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誇り高き少女

 剣の打ち合う音が響く。


 止む事の無い音色が美しい音楽の様に周囲の人々を魅了する。


 時折稲妻が閃き水飛沫が跳び剣舞を彩る。


 ハピアとデイター侯爵が戦う姿に会場の誰もが目を離せない。


『ハピアちゃんは強いねぇ』


 お婆ちゃんの言う通りだ。だがデイターも負けていないまるでハピアの次の動きが解っているかの如く、先を読み剣撃を繰り出していく。


 やはりまだ少女であるハピアとは経験が違うのだろうか。


 しかしハピアも全く引かない。


 彼女は経験の差を埋めるかの様に次々と魔術を繰り出してデイターを追い詰めていく。


 だがハピアの動きが少しおかしい。普段より遅いというか鈍いというか……。

 もしかして相手が偉い人だから遠慮しているのだろうか。

 気を使っての事なんだろうが手加減なんてしたらバレた時に大変じゃないのか?


「いやぁ、イリシウスのお嬢さんの剣技、魔術共に素晴らしい。ですが私には貴方の次の動きも読めていますよ。突きと共に火炎を纏う確率88パーセントです」


「恐縮致しますわ。ですが戦いの最中に余りお喋りをするのは危険でしてよ」


 戦う最中に喋る余裕もあるのか。 オレなら絶対にやらないな。 まぁ命懸けって訳じゃないから良いのか? けど攻撃当たっちゃったら結構危なそうだけど……。 この世界の強い人間は身体も丈夫なんだろうな。 うん。


「ちゅんちゅん(アンタの主人どんどん動き鈍ってない?疲れちゃったのかしら)」


「わんわん(そんな訳無いだろ。手加減してるだけさ)」


 そしてオレは新たな家族となる鳥、クーに説明してやる。


 ハピアの強さ優しさ可憐さ素晴らしさを。


 彼女はオレがこの世界に生まれた時からオレを見守ってきた。


 オレがどんな目に遭い自分を見失った時も見捨てなかった彼女。


 魔物の大群に囲まれ瀕死のオレを何日も走り続けて助けに来た彼女。


 オレが愛するキャロを救いたいという意を汲んで日々努力する彼女。


「ちゅんちゅん(もうアンタんとこの御主人が素晴らしいのはわかったから、目の前の戦いに集中なさい。滅多に見れるもんじゃ無いわよ)」


 それもそうだな。たしかにハピアと渡り合える人間なんて滅多に見たことが無い。

 今彼女は普通の剣を使っているがそれでもデイター侯爵の強さには目を見張る物がある。

 剣術だけならハピアは既にパパさんを超えているらしい。

 そのハピアが手加減しているとはいえデイター侯爵、彼は中々の強者だろう。


 こんなに人間が強い世界で恐れられる魔物や魔族って一体何なんだ。つくづく勢いでシスターの魔族のとこへ乗り込まなくて良かったと思う。


「ふふふ、ハピア令嬢よ。動きが鈍くなってきましたね。連戦でお疲れだったでしょうか?」


「余計な……。お世話ですわ!」


 ハピアの剣を易々と弾きながらデイターが悠然と告げる。


 アレ? ハピアの奴マジで疲れてんの? いくら何でも鈍すぎる。 おかしいな。 ハピアはあれだけ屋敷から離れたオレの元まで走り続ける体力があると言うのに。


「ちゅんちゅん(あの様子だとデイターの奴。本当にやっちゃったのねー)」


 クーが呆れた様に羽をパタパタさせて呟く。


「わん(何の話だ?)」


「ちゅんちゅちゅん(私を連れてる時に聞いたのよ。デイター侯爵家の名を売るためにイリシウスの御令嬢を叩きのめそうって話)」


「わんわん(それが何だってんだ?社交界ってそーゆー場だから別に良いだろ?)」


「ちゅんちゅん(アンタわかんないの?デイターはあの子を倒す為に使用人に命じたのよ。痺れ薬を盛る様にって)」


 は?痺れ薬?そんな物いつ盛ったと言うんだ。パーティの食事には会場の全員が手を付けているしオレだって食べた。

 けど全然何とも無いぞ?


「ちゅん(バカねー。彼女だけが飲んだ物があるじゃない。ワインよ)」


 オレはその言葉を聞いてハッとする。

 え!ズルじゃん!何だそれ汚い!何故先に言わない!


「ちゅん(言おうとしたらもう飲むとこだったんだもの)」


 くそっ!ハピア、こんな勝負まじめにやる事ない!無効だぞ!


『そうは言っても証明出来なければ意味がありません。それにその程度でイリシウスの娘である私が負ける訳にはいきません』


 おいおいおい!何言っちゃってるんだよ!実際に痺れ薬効いちゃってるじゃん!


『私を信じなさい!』


 そうは言っても……。そうだ!あのワインだ!ワインを証拠として出せば良い!

 そうすれば勝負は無効になるし卑怯者のデイターも諦める筈だ!


「ちゅん(それならさっき使用人が魔法で燃やしてたわよ)」


 ちくしょおおぉぉ!!

 そうだよね!魔法使えるんだもんね!証拠なんて残さないよね!


「ふふ、ハピア嬢よ。腕が痺れますか?まぁ大方、道端の毒団子でも拾い食いしたのでしょう?食い意地のはったご令嬢ですね」


 クソがああぁぁ!!

 そんな訳ねーだろ!どこの世界の令嬢がその辺に落ちてる物食うんだよ!

 てかもう痺れるとか何とか自分で言ってんじゃねーよ!


「拾い食いなんて……、ずっと昔に卒業しましたわ」


 あんのかよ!拾い食いした事!!どんだけ飢えてたんだよ!!ハピアさん貴族の御令嬢だよね!?


 オレがそんな阿保みたいな事にツッコミを言っている間にもデイターの剣がハピアを追い詰めていく。


 まずい……!


 剣光が閃く。


 そして金属の落ちる軽い音。


 ハピアの剣が卑怯者に弾き飛ばされた。


 デイターが剣をハピアの胸元へと突き付ける。


「これでお終いですか。イリシウス剣術も大した事はありませんねぇ」


 デイターが勝ち誇った笑みを浮かべる。


「それはどうでしょう?まだ私には魔術がありますわ」


 おいバカ!ここで負けを認めて置けば良いだろ!煽ってどーすんだよ!!


 デイターが顔を歪め手に持つ剣を振りかぶる。


 おいおい!トドメ刺すつもりか?こんな公の場で!?


『決闘中の事故って事になるだろうねぇ』


 はぁ!?マジかよお婆ちゃん!!


 そしてオレの考える間もなく掲げた剣は振り下ろされた。

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