魔族の勇者
銃声が鳴る。緑光の輝きが迫る。
撃たれた。オレはここで死ぬ。
ハピアの父と同じように。
オレが死んだら瞳に棲むお婆ちゃんはどうなるんだろうか。
ハピア、すまない。守ってやれなかった。
キャロ、救えなくて本当にごめん。
皆、オレの強さが足りないばかりに。
凶弾が胸を貫く。
風穴から沸き出る血液。そして吐血。
痛みは感じない。ただ熱い様な、何か冷たい物が胸を伝い落ちる様な感覚。
意識が朦朧とする感覚。
王が笑っている。
恨みや憎さよりも、諦めの気持ちが心を占める。
終わってしまったんだな……。
結局オレは、何も……、何一つ成し得る事が出来なかった。
ちくしょう……。あの時、王の言葉に耳を貸さなければ……。何を言われたって、戦いの最中に心を乱すなんて、許されない事なのに……。
ちくしょう……。
ハピアが王へと向かっていく。
叫びと共に剣撃を振るい、純黒の瞳に涙を浮かべている。
ハピア……、今までありがとう。
お前のおかげで、オレは何度も救われた。
本当にありがとう。
『諦めるでない! 犬の子よ!』
メテオ? けどもう体が……。
ごめんな。オレと融合してるせいで、お前まで巻き添えに……。
ハピアの剣が、魔術が、王へと襲い掛かる。
『融合を解除する』
メテオ、本当にすまない。オレのせいで死なせてしまった。
王はハピアの攻撃を一つ一つ丁寧に防御する。遊んでいるかの様だ。最早実力差がありすぎる。
『謝る必要など無い。我がやりたくてやった事よ』
そう言って貰えると……、助かる。
ハピアの体が王に蹴り飛ばされる。これが、元伯爵令嬢と現王の力の差……。
オレなんかが敵う筈も無かった。
『我が傷を引き受ける。お主は奴を倒せ』
メテオ……? 何を言って……。
オレには奴を倒すほどの力なんて無い。それに傷を引き受けて、お前はどうする?
お前が戦った方が良い筈だ。
地に倒れるハピアへと、王が詰め寄る。
『買い被りすぎだ、犬の子よ。お主は魔族の勇者なのだろう? ならお主が、あの愚王を倒せ』
メテオ! それは魔族が勝手に言ってるだけだ! オレはそんな凄いもんじゃないんだ!
オレがそう思うや否や、メテオの体から弾き出される感覚。同時に胸を流れる血の感覚が消えていく。
オレの中からメテオが消えていく。
いや、違う。残っている。メテオの魔力が。
『我の魔力、お主に預けよう。存分に使うが良い。魔族の勇者よ』
メテオ……、お前……!
オレは立ち上がり、咆哮する。
かつて感じた事の無いほどの迸る力で。
「魔物が……!? まだこんな力を!!」
王が驚愕してオレを見つめる。
熱い。圧倒的な熱さ。
心が震える。魂が燃え滾る。
重なれ炎。連なれ決意。オレは、勝つ!!
王を倒すんだ、オレも王の姿を手に入れてやる。
獅子の姿。炎を纏う百獣の王。
メテオ、お前の意志は無駄にはしねえ。
滾れ火竜の翼。炎の羽撃きが熱を生む。
オレの体を炎が包む。より熱く、より強靭に。
自身をも燃やす。自分その物を炎へと変質させる。
更なる咆哮が、灼火を解き放つ。
炎獣化、獅子竜王。
燃える炎が、王を討つ! 行くぜ、王野郎!
奴へと突進する。
作戦なんて無え。力任せでぶっ飛ばす!
「真正面から向かって来るなんて、せっかくの力が泣いているよ。とても愚かだ」
王が邪剣と化したジェネシスを振るう。あの剣に斬られれば力を奪われる。
だがオレの攻撃は王の体を撥ね飛ばし、宙へと舞い上げる。
そんなもん知らねえ! 奪い尽くせるもんなら奪ってみやがれ! 全身を炎と化したオレに、剣なんて効いてたまるかよ。
宙を舞う奴へとオレは追撃する。二度、三度、五度、幾たびも幾たびも奴を攻撃し、焦熱させていく。
王が苦痛に呻き声を上げる。
効いている。このままーー。
突如王の姿が視界から消える。
『後ろですわ!』
それを聞いて横っ跳びにオレは飛ぶ。
直後に過ぎ去る弾道。
こいつ、超速移動からのミスリルの銃撃を……!
侮れねえ。そして疑問に思う。
こいつの速さは脚による移動じゃないのか?
轟雷鳥であるクーの片翼を手に入れ、空中での機動力を手に入れた王。
だが手に入れてすぐの翼を使いこなし、その羽で目に見えない程の高速移動をするなんて……。
燃えていた王の炎が、早くも鎮火している。
「ハピア嬢ォ! 余計な口を挟むなんて随分と無粋じゃないか! 君らしくも無い」
再び王の銃口が向けられる。
だが王の口調からも冷静さが失われつつある。火傷による痛みのせいか? 焦っているのか?
いずれにせよ勝機が見え始めた事に変わりはない。
オレは縦横無尽に駆け、飛翔して奴の照準を撹乱しようとする。
だが奴の目は確実にオレを追っていく。
そして、引き金に手が掛かる。
刹那、響き渡る金属音。
ハピアの剣撃が王の持つ銃身を弾く。
軌道の逸れた弾丸はオレの頭上を掠めていく。
「王陛下、お言葉ですが貴方に私の何がお分かりで?」
銃身を弾かれ、体勢を崩す王をハピアは見逃さない。そのまま流れる様に追撃していく。
オレはそれに加勢する様に炎の礫を、火球を、炎弾を撃ち込んでいく。
勝てる、オレたちは勝てる。
皆の意志が、オレを後押しする。
ハピアの剣とオレの爪、二人の一撃が王の防御を超えて、奴の体を吹き飛ばした。




