社交界デビュー
社交界。
王族、貴族、上流階級の名家の人々が集い交流する場。
そしてこの世界の王は強い。
爵位のある貴族も例外ではなく、強い。
社交界では知的で洗練された会話や振る舞いをする事が求められる。
故に貴族は踊る。
血湧き肉躍る戦いの舞踏。
そんな戦いの場を人々は呼ぶ。
武闘会と。
オレはそんな社交界。デイター侯爵主催のパーティに参加している。
会場のあちこちで剣閃が舞い、魔法が飛び交っている。
その会場をオレは新しい友達と共に死んだ目で見つめる。
「わんわん(社交界は華やかな物だと思ったんだけどなぁ)」
「ちゅんちゅん(一体どんな夢を見てたのよ。貴族どもは皆強いんだから力を誇示する為に戦うのは当然よ?)」
オレの隣にある鳥籠の中でちゅんちゅん鳴く雀。いや、雀じゃなかったな。そう言って先ほど電撃を浴びせられたところだ。
もちろん守護の結界で防いだが。
彼女……、彼女は雷鳥のクー。雷を出すことの出来る鳥で珍しい魔物らしい。
「わん(なんか嫌な予感はしてたけどココまでは予想してなかったなぁ)」
オレはハピアを見つめている。
そして彼女と同じくらいの年の少女がハピアと剣戟の応酬を繰り広げている。
今ハピアが使っているのはごくごく普通のレイピア だ。伝説の剣なんて持ってきたら屋敷が吹き飛んでしまう。一人だけ伝説の剣使うなんて不公平だしな。
「わんわん(あんなか弱そうな御令嬢も強いんだなぁ)」
「ちゅん(アンタの飼い主の方がよっぽど強いじゃないの。ホントに社交界を知らないのね)」
そう、ハピアは強い。だがそれは剣術の名家だからとばかり思っていた。まさか貴族だから強いだなんて思うまい。
少なくとも日本で生まれ育ったオレが上流階級の社交界に抱いてた憧れはこんな物じゃない。
『まぁまぁ、良いじゃないか。コレはコレでアリスのお勉強になるんじゃないかぇ』
お婆ちゃん……。そうは言ってもなぁ……。
今ならパパさんママさんの心配も納得できる。これは怪我するなって方が無茶な注文なのではないかと思えるほどに。
最初来た時はこんなだとは思わなかった。
麗しい御令嬢たちが列をなしてオレを可愛い可愛いってチヤホヤしたし、ダンディなおじ様や若いイケメン達が流麗な所作で挨拶を交わしていた。
しかし主催であるデイター侯爵の挨拶が終わるや否や今の現状である。
しかも今回のMVPには賞品も出るとか言うもんだから参加貴族の目もやる気に満ち溢れている。
「ちゅんちゅん(参加したお陰で私と仲良くなれたんだからもっと喜んだらどうなの?)」
賞品がオレに何か生意気な事を言ってくる。
そう。今回のMVP賞はこの珍しい雀だ。デイター侯爵がどこからか取り寄せたお高い鳥さん。
「わんわん(どうせ仲良くなったって誰の家の子になるか判らないじゃないか)」
「ちゅん(あら、それならわかるわ。アンタのとこの御令嬢。あの子とんでもない強さよ。伯爵令嬢の身なのにウチの侯爵よりも強いかも。だってーー)」
そう言い終わる前にハピアが少女を風の混じった火炎で吹き飛ばし勝利を収める。
そして会場を静寂が包み、やがて盛大な拍手が鳴り響く。
そんな中ハピアに近付く男の姿。
七三分けの黒髪にワックスを付けたカイゼル髭。キラリと光る銀縁眼鏡が知性を感じさせる。男は黒い正装に身を包み胸元には赤い蝶ネクタイがついている。
彼はピエール、ではなくパーティの主催であるデイター侯爵だ。
蝶ネクタイか。オレはふわふわフェミニンなドレスにリボンを付けているが蝶ネクタイもクールだな。
そんな彼がハピアを拍手で称えながら近付いていく。
その彼の後ろには執事らしき人がワインボトルとグラスを携えて歩いている。
「おめでとうございます。イリシウス伯爵のご息女。まあ、私は貴方が勝利する確率が百パーセントだと疑っていませんでしたが」
デイター侯爵はそう言って執事に合図を送る。
執事が素早くグラスにワインを注ぎハピアとデイターへと渡す。
「デイター侯爵自らの祝辞。ありがたく頂戴致しますわ」
ハピアとデイター侯爵がワインを口へと含む。ハピアは未成年の筈だが良いんだろうか。まあ世界も国も違うし別に良いのか。
ハピアがワインを飲んだのを見るとデイター侯爵が微笑む。
「ところでハピア令嬢よ。私は貴方の百パーセント素晴らしい剣技に感銘を受けた。よろしければ私と手合わせ頂きたい」
え?デイターさん侯爵自らが伯爵令嬢に勝負持ち掛けんの?侯爵なんて伯爵より地位上じゃん。ズルくない?
『よろしいんですのよ。イリシウス家が伯爵の身分なのは強すぎるからですわ。
元から強いイリシウス家が伯爵より上の身分になっては王をも倒せる力を持ってしまう。
それでは秩序が崩れてしまうので伯爵の地位に置く事で抑止しているのです。
ですから私でも侯爵と渡り合う力は十分にありますわ』
マジか……。ハピアん家ってそんなに強いんだ……。
そうだよな、ハピアが使ってた剣も伝説の剣らしいし。そんなもん持ってる伯爵家って何だよ!とか思ったがそういう訳だったのか。
「ちゅんちゅん(戦うのは良いけどアタシはいつ籠から出して貰えるのかしら)」
目の前の対決以上に、新しく家族になる生意気な鳥を見てオレは嘆息するのだった。
こんなのと一緒にいられる気がしねぇ……。




