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エルフ、砂に生きる  作者: 初荷(ウイニィ)
本編

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32/202

32・長い夜、強制終了

誰かに髪を撫でられている。感触を確かめるように。


耳たぶも揉まれた。そこからするりと耳の先端を撫でられる。


顔の輪郭を確かめるように撫でられる。そして指先で額の髪を掃われ、また髪を撫でる作業に戻る。




目が覚めるとじゅうたんに寝かされており、そこには覗き込む顔一つ。俺の髪を撫でていたが目が合うと止めてしまう。


先程の女性だ。服は……着ていた。ノースリーブのワンピースからのぞく腕には余計な脂肪はなく、薄っすらと筋肉がういている。


「ばあさま、ヴィリュークが目をさました。ヴィリューク、だいじょうぶか」


「首が痛い……君は?」


たしっ


指先で額を小突かれた。


「わたしよ、わからないの?」


真っ直ぐに見つめられ視線が外せないでいると、視界の端に動くものがあるのに気付いた。そこでようやく視線を動かすことができ、”それ”が確認できた。


彼女のスカートの裾から、二本の尻尾がゆったりとたなびいている。


「サミィ?」


彼女は黙って微笑み、今度は頬を手のひらでするりと撫でると、ソファへ戻っていった。




「あー、その、やりすぎた。ごめん」


声のする方を向くと、申し訳なさそうにチラチラと視線を投げてくるエステルがいた。


「もうちょっとやり方があったんじゃないか?」痛む首をさすりながら睨め付ける。


「だから謝ってるんじゃない!大体女の裸をまじまじと見るだなんて失礼よ!」


「……すまん」


「彼女に謝りなさいよ」


起き上がった俺はのろのろとソファへ向かう。




ソファは満席だった。


精霊二人とばあさま、そしてサミィで一杯である。


「起きて大丈夫なの?ヴィリューク」


「ちょっと良いのを一発もらっちまったが、大丈夫。それより何を話していたんだ?」


「何って、取り敢えず自己紹介となんでこうなったか考察かな?それより、なんでこんな面白いことを黙ってるの!」


俺はため息をついて返す。


「ヒトの秘密をべらべら喋る訳にいかないじゃないか。それに面白いだなんて悪趣味だぞ」


「失敬な!知的好奇心が騒いでいるだけです」




そんな俺たちをよそに、精霊二人はサミィの二本の尻尾に興味津々みたいだ。


スカートの中を緩やかにうねっている尻尾は、時折裾から顔を覗かせる。しかも淡く魔力光を発しているのか、スカート越しにもうねっている様子が分かる。


スカートの裾から尻尾が長く伸びる。二人はそーーっと手を伸ばし触れようとした瞬間、持ち主から声がかかり身体が固まってしまう。


「ねぇ」


「……」

「……」


「優しく撫でるなら許してあげるわ。もし、ぞんざいな扱いをしてみなさい、その時は」


「その時は?」

「その時は?」


「家の内から外まで」

びくっ


「樹の根元から枝の先まで」

びくっ


「仲間を呼んで本気の爪とぎしてあげるわ」


「!!?!かあさま!」

「!!?!かあさま!」


「サミィ、そんなに脅さないで。あなたに興味があるだけなの」


「……それならこっちの姿の方がいいんじゃないの?」


ぷるりと身を震わせた次の瞬間、ヒトの身は掻き消えソファの上に服の塊が落ちた。ギョッとして見やると服がもぞもぞ動き出す。


”なぁーぅ”


そっとワンピースの首元を広げると、その穴がら見知ったネコの姿が出てきた。違うところと言えば尻尾が二本生えている所だろうか。


『この姿なら撫でてもいいわ。尻尾を掴んじゃダメよ。ヴィリューク、ブラシ出して』


精霊二人が目をキラキラさせている。精霊も小動物とか好きなのだろうか?それともヒトの少女を模倣しているだけなのか?難しいことはよくわからん。取り敢えずブラシを出して渡してやる。


