18
黒雲が稲妻を轟かせる。
舞い上がる炎が、メテオから放たれる剣撃が雷を伴い、オレへと襲い掛かる。
水刃と大地の盾を操り、オレは攻撃を防ぐ。
くそ! もう一度聖獣化だ。この弱い体じゃ攻撃を捌くのにも限界がある。
だが集中して魔力を練ってる暇が無え……!
「わんわん!!(メテオ! 目を覚ましやがれ!!)」
メテオの剣を受け止めながら叫ぶが、攻撃は緩む事無く襲い来る。
「いえいえ〜、これがトカゲさんの本性ですよ〜。むしろ今までが、あなたに誑かされていたのです」
ハートは語りかけるばかりで、攻撃には加わって来ない。
お前は黙りやがれ!! 余裕のつもりか? オレがメテオに負けると思うのか?
「あぁ、勝てるとも。竜である我が、獣風情に負ける筈があるまい」
くそ……! メテオの奴、完全に敵になっちまってる……!
このままじゃジリ貧だ。メテオが敵になった動揺で、聖獣化さえ解いてなかったら……!
「聖獣化していたら勝てると言うのか?」
剣を振るいながらメテオが呟く。
「わんわん(弱体化して操られる程度のお前の頭を、冷やす程度は出来るだろうな)」
告げて風の刃を投げつける、だがそれは容易く剣に弾かれる。
「ならば全力で来るが良い。準備が出来るまで何時間でも待ってやろう」
舐めた事を言いやがる。これもハートに操られた影響か……? 正気に戻ったらぶっ飛ばしてやる。
「わんわん!!(なら、お望み通り全力出してやるよ!!)」
魔力を練り上げ、全身に青を纏う。
馬鹿メテオが、何が聖獣化だ。頭良いくせに抜けてんだよ!
炎使いますよタイプなお前相手に、誰が聖獣化なんぞ使うか。
操るのは水の力。纏う聖水、荒ぶる奔流。
九水狐泡沫。効果は抜群だ……!!
「ふん。小狡い手を」
黙ってろ。お前倒したらハート倒して、すぐ正気に戻してやる。
「やって見るが良い」
メテオが剣を構え、雷炎を迸らせる。
九尾の水狐と化したオレが尾を広げる。
刹那。水牢がメテオを包囲。
奴の全身を水で覆い拘束する。
「わんわん!(そこでしばらく頭を冷やしやがれ!!)」
告げてメテオの横を過ぎ去り、ハートへと突撃する。
だがそれは叶わず、尾を掴まれる。
「焦っておるのか? そんなお粗末な魔法で我を止められると……?」
振り返るとメテオの周囲を蒸気が覆い、凄まじい熱風が吹き荒れる。
あぁ、蒸発させやがったか。ならもっと、冷やしてやるよ!!
再びメテオの全身を水が覆う。そして一瞬の内にそれらが蒸発する。
「何度やっても同じ事だ!!」
聞く耳持たん!!
緩める事なく上から水を掛け続ける。
「このまま魔力が尽きるまで続けるつもりか? スタミナ勝負とは随分と知恵の無い行動だな」
言ってろ!!
オレは操作する魔力を緩めたりはしない。
瞬間。雷が閃き、水狐の体に稲妻が直撃する。
「愚か者め。我はクーと合体しているから雷魔法も自由自在、安直な水獣化は失敗だったな」
剣を構え、メテオが淡々と告げる。
水は電気を通す。そんな感じの知識はコッチにもあったんだな。
電力なんて何処に……。まぁターミネイト帝国の機械とかあるんだから、無い物じゃないか……。
カオスな世界観だな。
そう考えながらも、メテオに向けて更なる水の奔流を、滝を注いでいく。
周囲に充満する蒸気。
「グッ……!? まだ止めないという事は躱したか!? だが水など無駄だと言っているだろう!!」
湯気で視界が効かないメテオが四方へと雷を放出させる。
「わんわん(なあ、物理科学って知ってるか?)」
「何だ! 何を言っている!!」
声目掛け、メテオが雷を落とす。
だがオレは躱さない。
「わん(お前なら知ってるかもって不安だったが、この世界にそんな知識は無いらしいな)」
「何が言いたい!!」
メテオの叫び。同時に放たれる雷、燃え上がる炎。
そして、爆炎がメテオの体に襲い掛かる。奴の叫びが苦痛の呻きへと変化する。
「わんわん(オレは勉強は得意じゃないんだけどな、こーゆー面白知識は聞きかじってんだよ)」
「何を……、言っている……!」
息も絶え絶えにメテオが問う。片膝をつき、剣を軸に体を支えている。
流石に人型で爆発食らったら無事じゃねえか。爆心地アイツだもんな、オレは水に包まれてるから無事だが。
「わんわん(水蒸気爆発って奴だ、炎使うなら覚えとけ。今後役に立つ)」
ドッヤアァァァァ!!
