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 森を駆け抜ける。吠え、荒ぶり、叫び、走り続ける。


「アリス! 少し飛ばしすぎじゃ……」


 大丈夫だキャロ! 何も問題ない!


「だがアリスよ、森には敵の魔物もいるから警戒を……」


 問題ねえって言ってんだろ!!


 木偶獣の群れが現れるモンスターたちを粉砕していく。オレは群れのスピードを緩めたりはしない。


 自身に回復魔法をかけ、体の疲労を癒しながら走り続ける。


 先頭はオレだ。迫る危険をいち早く察知する必要がある。


 少しでも早く戦闘の勘を、取り戻さなきゃならねえ。メテオとクーが動けない今、戦えるのはオレだけだ。

 精神を研ぎ澄ませ。音を、空気を、眼に映る物全てを洩らさずに感知しろ。


 走り続ける。大丈夫だ、何も問題はねえ。


 倒した魔物の力もオレに吸収されていく。着実に力を取り戻しつつある。


「アリス、カードが……!」


 キャロの持つカード。マッドハートに渡された物か。それが光を放っている、赤と黄色の光。


 まるで危険を知らせている様なーー。


 瞬間、オレの体が爆風に吹き飛ばされる。


 くそ! 敵か!? 意識を逸らしすぎたか!


 木偶ども散って逃げてろ! 敵は全部オレが、直接ぶっ倒す!


 爆風が森の木々を燃やし、炎上させていく。


「アリス!!」


 キャロ達の声が重なる。大丈夫だ、不意を突かれて吹っ飛ばされただけだ。結界で防いでたからダメージはねえ。


 炎の中を進む人型が現れる。


 全身を鋼鉄の鎧に身を包んだ様な、白銀の身体。


 人間……? だがおかしい。体が細すぎる。鎧じゃ無いのか?


 何だって良いさ。


 聖なる気を全身に滾らせて纏う。


 虎、違うもっと強い何か。どうせイメージ出来ないんなら目標地点を高くしろ。


 竜の姿。


 この際何でも良い。


 猛獣の牙、龍の爪、体躯はより強靭に。


 叫べ。力を込めろ。魔力を漲らせ、心を震わせろ。


 咆哮と共に聖なる波導が衝撃となって人型を吹き飛ばし、燃え盛る炎を消し飛ばす。


 聖合成獣、セイクリッドキメラ。


 禍々しく歪な姿ではあるが、放つ光は神々しい。不気味な外観だと自分でも思い笑ってしまう。


 来いよ金属ヤロー。これが今のオレの全力だ。


 消炎の煙の中からメタリックな人型が姿を現わす。

 こいつ……。まさかこの世界に、ファンタジーな世界にこんなのが登場するなんてな。


 だが問題はそこでは無い。吹き飛ばした筈の一体も傷一つ負っていないどころか、敵の数は五体……。勝てるのか……? いや、倒すしか無いんだ。


 いくぜ殺戮マシーンども。科学なオーバーテクノロジーと魔法のファンタジー。どっちが強えか勝負、しようぜ!!


 奴らへと駆け出し、先頭の一体に腕を振るい斬撃を喰らわせる。


 倒した一体へと牙で食らいつき、胴と脚を二分させる。


 大した事ねえな。おら次来いやぁ!


「アリス! 恐らくターミネイト帝国の尖兵だ。我らを排除しに来たのだろう」


 ちっ、何が機械帝国だ。パチモン野郎が!


 世界観ぶっ壊してんじゃねえ!!


 二体目、三体目と撃破していく。


 このまま終わらせる!


「敵勢力、戦闘データ、解析」

「解析完了、アップデート、実行」


 ゴチャゴチャうるせえ!!


 空気中の水分を圧縮、凝縮させて水刃を放つ。


 機械には水掛けときゃ何とかなるだろーが!