『骨に直接あてないで、痛いわ』


サミィの感想を聞きながら精霊たちはブラッシングをしていく。単に世話好きなのかもしれない。






「で、ばあさま。なにか分かった?」


「結論、サミィはネコマタである」


「師匠、はしょりすぎです」流石に弟子も突っ込まざるを得ない。


「冗談よ。初めて見た時から違和感はあったわ。ハッキリとおかしいと思ったのは撫でた時ね。ネコにしては魔力が高い。けど悪意を感じる訳でもなし、何かが化けている訳でもないって分かったからほっといたの」


「そんな悠長な」


「敵意を持って接すれば敵意で返されるわ。買い物でもにっこり笑って接すればおまけして貰えるし、森で意図しない獣との遭遇があっても、お互いに敵意を表さなければ無用な争いも避けられるわ」


「でも、それが全てに当てはまるという訳では!」


弟子エステル、つっかかるなぁ。


「その辺にしとこう。空気が悪くなるし。それにエステル、このばあさまに限って遅れを取る筈がないじゃないか。想像もできないだろ」


「む、呼び捨て」


「そっちだって」


「……確かに師匠が先手を取られるとこなんかありえないし」


この話題はここまでで終わらせ、ばあさまに先を促うながす。




「全ての生き物には”化ける”可能性があるわ。当然条件もあるの。多くの魔力を吸収し、多くの魔力を身につける事」


「あ、サミィのこれまでの生活は聞いた?」


「聞いたわ。下地は出来上がっていたようね。(うつわ)と言った方が解り易いかしら。本来であれば更に年数をかけで(うつわ)を満たしていくのだけれども、ここにはお(あつら)え向きの場所があるの」


「……?……!、そうか、これ”蓋”じゃないか」


ソファの載っている台は紛れもなく、魔力の井戸の蓋であった。


「このソファは元々私の定位置だったの。疲れた時はよくこのソファで仮眠をしたわ。疲れが良く取れてねぇ……うん、当然なんだけど。回復した魔力でこの樹の成長促進(手入れ)もよくしたし、家の魔改造(手入れ)もよくやったわ」


「不穏な言葉があった気がするのは気のせいか?」

「私もそんな気がしたけど、気のせいかしら」




 ばあさまの独白は続く。


とまぁその当時の私は、相方と一緒にここを思う存分利用させてもらったわけ。相方?やぁねぇ、私一人でこれを作れるわけないじゃない。共同作業でなんとか完成させたのよ。


共同作業って言っても、そいつドワーフの女だから。若いころはそいつと良くやんちゃしたわぁ。そいつ、ここに暫く居候していたんだけど、暇に飽かして色々作っていたのよ。


あそこに扉あるじゃない、そう、鍵がかかってるあそこ。あいつの作った武器とかコレクションが入ってるのだけど、持って行ってほしかったわ。ここはあんたの家じゃないっての。


欲しかったら好き勝手に使え、ってさ……あいつ、嫌がらせの様に投擲武器ばっか作っていったのよ。弓矢はうちらエルフの十八番(おはこ)だけれどもね、せめて(やじり)を作っていきなさいっての。


鏃があれば、うちらもそれらを使って矢を作っていったのにね。


う、ん、?話が飛ぶわね。久しぶりだから、話したいことが溢れてくるわ。んー、ん?え、と、そう!あいつの武器とかはここで保管してるのだけど、魔力に晒されていることによってその性能が上がっていってるの。けれど、そもそもの性能すらピーキーだから弄りたくないわ。


ん?見たい?そのうちにね。


何の話だったかしら……


うん、サミィについてはそんなところね……


補完すると、サミィの変化はもっと応用が利くはずね。ネコからヒトへの変化時には、服を着た状態で変身できると聞いてるわ。文献によると、その気になれば容姿・年齢・性別、自由自在ね。


”そんな事言われたって無理よ”


