状態だと溢しやすいですから。それに体調を崩したときは甘えるものだと夜那さんが言ってました。」
・・・夜那さんってめんどくさがりって言われてた割にはちゃんと使用人してたのね。
俺は気恥ずかしさで逆に熱が上がりそうなのを我慢しながらレンゲに口をつける。
体調を気にしてか、スープは薄味だが不味くはなく、優しい味がする。生姜とかが少し入っているのか食べ進めるとぽかぽかしてきた。
結構量があったので流石に完食は難しいと思ったのだが、人と違うからなのかご飯が美味しいからなのか余裕で食べ終わることができた。
お腹も膨れて疲れてるからか眠気がやってくる。
そのまま寝ようとしたが、琴音さんにストップを掛けられた。
「折角起き上がれましたし今のうちに体も拭いてしまいましょう。少し待っててくださいね。」
それだけ言って琴音さんは風呂場に向かう。
残された俺はしばらく無言で固まったあと思考が追いついてくる。
「・・・え、琴音さんの前で脱ぐの?」
【体を拭くのだから当然じゃろう。】
そりゃそうか、でも絶対自分で拭くからね?
婿入り前(?)の高校生を何だと思って、、、
まぁ、琴音さんの善意を無碍にするわけにもいかない。
戻ってきた琴音さんに自分で拭くと説明し、「私が拭きますよ?」と言われたが、「俺にも譲れないものはある。」と譲らない姿勢を見せると琴音さんは首を傾げながらも納得してくれた。
ーーゴシゴシ
「・・・なぁ、ヨル。狂餓鬼ってあんなに喚び出し方が複雑だろ? 例えばさ、出入口が判明した建物を封鎖して日道連が管理すれば二度と出てこないと思うんだが。」
【うむ、それが一番狂餓鬼に対して効果のある封印と言えるじゃろう。しかしな、出入口と言うのは知っておれば誰でも空けられるのじゃ。よく書物にもあろう、悪魔召喚や降霊術などそっちの類じゃよ。】
俺は体を拭きながら悩むように頭を揺らす。
「・・・なんか利点でもあるのか?」
【悪魔崇拝や邪教と言うのは昔からよくあるものじゃそこに関して深い理由などないじゃろ、ただ魅入られただけじゃ。だがまぁ、狂餓鬼に関しては過去『土地神』と崇められることはあったのぉ。】
「へぇ、なんで?」
【鬼に堕ちる前の話じゃよ。その神は己の命を対価に飢える民へ豊作と恵みを与えたのじゃ。神はだんだん自己が薄れていくのを感じながらもその村の民を豊かにすることに喜びを感じておった。しかしその豊作を疎んだ隣の村の民によってすべての命は奪われる。】
ヨルは浮かびながら淡々と説明するが俺は、胸糞の悪い話に眉をしかめた。
一度俺の脳裏によぎった光景、、、あれはもしかしたら狂餓鬼に堕ちる前の最後の景色だったのか?
【その神は復讐に憑かれ、そして鬼へと堕ちる。狂餓鬼と名を変え、隣村の者どもの食物をすべて腐らせ、お互いに傷つけ合うよう仕向けたと言われておるのじゃ。それからは己の存在を異界へと閉じ込め、簡易的な封印としたのじゃが、もはや自己の意識は残っとらん。喚び出されれば能力だけを行使するただの化け物じゃ。】
「そんでその力を利用されて、敵対する組織でも何でも真ん中で喚び出して同士討ちさせる事ができるってことか。」
【そういうことじゃ。】
・・・ほんと人間の欲深さはなぁ、いい面もあればクソみたいな方向に転ぶことも多いよね。
「・・・つまり自爆装置みたいに利用されてたわけね。」
【そういうことじゃ。召喚主も2人以上必要で初めに印を刻まれるからな。最終的に1人は必ず残るが、それ以外は皆、喰い合うからのぉ。】
あ、じゃあ1人は瀕死でも生き残るのか。
なら噂は広がるし恐怖や伝承が残るのも頷けるね。
「・・・ところでさっきから琴音さんは何してるの?」
俺とヨルが会話してる横で琴音さんは何故か顔を手で覆っていた。
薄っすら見える耳が真っ赤に染まっているけどなんで?
「い、いえ、そう言えば私、殿方の裸を見たことありませんでした。」
「・・・うん、体を拭くって言った時にその考えは浮かばなかったの?」
「きれいにしてあげないとって思ってただけなんですぅ。」
多分看病を意識し続けて思考の外にあったんだろうね。でもだったら脱ぎ始めたときに廊下に行っててくれても、、、なんで顔を隠すだけなの?あと目のあたり開いてるし、何の意味があるんだそれ。
流石にこんな手厚くしてもらっている手前、外に出ててくれなんて言えないけどさ。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
深夜、、、
ふと目を覚ました俺はまだ気怠い体にムチを入れながら起き上がる。体温計を取り出して熱を測ると36度5分と平熱まで下がっていたので明日は学校いけそうだな、とため息をついた。
思ったよりもちゃんと目が覚めてしまったので琴音さんを起こさないように気をつけながらそっとカーテンを空けて外を見、、、
「・・・は?」
なければよかった。
まるで体の中心がずれたように斜めの状態のスーツ姿の怪異が口から血を流しながらこっちを見ている。
俺はなんとか目が合わなかったことにしようとしたが、向こうがニヤリと笑った瞬間、吐きそうに口元を引きつらせてしまい、こちらが認識していると思わせてしまう。
【・・・何をやっとるたわけ。】
隣からひょこっとヨルが顔を出し、俺の隣であくびを漏らしている。同じように外を眺めて気味の悪い怪異を見てヨルは鼻で笑った。
【狂餓鬼を見た後じゃと可愛く見えるのぉ。】
・・・え、あんな首が折れ曲がってるようなやつが可愛いのか? 趣味悪くね?
