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竜化したメテオの背に乗り、北へ向けて走る。
オレとクーとキャロ、大した重量じゃない。だがスピードが中々乗らない。馬よりも遅い程度だ。
いくらかの食料と地図、その他旅に必要そうな物を町で買い込み、オレたちはハピアの家を後にした。
彼女の家にあったバッグが空間魔術の施された魔道具なおかげで重量も然程変わらない。
その上で遅い。オレたちはこんなノンビリしている場合じゃないのに……!
「わん(メテオ、遅いぞ)」
『文句があるなら降りろ』
「わふっ(なんで飛ばないんだよ)」
『魔力が無いから飛べないのだ』
羽は飾りかよ!
『飾りだぞ、まあ滑空くらいなら出来るがな。それかアリスが飛行魔法か浮遊魔法が使えれば良いんだがな』
心読むなよ! 結局オレ頼みかよ。飛行とか浮遊とかイマイチピンと来ない。
何だ? 何を操作して飛ぶんだ? 無属性魔法とかも凄いわかりづらい。何だ、何エネルギーなんだ?
前に一度だけ風魔法の応用かと思い、適当にやってはみた。だがロケットの様にかっ飛んで行き、安全な飛行とは程遠い何かだった。
「まあまあ、メテオも頑張ってるんだから」
「ちゅん!(そうよアリス、それにメテオがバテたら次はアンタの番なんだから!)」
それを言われると肩身が狭い。不安だ。
この数ヶ月、聖獣化なんて全くやっていない。出来るのか? だがやらなければ……、出来なければハピアを救うなんて夢のまた夢だ。
オレたちは森の中を進む。そんな中メテオが口を開く。
『おい、敵だ。魔物の気配を感じる』
おいメテオ、鈍ったんじゃ無いのか? 気配も匂いも音も何も感じないぞ。
「ちゅんちゅん!(鈍ったのはアリスよ! もう囲まれてる。五匹はいるわよ)」
何……だと……!? ショックだ……。オレ本当に勇者だよな? 何か補正は残ってないのか? レベル1どころかマイナスまで落ちちゃって無いか?
だがそんな事を考えてる場合じゃない。どうする……? とにかく結界を張ってキャロを防御だ。
『キャロ、お主は我にしがみ付いてれば良い。アリス、クー。我が近くの一匹に攻撃したら残りを一斉に狙え』
あ、あぁ! 任せろ!
瞬間、メテオが加速する。そして右前方に潜む影へと前脚の爪を振るう。
潜んでいたのはオーク、豚の頭を持つ巨大な人型。だがその体はやや細身で俊敏そうに見える。そして纏う黒装束と短剣。
オークアサシンと言ったところか。
オレはメテオの背から飛び退き、後方へと風刃を乱舞させる。敵の位置がわからねえ以上、乱れ撃つしかあるまい。
クーは飛び立ち、上方から的確に雷を落とす。周囲に土煙が舞う。
オレたち三匹は陣形を取り構える。それぞれが背中を守れる様に。
以前までなら今の一撃で、五匹程度なら瞬殺なのだが。魔法の突風で土煙を晴らし、視界を確保する。
現れる、いや。視界に映る七人の魔物の姿。
『我の方にも三匹おるな。どうやら攻撃したのも仕留め損ねた様じゃ』
おい、クー。お前が言った倍はいるじゃねーか! 勘が鈍いのはお前もじゃんか!
「ちゅん!(良いから目の前の敵に集中しなさい! キャロの防御、解くんじゃないわよ)」
そんなこと百も承知だ、だがマズイな。鈍っているとはいえメテオの不意打ちも効かず、オレたちの攻撃も奴らを倒す程に至らなかった。
メテオ、クー! 全力で行くぞ!!
聖獣化だ。身体に聖なる障壁を纏わせる。二重、三重、幾重にも重ね合わせてその強度を増やす。
そして獣の姿を形取る。
クーが雷を纏い飛翔する。自身を矢の如くオークの身体へと撃ち込んで行く。
メテオが身体を回転させ尻尾を振るい、爪で敵を切り裂いていく。
オレも負けてられない。腕を振るい、オークへと襲い掛かる。
だがオレの一撃を受け、平然とする奴らはオレの体を跳ね飛ばしていく。
な……!? 効いていない……だと……!? そんなにもオレの力は弱まっているのか?
キャロがオレの身を案じて叫んでいる。
それを聞いたメテオとクーがオレの援護へと回る。
『アリス!? 大丈夫なのか!?』
あぁ、吹き飛ばされたが。結界で体を覆っている。ダメージは無い。
「ちゅんちゅん!(いや、その体どうしたの!?)」
何だ? 何を言っているんだ?
メテオが迫るオークを牽制しながら言葉を続ける。
『アリス……。お主、体が丸いぞ……!』
ハァ!? 喧嘩売ってんのか! わかってるよ! その上で頑張ってんだろうが!!
オレは立ち上がりオークへの攻撃を続ける。だがやはりオレの攻撃を奴らは易々と受け止め、跳ね返していく。
くそ、なんでだ。何故オレの牙が、爪が奴らに届かない!?
「ちゅん(あんた……。それ、何の獣?)」
クーまで戦闘中に何を言ってるんだ! 虎だよ虎! いつも使ってただろ!
『ほほ、アリスちゃん可愛いねぇ。まるで大きな狸さんみたいじゃよ』
え……? お婆ちゃん、何を言って……?
オレは思わず動きが止まってしまう。その隙を突いてオークがオレへと襲い掛かるが、障壁がそれを許さない。
何だ……? 何が起きているんだ!?
その後、オークという低級魔物約十匹との戦闘が、小一時間ほど続いた……。
オレたちは地に倒れ込む。周囲には返り血と肉片が飛び散っている。
オークアサシン達の亡骸だ。
倒れ込むオレたちに負傷は無い。だが全身の疲労が只事では無い。
『我ら、こんなに弱かったか?』
メテオがポツリと呟く。それにはオレも同感だ、いくら堕落していたとは言え酷すぎる。
「ちゅん(私もメテオも魔力落ちちゃったからね……)」
そう。彼女たちは本来死んでいたかもしれない身だ。オレから分離して復活しただけでも奇跡だ。
だがオレの弱さは何だ? あれほど必殺に据えていた聖獣化すら満足に使えなかった。
たしかにオレのイメージ力不足はあると思う。爪とか牙とかボヤァ〜っとした丸っこい何かだった。
今思えばスピードもそれほど出ていなかった様に思う。
「わん(オレたち……、ハピアを救えるのかな……?)」
思わず弱音を吐いてしまう。
「ほほ〜! お困りの様ですねぇ〜!」
突如、聞き慣れた甲高い笑い声が聞こえてくる。
あぁ、今絶対に顔を合わせたく無い相手だ。だが疲れもあり、オレたちは微動だにせず奴の二の句を待った。




