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エルフ、砂に生きる  作者: 初荷(ウイニィ)
本編

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31/200

31・長い夜、秘密の場所にて

休みなのに健康診断です。先着順だそうで、早起きして行ってきます。

てことで初予約投稿です。

「こっちの深緑の髪がドライアド、黄緑の髪がブラウニーよ。実体化できるのはこの玄室の中だけだけど、大樹の周辺や家の周囲あたりまでなら会話は可能ね。二人はエステルの事を知っているけど、ちゃんとした挨拶はまだだったわね。さ、ご挨拶して」


ばあさまが精霊の二人の背を押す。少しもじもじしていたが、二人そろってエステルに挨拶する。


「初めまして、バカ弟子(エステル)さん。これからよろしくね」

「初めまして、ダメ弟子(エステル)さん。これからよろしくね」


「……こちらこそよろしく。……なぜかしら、非常に悪意のある挨拶をされた気がするわ」


「ある意味、ばあさまの娘だからな。親のもの言いを、子供が真似するのはよくあることさ」


ん?といった表情で考え込むエステルさん。


「むぅ、師匠にバカ弟子言われるのは仕方ないけど、それ以外の人に言われるのは不愉快だわ!二人とも、私の事はエステルお姉さんと呼びなさい。だだのお姉さんでもいいわよ!」


「あら、私の方が年上よ。おねえちゃんと呼んでいいわよ」

「あら、私の方が年上よ。おねえさまと呼んでもよくてよ」


「!!?!師匠ぉ!」


「あ~、年で言うと彼女らはうちの娘より年下くらいかな。エステルはヴィリュークと年は近いよね、お前の方が間違いなく年下だわ」


ばあさまは平然と切り返す。


「ヴィリューク、あんたも何か言いなさいよ!」


「素が出てるぞ、おい」


「ま、弟子ともなれば身内も同然、いちいち敬語も面倒めんどくさかろう。じゃれあいはその辺にして、始めるわ」






ばあさまの秘密工房。


秘密漏洩防止と言うのは建前で、この場所は”井戸の蓋”である。


地下の水の流れを水脈と言うように、地下にも魔力の流れが巡っており、ばあさまは魔脈と便宜上呼んでいる。


ばあさま曰く、魔脈の魔力が長い年月を経て出来るのが天然の魔石であり、地表に現れた純度の高いそれらは魔水晶と呼ばれるという。


つまりはこの井戸あなから魔力がダダ漏れすると、巡り巡って魔水晶が取れなくなるそうだ。そこでばあさまが可能な限り”蓋”をしたのだが、所詮ヒトが行った封印である。若干の漏れは致し方ないらしい。易々と大自然に太刀打ちなぞ出来ない、大自然相手に完璧はないのだ。


もっとも魔力漏れを感知出来る輩はそうそういないので、今現在もこの状況が続いている。


そこに本音と建前と欲望が入り混じるのだが、当時弁解する相手が居ないにもかかわらず独り言のような言い訳がましい声が響いたとか。


”魔力漏れ?ここが?ハジメテシッタワ!いやぁ、そんなところに家建てて植樹までしちゃったけど仕方ないわよね”


”ふひひひ、こんな場所があるだなんて好都合だね。面白いから何か作ってちょちょいと置いて見ようか”


何をしたかと言うと”井戸の蓋”の設置後、管理の為に地下に玄室を作り、その地上で面白半分で植えた若木は見事に成長。


初めは工房の下にあった玄室であったが、木の成長と共に押されるようにして母屋は数メートル横へ移築され、さらに数年後には木の根っこが玄室の壁を突き破って現れる。


切るのも可哀想と言う事で、玄室へこれ以上侵食しない様に床と壁を工事すること数回。


現在は所々根っこが出てるが、床や壁に戻ると言った態に落ち着いた。






縦横五メートルはあろうかという低い作業台の真ん中に、俺のじゅうたんを広げる。縦三メートル横二メートル位だろうか。


「二人とも頼むわよ」


「分かった、かあさま」

「まかせて、かあさま」


「いくわよ」ばあさまが二つ立て続けに魔法をかける。一つ目は【風膜】の魔法、作業台全体にかける。二つ目は正確には魔法でなく、じゅうたんを操作するために魔力を行使。


”ぼふん”