【違うわたわけ、それよりもよいのか? あやつ、明らかにこちらを狙っておるぞ?】
「謝ったら許してくれない?」
【ヤツしだいじゃな。】
てか今横で琴音さんが寝てるし下手に騒ぎたくない。
窓の向こうで怪異が動き出したことに焦り、どうしようか必死に考える、、、が、、、
ーーズガンッ!
事態は急変する。
【・・・主、頭を下げておけ。見つかるなよ。】
突然、怪異の頭は光の剣のようなもので貫かれる。
頭を貫かれ、ふらつく怪異のそばにテンプレのようなシスター服を着た少女が降り立った。
暗いし顔もよく見えないが、手に月の光を反射する鎖を巻きつけ、手を振り下ろす。
すると怪異の頭上から再び光の剣が現れ、怪異を上から真っ二つに両断した。
「な、なんだ、あれ、、、。」
【・・・異人の対怪異組織じゃな。日道連は日本の対怪異の専門組織じゃが、異国には自分の国以外にも幅広く手を広げてるおる者たちがおる。】
えーと、つまりエクソシストとかそっちの話?
なるほど、つまり今怪異を祓って見せたあの人物は日道連ではないのか。
興味をそそられてジッと見つめてしまったのが悪かったのか。少女はチラリとこちらに視線を送り、バッチリ目が合ってしまった。
俺は「やべっ」と焦ったがすでに遅い。
彼女の青い目は確実にこちらを捉えている。
しかし、彼女はすぐに視線外して姿を消した。
「な、なんだ、問題ないじゃん。」
【ないわけ無いな、あとで絡まれると思うが頑張るのじゃよー。】
ヨルは興味なさげにそう言って姿を消した。
あとには冷や汗だくだくの俺だけがぽつんと残り、布団で眠る琴音さんの可愛い寝息だけが聞こえる。
「もう二度と夜中に外なんか見ないもん。」
俺は拗ねたように布団を被り直して目を瞑ったのだった、、、。
ーーー
「おはよー、あと1日休めば土日だったのに休まなかったんだ?」
「・・・琴音さんに迷惑がかかるからな。」
「あっはっは! うまく更生させられてるね。」
うざったく絡んでくる悠に「うるせえよ。」とだけ返して俺は机に肘をついてペンをくるくる回す。
正直、俺も休みたかった。別に琴音さんも許してくれるとは思うけど、微妙な顔されそうなんだよなー。
それに灰円とかに状況も聞きたいしね。
「・・・ふっ、これでようやく安泰だな。」
「波乱とかあった?」
「こっちの話。」
俺は得意げな笑みを浮かべながら午前の授業を乗り切り(キモいと先生には怒られました。)、昼休みにいつもの屋上へと向かった。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「おめでとう、お前さんは即処刑対象から厳格警戒対象に昇格だ。」
「あんまり変わってねえじゃん!」
「いきなり命を狙われなくなっただけマシだろ。」
楽しそうに笑いながらタバコを吹かしながらそう言う灰円をぶん殴りたい気持ちを抑える。心の中の鬼さんは【ぶん殴っちまえ!】と血気盛んだけど相手さん、実力高そうだし我慢してやるか。
「だがまぁ実際の話、連中も変に消す気はなくなったみたいだぜ? 鬼を喰らったお前さんを油断できない存在と認めたからだと思うがな。」
「・・・それって喜んでいいのか?」
「うらやましいっすよ! 自分なんて見向きもされてないんで!」
おう、あとで甘いものでも奢ってあげるからそんな悲しいこと言わないでくれ。
相変わらずいたたまれなくなることを元気に言う赤兎にそっと飴を渡すと喜んで口に含んだ。
ほんと素直だよなあ(泣)。
「てかお前さんも情けねぇな。鬼のくせに3日も寝込むなんてよ。赤兎なんか次の日も普通に学校来てたぞ。」
「え、ホントに人間?」
「生まれも育ちも人間っすよ!」
何回か狂餓鬼の攻撃が直に当たってた気がしたんだけど、頑丈すぎない?