あぁー、きもちぃー。普段偉そうに語るメテオに意趣返しするの楽しいー。
「ほう……。それは……、御指導痛み入るな」
なんだ、減らず口だな。とりあえず爆発のショック程度じゃ洗脳は解けないか。
「だが爆煙も湯気も無い今、我らの雷を回避する事は出来まい。これで終わりだ!!」
メテオが右腕をかざし、雷をその腕に滾らせる。
当たれば倒せるってか? 良いぜ、来いよ。
「我の前から消え去れアリス!!」
叫びと共に周囲が光に包まれる。
放出される稲妻。
魔力によって生み出された雷が、先ほどとは段違いの威力を見せてくる。
だがオレは避けない。
水の盾を構築し、前方へと展開させる。
「偉そうに知識を語っておいて水の盾とはな! 炎と読み違えたか!!」
メテオ、オレが読み違える事なんてあったか?
……まあ、早とちりは多いかもな。それとオレが魔法の選択ミスしてる時は大体お婆ちゃんのせいだ。
閃光が収まり、煙が立ち上る。
「わんわん(水は電気を通しやすい。それを知ってる奴は多い)」
更なる知識を語り出す。
そしてその声を聞いてメテオが驚愕する。
「な……!? まだ無事だと言うのか!?」
「わん(だが混じりっけ無しの純度百パーセントの水は、絶縁体になって電気を通さない。らしいぜ?)」
結局小難しいとこは全部魔法だ。だがその知識を知っていたからこそイメージ出来た。
電気を通す事の無い水。それを心から信じて生み出した魔法が、メテオの力を完封した。
「馬鹿な……!? 我が、竜である我が……。
人との絆も断ち切り、雷鳥の力にも縋り、勇者の剣を手に入れ、魔族に心を委ねてまで……。
そこまで力を増幅させた我は、アリスの足下にも及ばぬと言うのか……!? あまつさえ知識でも我が遅れを取るだと!?」
お、おう。何か凄いパワーアップしてるな。けどハートなんかに惑わされたのは良くなかったな。
「我は……、弱い自分が許せなかった……。すまない、アリスすまない」
正気を取り戻したのか……?
メテオの魔力も限界に近い、全身に負った傷で動く事も辛い筈だ。
瀕死の状態まで追い込んでようやく解ける洗脳なのか?
「私は貴方の事を理解していますよ〜。トカゲさん」
考え、動きを止めるオレとメテオの間にハートが割って入る。
「わんわん(今さら何のつもりだ! もうメテオはお前に操られたりしねえ!!)」
叫びと共にハートへと聖水の爪を振るう。だがそれはハートの瘴気に阻まれる。
闇の力が腕を形取り、オレの腕を食い止める。
「あぁ〜。とても弱く臆病なトカゲさん。主人に捨てられ、ダンジョンの奥地で一人きり〜」
ハートがメテオへと忍び寄り、肩に触れる。
くそ! メテオ、奴の言葉に耳を貸すな!!
九尾を振るって攻撃を仕掛ける。だが闇の霧は更に量を増し、メテオとハートを包み込んでいく。
「悲劇的ですねぇ〜。いつか主人と再会する夢を見て、深き眠りに就いた哀れな魔物〜」
ハート達を包む闇の結界へとオレは攻撃を続けていく。
何故だ? 何故ハートが、メテオの過去を知っている。
「あなたの本当の姿〜。小さく弱いトカゲさん。主人を守る為に強い身体を欲し、手に入れた〜」
まるで詩を読む様に、妖艶な声が告げていく。
悠々と語る奴とは裏腹に、オレは攻撃を加速させる。だがハートの結界が破れる気配はない。
くそ! 何でだよ! ここまで強くなったオレの力でも、ハートを超えられないってのかよ!?
