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黒銃

 オレが彼女と出会ったのはまだとても弱かった頃。


 彼女の美しさに目を奪われた。


 オレはよく泣いていた。


 オレが辛い思いをして苦しんでいる時、彼女はいつも側にいてくれた。


 彼女といる時間は幸せだった。


 オレはやがて成長し、彼女と過ごす時間も少しずつ減っていった。


 それでも、オレと彼女はお互いにパートナーだった。


 オレと彼女は親友だ。


 辛い時や苦しい時、楽しい時もずっと一緒にいたんだ。


 だから、これからも。




 オレを呼ぶ声がする。


 オレは意識を目覚めさせる。


 オレは……。虎の魔物に殺されそうになって、銃声が聞こえて……。


 思い出す。そして気付く。


 意識がある。体の痛みが消えている。視界が眩しい。目を開けることが出来ない。なんだかとても良い匂いがして、暖かい。


 天に召される直前なんだろうか。


 オレを呼ぶ声。


 ハピアか。どうやらオレは死ぬみたいだ。


 お婆ちゃんごめん。キャロを助けてあげられなかったよ。


『何言ってるんだい?アリス』


 お婆ちゃん、オレはここまでだ。本当にごめん。


『アリス、いい加減に目を覚ましたらどうですの?』


 ハピア。すまない……。だがとても気持ちが良いんだ。まるで聖母に包まれているかの様な。


『でしょうね。アリス好みの女生徒が貴方を治癒してますもの』


 …………え?


 オレは目を開く。眩しさにも慣れた様で朧げながら目の前が認識できる。


 オレを抱き治癒魔法を施す少女。

 蜂蜜色のおさげ髪をした優しげな表情。まるで天使が具現化したかの様な存在。

 治癒魔法の幻想的な光も相まって、今にも背中から白い翼を広げそうだ。


 可愛い。


『起きたのならば離れなさい』


 いや、まだ体が万全じゃない気がする。


『離れなさい!』


 はい。


 オレは天使の腕から渋々脱するとトコトコとハピアの元へ歩く。

 周囲を見回すと学園生徒が大勢いる。そして漆黒の虎達の亡骸が無惨にもまだ残されていた。


 だがそんな事は最早どうでも良い。今のオレには過ぎ去った危機よりも大事な事がある。


 何故ならオレはハピアの言いつけを破り学園に遊びに来てしまった。ならばオレが彼女に取るべき行動、それは。


「わん♪(てへっ、来ちゃった)」


 ハピアはオレを一撫で、その目には優しさが溢れている。


『帰ったらお説教ですわよ』


 ちくしょおおぉぉ!!


 ダメか! 今のは許されたと思ったけど周囲の奴らに対するポーズか! くぅぅ、上げて落とすとは……。


 オレが後悔し項垂れ、ハピアが回復してくれた天使や周囲の人々に礼を告げていくと人集りが穴を開けた様に道が出来る。


 モーゼの十戒みたいだ。何だろう、誰か偉い人でも来るのか?

 魔獣と戦った可愛いらしい仔犬の勇気を評して勲章を授与する、的な。


 やがて人混みを割って現れる男。


 なびく白髪。スマートな体型。大きな切れ長の瞳は研ぎ澄まされ、全てを見透かすかのようだ。


 誰だこのイケメンは。


「目が覚めたかい?仔犬くん」


 イケメンがオレの前足を取る。


 うお! 何だこいつは!? 王子様か、王子様なのか!? それとも何処ぞの騎士団長の子息か何かか!? いずれにせよオレにフラグを建てようと思っても無駄だぞ! オレは男だからな! 体は雌だが。


『何を言ってらっしゃるんですの。王太子は貴方の命の恩人ですわよ?』


 何? やっぱり王子様なのか。そしてその言葉を聞いて思い出す。瀕死のオレが見た光景。


 瞬速の剣士、圧倒的な強さ、そして銃声。


 てっきり三発も撃ったからオレも魔物認定されて撃たれたもんだと思ってしまった。


「わんわん!(紛らわしく銃なんて使うなよ)」


 オレは王子に注意するが全く意に介さずに微笑みを浮かべている。


「命を救って頂いたのに申し訳ございませんわシン王子。この子は銃を見慣れていないものですから貴方が珍しい様ですわ」


 む、そうか。命の恩人に悪いことをしてしまった。

 そーいえば銃とか初めて見たな。剣と魔法のファンタジーに銃なんててっきり無いもんだと思っていたが。


 ハピアがそう告げるとシン様が懐から銃を取り出し見せつけてくる。


「ふふ、ハピア嬢。王子はやめてくれ、私と君の仲じゃないか。仔犬くんはこいつに興味があるのかい?」


 うおぉおおぉぉ!! かっちょいい! 何だこの銃! 銃なんて全然興味ないがカッコイイ!

 拳銃にしてはやや大きいが、黒光りする銃身に装飾がついてめっちゃオシャレだ!

 オートマチックタイプな形状をして随分と未来的だがそれも良いだろう! とにかくカッコ良い!

 思わず尻尾を振ってしまう。


『見るとこはそこですの……?』


 おぉ〜、すまん。ついテンションが上がってしまった。

 オレの喜びを見た王子が嬉しそうに銃をよく見せてくれる。


「これは我が王家の秘宝クラウソラス。この良さがわかるなんて君は賢いね」


 そう言ってニコリと微笑む。


 トゥンク。とはならんがこの王子わかっている! オレの賢さがわかるとは!

 さすが命の恩人! あの強さも王子なら納得だし、王子ともなると見る目があるんだな!


「そんな事ありませんわ。貴方に助けて頂かなければこの子は死んでいましたもの。学園には来るなと言いましたのに」


 何だと!? せっかくのオレへの褒め言葉を勝手に返上するとは何事だ!


「それほどでも無いよ。私がいなくてもハピア嬢、君でもあの魔獣二匹くらい何とかなった筈さ」


 おぉ、王子も認める強さ。ハピアさん流石だな。


「ですが助けたのは貴方ですわ。何か御礼をしなければなりません」


 強情だなぁ。それより沢山動いて魔法使って死にかけたからお腹空いたよ。何かご飯行こう?


「何度も言うが私と君の仲だ。君の使い魔を救う事くらい気にする程の事じゃないさ」


 ん? さっきも言ってたけど王子様とハピアの仲って何だ? そして周りの生徒たちが二人のことメッチャ見てるけど場所変えない?


『彼、シン・リュミエール王太子は私の婚約者ですわ』


 えええぇえぇぇぇ!? 婚約者? ハピアと王子様が? なんで? 強いから!? 強いからなのか!!


「いえ、御礼無しと言う訳にはいきませんわ。伯爵令嬢としての誇りがありますもの」


 驚愕するオレを無視して話を進めていく。

 えぇ〜。シンさんはすっかり大人な美青年だけどハピアお子様じゃん。絶対釣り合わないよ、小さいし。


「ふむ、そうかい?ではこうしよう!私と一つ手合わせ願いたい!」


「その決闘受けて立ちますわ!」


 でええぇええぇぇ!?!? 何故そうなる!? 強いからか! 強いからだな!?


 オレは脳筋なご主人様と未来の旦那様を見守って、開いた口が塞がらなかった。

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