33・朝の目覚め、もしくは独りよがりな暴走
出来不出来は別として、この手の話をもう一回書けと言われても正直しんどい(苦笑)
うつらうつらと微睡んでいると、左腕の自由が利かない事に気付いた。
昨晩の事をゆるゆると思い出そうとするのだがうまくいかない。そして後頭部や首がズキズキと痛むのだ。
右手で確認するとたんこぶが出来ており、何時ぶつけたか記憶を探るが、やはりうまくいかない。
ゆっくり目を開けると空ではなく、天井が見える。
野宿じゃない、実家に帰ってきたんだ。あぁ、ばあさまの秘密工房か。なんでこんな所で毛布一枚で寝ているんだろう。
右を見るとソファがあった。当然左も確認する。
その瞬間、一気に血流が加速し頭が覚醒し、反射的に顔をそむける。
そこにあったのは、エステルの無防備な寝顔。
左腕の自由が利かないのは、彼女ががっちり抱き抱えているからだ。
状況がさっぱり理解できない。なんだこれわ。
血の巡りが良くなると言う事は、男の朝の生理現象がおきてしまう。
ナニがナニと言う事ではない、生理現象なので自分の意志でコントロールできないのだ。
「ぅぅ~ん…」
やめろえすてる、うでにかおをすりつけるな、やわらかいものをおしつけるな。あさのせいりげんしょうでは、なくなってしまう。
ゆっくりと腕が抜けないか力を加える……びくともしない。アレか、ぬいぐるみとか抱き締めないと寝れないヒトか。
そっとそっと彼女の腕や指を緩めていくのだが、ある程度緩むと”きゅ”っと抱きしめ直すのだ。勘弁してくれ。
そうこうしていると彼女が毛布を蹴飛ばした。どうやら暑くなってきたらしい。このまま毛布を手繰り寄せ、温度変化で目覚めて貰おう。
”くちゅん”可愛らしいくしゃみ一発、ついでに俺の腕を一瞬きつく抱き締める。
よし、もぞもぞし始めた、もうじき目覚めてくれるか?
ここは寝たふりの一択だ。
暫くすると再度腕がきゅっと抱き締められ、次の瞬間放り投げる様に左腕の拘束が無くなった。
何やらバサバサと激しい衣擦れの音がしたが、すぐに静かになる。
しばし聞き耳を立てていると、代わりに荒い鼻息が聞こえて来る。……音が、だんだん、近くなる。
薄眼を開けてみると、エステルの顔が目の前にあった。目をまん丸に見開き、顔が紅潮しており耳の先まで真っ赤だ。視線が…合った。
素早く飛び退った彼女をよそに、俺はあくまで寝ぼけたふりを続ける。
「ん゛ん゛ん゛~」彼女と反対方向へ寝返りを打ち、ついでに毛布を両手で抱え込む。
やべぇ、今なにかされそうになったか?!
★☆★☆
ぎゅ、っと抱きしめる。
いつもは頼りない感触なのに、今日は抱き締めるとしっかりした感触があり、いつもと違った安心感がある。
気付くと”それ”が腕の中から逃げようとする。無意識に胸元に抱いだき顔をすり寄せ感触を確かめる。
……なにやら少し暑くなってきて、足を振り回したら涼しくなった。
……”くちゅん”
今度は身体が冷えてくしゃみがでる。
頭が覚めはじめた。何度目になるか腕の中のものを抱きしめ、今度は深く息を吸い込む。
嗅ぎ慣れていない匂いに違和感を感じ、目が覚める。
目を見開く。
頭だけを動かし現状を確認。
隣、どころか私は彼の腕をがっちりホールド!
…ヴィリュークの腕を抱き枕代わりにしていただなんて!?彼の腕を放り出し、一気に後退る。
自分の心臓の鼓動が聞こえるほど激しい。耳が、いや顔が暑い。
くぅぅぅ、落ち着け自分!こういう時は深呼吸だ。
ひっひっふぅ、ひっひっふぅ……なんか違う。
すうぅぅぅ、はあぁぁぁ……これっぽい。
落ち着け~落ち着け……この呼吸で間違いない。
すうぅぅぅ、はあぁぁぁ……
じりじりと彼ににじり寄る。彼の安らかな眠りを邪魔してはいけない。
すうぅぅぅ、はあぁぁぁ……
くっ、我ながら呼吸が荒い。心を落ち着けなければ。
……
……
……よし。
こーほー、こーほー……
ゆっくりと歩を進める。
ゆっくりと近づく。
ゆっくりとにじり寄る。
音を立ててはいけない。
”こ゛~ほ~こ゛~ほ~”
うん、呼吸音は致し方ないわ。
よく見るとまつ毛が長い……。そのせいか、瞳が大きく見えるのよね。
じっと見つめる。
赤い発疹を見つけてしまった……それも二ヶ所……
初めに額のど真ん中に、うっすらと見つけてしまった。……”想い”
つっと視線を下に……
あごの窪みに……額より濃い赤い発疹……”想われ”
くっ、よく見ようと身体がにじり寄っていく。
くっ、こんなもの女の子の迷信にすぎないわ。
くっ、しっかり確認しようと身体が前のめりになっていく。
彼の顔が近い、ほんわりとした表情だ。
彼の顔が近い、半開きの唇から目が逸らせない。
彼の顔が近い、……気付くと薄目ではあるが彼の視線が私と交差した。
!!?!
反射的に飛び退る。
心臓の鼓動が激しい。耳が、顔が暑い。
……しかし彼の反応は薄い。うねり声をあげ、ごろりと寝返りを打っただけであった。
私は、私は、私は……
ごろごろと身悶えている。て、照れてなんかないわ!そもそも何で私が彼に対して照れなければいけないの?!
”はぁぁぁぁ……”彼が長く息を吐き、ゆっくりと上体を起こす。
寝ぼけているのだろうか、そのまま動かない……と思ったら頭をかきながら、じゅうたんから手拭いを引っ張り出した。
のそりと歩きはじめた彼は、私の前を通り過ぎようとして初めて私に気付いたようだ。
「ぉはょー」半眼でまだしっかり目覚めてないのか、声も覚束ない。
「おはよう……」うつむき気味で挨拶を返す。
”パンッ”両手で自分の頬を張り、しゃっきりする。なによ、一人であれこれ考えてばかみたい。意識しすぎだわ。
ふと彼を見やると魔法陣の上に立ってこっちを見ていた。
「外出るけど、乗らないのか?」上を指さしながら言ってくる。
「乗る!乗るわよ!」陣の起動くらい出来るが便乗させてもらおう。
飛び乗って振り返ると、いつの間にか現れた精霊二人がにっこり笑って手を振っていた。
ぎゃー、全部見られていた!顔から火が出そう、恥ずかしいっ。
母屋まで戻り、彼は井戸へ私は自室へ戻るため別れた。
途中、食堂を覗くと師匠がお茶を淹れている所だった。
「おはようございます、師匠」
「おはようエステル」
師匠はニヤニヤ笑いながら更に続ける。
「昨夜はお楽しみでしたね。いや今朝と言うべきかな?」
「いやあぁぁぁ~~っ!」
全速力で逃げ出す、逃げてどうなる訳でもないのだけれども逃げた。
精霊二人に見られているんだ、師匠に筒抜けなのは当たり前じゃない。
どうしよう、恥ずかしくて朝ご飯の支度にいけない。
もうワンシーン書きたかったのですが、遅筆のせいでタイムアップ。
評価とか感想とか頂けたらと思うのですが、逆に怖いと思っているチキンっぷりです。
お読みいただきありがとうございます。