そこら辺は慣れよ慣れ。練習なさい、羞恥心を覚える様になったら必死になるわ。後はヒトの習慣を勉強する事。あなたは二つの世界で生きられるの、可能性が広がったのよ。


初めに出会ったのがお人好し(うちの身内)で良かったわね。場合によっては見世物になってたかもしれないわ。





『やってみる』


サミィはソファから降り、蓋に直接立つ。


二本の尻尾が広がりひげが震えた瞬間、サミィはヒトに化けた。


服は……ない。四足で立っていたはずなのに、化けたら二本足で立っているとはこれ如何に。生まれた時の姿を晒しており、目の前に突き付けられて見るなと言われても無理である。


瞬間、俺はサミィから背を向けた。さも”始めから後ろを向いてましたよ~”という態でだ。


ぐ、視線が感じられる……きっとエステルだろう。


エステルの声が俺に投げ掛けられる。


「ヴィリューク」


「……なんだ」


「見た?」


「何をだ?」


「サミィちゃんの」


「サミィの?」


「お」


「お?」


「おしり」


「見てねぇぇぇ、大体後ろ向きじゃない……」あ、しまった。


「語るに落ちるたぁこの事だぁぁぁ」


「誘導尋問卑怯!それに不可抗力だ!」そのままダッシュで逃走を図る。


「問答無用!」背後に足音が迫る。


「そんなんだから、嫁の貰い手がいないんだよ!」


「言ってはならぬことを!!!!」


殺気が迫る。


頭を素早く左に振ると、右耳を足刀が掠めた。あぶねぇ、飛び蹴りかましてきやがった。


上手く避けられたと思った次の瞬間、俺の後頭部に強い衝撃が加わる。





★☆★☆






ワンピースを再度サミィに着させていると、エステルとヴィリュークがじゃれはじめた。


ヴィリュークが脱兎のごとく走る。


追いかけるエステル。一気に加速すると蹴り掛かった。……背中ではなく頭を狙うとは物騒な。


日ごろの訓練の賜物とは言え、状況をわきまえさせないと大けがしてからでは遅すぎる。今度言って聞かせないと。


あ、ヴィリューク、その避け方は駄目。勘だけで蹴りを避けたのは流石だが、相手が悪かった。反対の足の膝が後頭部を直撃……本日二回目の気絶とは不憫な。


二人が絡まる様に転げていく。あの当り方ならヴィリュークの背中に馬乗りになりそうなものなのに、バカ弟子が焦ってバランスを崩したか。


”パーーン”


……これ以上頭をぶつけてはまずいと思ったのだなぁ。頭を掻き抱いて守ったのは褒めてやるが、胸元に抱き締めた照れ隠しに意識のないヴィリュークへ平手打ちは可哀想だ。男耐性なさすぎだろう。


ソファに落ちていたブラシを拾い上げると、手首を利かせて投げる。


「エステル、その辺にしなさい!」


振り向いた弟子の頭にクリーンヒット!


『わたしのブラシ!!』


「ごめんごめん、大丈夫だからねサミィ」


エステルはヴィリュークの顔を胸の下敷きにして気絶していた。ラッキースケベなのに意識がないとは、我が孫ながら不憫。


ふと悪戯を思いついた。


精霊二人を手招きし、エステルをじゅうたんまで運ばせる。私はヴィリュークを運び、エステルの隣へ横たえる。


大きめの毛布を二人にかけてやると、精霊たちに程よい温度管理を指示し、照明を薄暗くさせた。


明日、先に目を覚ますのはどっちかしらねぇ、くふふ。


私はサミィを伴い、静かに部屋を後にした。





★☆★☆






そんなことも露知らず、俺は薄れゆく意識の中であることに気付いた。


漏れ出た魔力のお蔭で、精霊になれた二人。


漏れ出た魔力で器を満たし、ヒトに化けられたサミィ。


漏れ出た魔力を長い年月その身に浴びているばあさまは、果たして未だエルフなのであろうか、と。

ある日のアクセス状況:携帯からのアクセスがPCを抜いて突出

更新5日後にブックマークが微増

新規で登録してくださった方は、拙作をどうやって見つけて下さったのでしょうか。

更新直後ならまだしも、不思議かつありがたいことです。私にはこの作品を見つけられませんでした。


お読みいただきありがとうございます。

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