「けど御主人様は〜、人間は恐怖した。強くなった貴方を。火竜と化したトカゲを恐れ、迫害した。さぞ悲しかった事でしょう〜」
オレすら聞かされていない、メテオの過去の話なのか……?
「ですが、もう心配はいりませんよ〜? 人との共存などと、所詮は妄想だったのですから〜。あのワンちゃんの妄言、虚言、ただの戯言〜。
貴方は魔族である私と共にいるべきなのですよ〜」
ふざけんじゃねえ! メテオはオレの、オレとキャロの友情を信じたんだ! あいつが夢見た幻想をオレに見出し、それを掴む為に決意したんだよ!!
オレとハピアの絆の強さを、闘いを通して知ったんだ!!
あの時オレに手を貸したメテオが、そんな言葉で惑わされるかよ!!
だがオレの叫びは打ち砕かれる。
メテオの否定の言葉によって。
「おぉぉ、ハート様……。我は貴方と共に行こう。人間は共存する者ではない。人は、魔の者に支配されるべき存在」
その言葉と共に漆黒の結界が消え去り、メテオとハートが姿を現す。
漆黒の炎を揺蕩わせるメテオ。髪には闇色が混じり、雷の翼は黒雲を思わせる色に染まっている。
瞬間。メテオが剣を下げて駆け出す。
返し斬り。それだけが認識出来た。
そう思った時には既にオレの体が吹き飛ばされていた。
何だ……!? 速え……、強え……! さっきまでとは比べ物にならねえ……。
「ふふふ。素晴らしい力だ」
メテオが満足そうに笑みを浮かべる。
メテオ……? 本当にハートの、あんな言葉で騙されちまったのか……? そんなに強さが欲しかったのか?
「えぇ、えぇ〜。それこそが人との決別を新たにした貴方の、本当の力ですよ〜」
ハートがオレを見て嘲笑する。
オレが悪かったのか……? お前の事悪く言いすぎちまったのか……?
「ハート様。我に力を与えてくれた事、感謝致します」
メテオが跪き、ハートに礼を取る。
メテオ……。謝るよ、オレが悪かったから……。そんな事するなよ……。
「いえいえ〜。私は貴方の力を引き出しただけですから〜」
「有り難いお言葉です、真なる我が主。あの獣は如何致しましょう?」
メテオがオレを見る。いや、見下して微笑んでいる。
ちくしょう……。ちくしょう……!
ちくしょう!!
倒した気になってんじゃねえ!!
大地に向けて魔力を込める。
全力だ。小難しい事なんて抜きにして全力でブチかます!!
割れろ大地。あいつらを地の底に埋めてやる。
降り注げ岩石。ハートもメテオもぶっ飛ばす。
今のメテオなら死なねえだろ。後で地面掘り返して反省させてやる!
ハート!! そうやって仲間を奪えば、オレの心が折れるとでも思ったかよ!
ハピアを攫い、オレから遠ざけ、メテオを操り手駒にする。
ワンパターンなんだよ!! キャロを奪った時から何も変わってねえ!
そんな物に今更オレが惑わされるか!!
「わんわん!!(オレはお前を倒す!!)」
咆哮。そして想いに呼応して大地が割れ、ハートとメテオを地へと埋める。
無数の岩が降り注ぎ、奴らの動きを封じ込めていく。
高めろ魔力。込めろ想い。ハートをこの世から消し去るんだ!!
聖剣。極大の聖剣を創造する。天を突くほどの刃。
この全力の一撃で終わらせてやる。
瞬間。魔力を解き放って振り下ろす。
同時。オレの体を貫く衝撃。激痛。
何だ……!? ハートもメテオも、確かに動きは封じた筈……。一体誰が……!?
急ぎその場を飛び退き、振り返る。傷は痛えが問題無え、すぐに回復出来る。
そう考えるオレの目に映る者。
夢だと疑ってしまいそうな光景。
悪夢。オレの前にいる存在は、悪い夢だと信じたい物。
麦色の金髪、瞳は血を思わせる闇の赫に染まる。そして手に握られた紅の闇剣。
「アリス……、アリス……」
キャロ……、もうハートに惑わされないんじゃ、無かったのかよ……?