 だが奴らは水刃を躱す。


 刹那、体が吹き飛ばされる感覚。


 そして結界で守られている筈のオレ本体へと、ダメージが超過する。


 何だ……? 痛え……。くそ、痛みなんて久しぶりだ。体を動かせねえ。いや、体を動かす必要なんて無え。


 オレを覆ってる聖獣は魔法で動かしてる。自分で動かしてる気分になってるだけだ。反応速度を上げる為、オレが乗り込んでる様なもんだ。


 倒れるオレへと追撃の拳が飛んでくる。避ける事叶わず正面から受け止め、宙へと舞い上げられる。


 痛え……! 治癒をしねえと、痛みで集中力が分散する。


 ダメだ、クソ! 宙にいるオレに更なる追撃が襲い掛かる。


「アリス!! くっ、我の体さえ動けば……!」


 大丈夫だ、まだ動ける。


 オレはいくつもの聖結界を操作し、獣が動いてる様に見せてるだけだ。自身の肉体を動かさなくても、聖獣の体は動かせる。なら。


 空中で動ける!


 信じろオレ。オレなら出来る。集中しろ!


 豪腕を、竜の鉤爪を振るう。


 だがマシーンに容易く避けられてしまう。


 それでも牽制にはなった。奴らが避けた隙に体の向きを立て直す。


 オレはまだやれる。体だって、見た目なんか操作しやすいから固定してるだけだ。


 腕だって伸ばせる。貫け、届く、奴を斬る。


 叫び、マシーンへと爪を叩きつける。


 こっちに来やがれ! 一歩引いて眺めてんじゃねえ!!


 引き寄せ、牙で頭を噛み砕く。


 あと一体だ。とっとと終わりにしてやる。


 刹那、電子音が鳴る。


 はっ、機械が壊れちまったか? ならとっとと破壊してやるよ!!


 瞬間。周囲から音が消え去り、視界が赤に染まる。


 熱い。


 何だこれは……? 何が起きている。炎? 火に包まれている? そんな物問題じゃない。オレの体は結界で防御されている。

 多少の熱さを通してもダメージを与える程にはならない。


 だがおかしい、体が動かない。


『アリスや、これは魔術だよ。炎で縛り付けられてるねぇ』


 お婆ちゃん……! くそ! 機械の癖に魔法も使うのかよ!

 恐らくさっき倒した四匹目が、自爆か何かで魔術を起動したってのか?


 ふざけやがって……!


 残った最後のマシーンが動き出す。だがそれはオレから遠ざかる様に歩く。


 動けず戦えないキャロたちを、奴は狙っている。


 木偶ども、逃げろ!!


 マシーンが腕から火炎を放つ。打ち出された炎の螺旋が木偶獣もろともにキャロたちを包み込む。


 クソが、動け、動きやがれ! オレの体、炎の拘束くらい解きやがれ!!


 だが祈りは届く事は無く、炎が徐々にオレの結界を削り取っていく。


 キャロたちを包んだ炎が消える。大丈夫だ、木偶が壊れた感覚は無い。


 だが炎が消えた場所は、木の燃えかすの跡形も無く焼滅していた。


 思考が空白に飲まれる。


 何だ……? 何が起きた? オレの作り出した眷属が燃やされた感覚は無い。


 だが動かすべき木偶が何処にもいない。


 そして乗っていた筈のキャロもメテオもクーも、その姿を消している。


 何故だ……?


 そこまで考えて思考が追い付き、疑問の答えに辿り着く。


 奴に、殺された……?


 既に仲間を殺したマシーンがオレの元へ近付いて来る。


 ぶっ壊す、ぶっ壊してやる。お前の国諸共に滅ぼしてやる。


 絶叫。森中に響き渡る様な叫び。


 だがその叫びによって救われる事は無い。


 拘束を破ることすら出来ないオレに、火炎の渦が迫る。


 ふざけんなよ……。オレは諦めねえ。諦めねえぞ!!


 圧倒的な熱量が全身を包み込んだ。

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