俺なんかなんとか再生で食らいついただけなのにね。やっぱり日頃から訓練とかしてると違うのか。
「そう言や、お前普通に強くなかった? 初めて会ったときは簡単に無力化できちまってたからあれだけど、狂餓鬼にだいぶ善戦してたよな。」
「・・・そうっすか? 何とか生き残れただけで致命打も与えられてないし、役に立ってた気はしないっすけど。」
・・・なんかこいつの自己評価低すぎるな。
ぶっちゃけ今回の戦いは赤兎がいなければ普通に俺は狂餓鬼に喰われてたと思う。てかあれって術じゃないの? あれがただの技だって言われても納得できないかんな?
「術ってのは怪異に対して特攻の性能を宿す。それがなければ鬼に対しては有効打を与えるのが難しいからな。むしろお前がいないと詰んでたんじゃね?」
灰円はケラケラと笑いながら生徒を指さしていた。確かにこいつの言う通り、俺とヨルだけじゃ勝つのは難しかっただろうしね。
【・・・むぅ、喰い合いは得意だったのじゃがな。】
少し拗ねたようにヨルがポツリと漏らす。
なんか言葉だけ聞くと昔は大食いだった人の自慢みたいだよね。実際は言葉通りの相手と血肉を喰らい合う喰い合いだろうけどさ。
「でも本当に評価というか、印象はだいぶ変わったみたいですよー? 本山にせんにゅ、、、お邪魔したら厄介な奴みたいな話になってましたし。」
「・・・お前今潜入って言ったか? あと相変わらず背後に立つのやめてくれ。」
急に背後に現れたハナに驚きながらも、何とか冷静に返す。本当は心臓が吹っ飛びそうになったけど何とかヨルに太ももをつねってもらって何とか耐えた。
ハナは「ごめんねー。」と笑いながら俺たちの輪に加わるように座る。
「要は下手に手出しできなくなったって話ですよー。狂餓鬼相手に勝てる相手を倒すのは簡単じゃないから慎重に事を進めるんじゃないですかー?」
「あれ? 結局消そうとするのは変わらないの?」
「そりゃもちろんー。というかー、羽賀見に1回追い詰められてるのが響いてますよねー。」
・・・あー。
そっか、あの時はハナに助けてもらったからなんとかなったけど結構ギリギリだったもんね。
あれがなかったらもう少し警戒されてたのかな?
「・・・はぁ、まぁいいや。とりあえず、しばらくは安泰って考えておけ?」
「おーう、たぶんな。おれの言い分も通るようになったし、しばらくはな。ただ目の届かないところもあるしお前も警戒しとけ?」
うん、わかったよ。
もう何でもいいから適当に身を任せるわ。後はヨルと話し合いながらなんとかがんばろ、疲れたし。
「いやー、でもこれで安泰になるとか頑張ったなー。」
「あ、あと残りの怪異もなんとか対処してくれよー? そうすれば平穏も手に入んぞー。」
うっせえ、もう1年はあんなの相手にしたくないわ。もうよほど巻き込まれない限り絶対にこっちから何かしようなんて思わねぇからな!
「・・・たくよ、昨日は怪異を祓う変なシスターと目が合うしで、災難続きだな。」
「「「・・・シスター?」」」
思わず漏らしてしまった呟きを全員に拾われてしまった。俺は「あっ」と口を抑えたが手遅れ、ヨルは面倒くさそうな展開になると思い手を振りながら影に潜る。
「・・・お前まさか、サンクチュアリの連中を見たのか?」
「さ、サンクチュアリってな、なに? 怖いんだけど、、、。」
「西方のカテドラルを拠点にするエクソシスト組織ですよー。日道連は怪異に対してできるだけ周囲に被害が出ないように気を使いますが、怪異を祓うためなら何でもござれの武闘派集団です。」
「何それこっわ。」
「じ、実際怖いっすよ。前に派遣された現場で怪異毎爆破されたっすからね。」
・・・怪異より怖いじゃん!
そんな過激派な組織がいんのかよ。
今までよく怪異とかが表沙汰にならなか、、、いや、噂になってる時点で仄めかされてはいるか。
「・・・はぁ、サンクチュアリの一員に姿見られたのか、頑張れよ。」
「待て待て待て、何を頑張るんだ。別に悪いことはしてないぞ?」
「ん? だって見られたんだろ?」
見られたけど目が合っただけだよ?それで絡んでくるとかチンピラじゃん。
「お前さん、気づいてないかもしれんが半分鬼になってる影響でヤバいことになってるらな。」
「ヤバいことって何!?」
「生命力が溢れ出てるって言うんですかね〜? 普通の人は人という器に生命力が満ちてるか、涸れてますけど湊さんは漏れ出てるんですよ〜。」
生命力が垂れ流しってことか、、、何か恥ずかしいね///
【言っとる場合か。】
おや、影の中から思わずツッコミが入ったぞ。
そのまま出てきて会話代わってくれ、疲れてきたから。
「あいつらは半人半鬼であっても手加減はしてこねぇ。ま、頑張って逃げ延びるんだな。」
「なるほどなー、つまり追ってくるのが日道連からカルト教団になったわけね。」
「サンクチュアリに聞かれたら拳を振り上げて殴りかかってきそうですねー。」
あんまりな展開に頭を抱えながら、また悩み事が増えたことに嘆く。
もうその後の帰り道は一切記憶になかった。