埃や砂と共に、俺のじゅうたんが広がる。しかし【風膜】のおかげで玄室内は汚れない。これがなかったら埃まみれになっていただろう。


直ぐに【風膜】の上と下に穴が開き、深緑のドライアドが高速で空気を入れ替えていく。”風膜”の穴から出た埃と砂は……壁際の樹の根の隙間に吸い込まれていく。


黄緑のブラウニーはそこから更にじゅうたんの汚れを叩きだしていき、ドライアドに渡していく。暫くすると【風膜】内は、綺麗さっぱり砂も埃も無くなっていた。


「うーん、綺麗にしてたつもりでも広げると汚れているなぁ。二人ともありがとな」


精霊の二人は”どういたしまして”とばかりに優雅にお辞儀をすると、近くの大きな丸い台の上においてあるソファに向かう。


既に真ん中にサミィが座っていたので、二人は挟むようにして両脇にちょこんと腰かけた。……あんなところにソファ置いたんだ。あの丸いの…見覚えがあるな…なんだっけ。


「全く。どこまで綺麗にしてたやら、あやしいものだわ」ばあさまの一言に思考がさえぎられる。





俺たちのやり取りに茫然としていたエステルだったが、すぐさま問い詰めてくる。


「なんですか!じゅうたんがおっきく広がる魔法なんか聞いたことないですよ!」


「収納魔法陣の応用だよ。な?ばあさま」


「ん、私にかかればこんなもの楽勝よ。本来の大きさだと取り回しに難があるし、一人や二人が乗るにはこんな広さいらないでしょ」


「てことで、必要な所以外を収納したしまっちゃった訳よ。子供の頃はいたずらすると、”じゅうたんと一緒にしまっちゃうわよ”って怒られたなぁ」


エステルが手をわきわきさせ、声にならない声をパクパクしていたが、”ダンッ”と床を思い切り踏みしめてやり場のないイライラを発散させる。


「!!?!師匠、私にやらせてください。なんか、じっとしてられません」


啖呵を切った弟子に対して師匠は頷く。


「よし、やってみなさい。うちの工房で確立された魔法陣はほぼ、このじゅうたんでテストしているわ。中には導入を見送った危険なものもあるけれどもちゃんと”殺してある”から大丈夫。マナ変換器から辿っていくといいわ」


ばあさまの許可を得ると、すぐさま裸足になってじゅうたんに立ち、両手の平をじゅうたんに向けてメンテナンスを始めるエステル。


「……む、変換器が三つもあるのですね、ローテーションを組んで作動させているのか……万が一を考えて……いや、このじゅうたんの機能を全部賄おうとすると、変換器もこれくらいは……」



弟子の様子にばあさまは黙ってニヤニヤ。


「……となると当然魔力貯蔵庫も……なんですかこれ、容量も数も凄い……なにこの圧縮率、ウチの既製品の五倍以上のものが、ひのふの……八つもあるし。師匠!!」


「あぁ……それ量産できないから欲しがってもダメ。ベヒモスの肺を使ってるから。取ってきた奴と私のとそのじゅうたんの三枚で全部使ったから、もうないわよ」


「こんな貯蔵庫を搭載して!!?!無補給でどこまで行くつもりですか!」


「や、ベヒモスの肺を取ってきた奴の依頼は、”海を越えて隣の大陸へ行けるじゅうたんを作って欲しい”ってのだったのよ」


規格外の話にエステルは言葉が発せない。


「あれ?取ってきた肺を全部その人のに載せなかったんだ」


「効率を考えるとこれが最適。お前のじゅうたんも、準備万端ならば無補給で海を越えて大陸を目指せるわ。けど、途中の島で休憩はあるだろうし無補給って羽目にはならないでしょ、余程のアクシデントがない限り大丈夫だわ」




エステルがなにやらブツブツ言いはじめる。


「なにこの規格外、一々反応していたら身が持たないわ……」


むぅ、尤もなんだが聞こえてるぞ。


「それぞれの経路に滞りはありませんね」


あ、無視して仕事に戻ったし。


「ん…ふん…こうきて、つつつっと、むう、ん?」何やら様子がおかしい。


「エステル、どうしました?歯切れが悪いですよ」


「いえ、師匠。動作は正常、接続の異常もありませんし、切替部分もスムーズに作動しているのですが……」


「もう、しゃんとしなさい。報告!」ばあさまが喝を入れる。


「変換器は正常に作動しているのですが、貯蔵庫への接続がなされていません。おそらく変換してそのまま大気に放出してます」びくびくと師匠ばあさまの反応を見ながら報告している。


「……続けて」ばあさまの表情は変化ない。


「それに対して、搭乗者からの魔力貯蔵機能は正常作動。状態も綺麗なものです」


……ここに来てまた既視感が、やべ、ここからは逃げられん。


「貯蔵状況を」なんか空気が冷えてきたのは気のせいか。


「七つ満タンです。残りの一つは三割溜まっています」


「ヴィリュ~ク~、」うぁ、ダメ出しきたか!


「………」


「マニュアル、渡したわよね。勉強しなさいって言ったわよね」


「…はい」


しばしの沈黙。そしてばあさまが口を開く。


「見せなさい」


黙ってじゅうたんに乗ると収納魔法陣を起動、手を突っ込み引っ張り出す。


”どす”


厚さ十五センチはあろうかという本が一冊。端はよれよれ、色とりどりの小さなしおりが沢山挟んである。


”なかなかの勉強家ね。あの勤勉さで師匠の後を継がなかったのか……”エステルの独白が小さく聞こえる。


”どす”


同じサイズのものがもう一冊積み重なった。綺麗な状態だったが、所どころにしおりが見受けられる。


”どす”


三冊目が上乗せられた。読まれた形跡は見て取れたが、しおりは挟まっていない。






トントントントン


師匠が作業台を指で叩く音が響く…雷が落ちる前兆だ。


「全部しっかり読破せんかあああああぁぁぁ!バカ孫ぉぉぉぉぉ」


「できるか、クソばばあぁぁぁ!」


「あれしき出来ないでどうするっ!」


積み上がった三冊の山を見下ろす。


うわぁ、あたしアレ一冊でも音を上げるわ。しかも三冊だなんて目を通すだけならまだしも、理解し使いこなすだなんて何時達成できるか見当もつかない。


「えーと、師匠。彼は現役ではないのですよね?」恐る恐る聞いてみる。


「残念なことにね。エステル、頼りにしているわ」


この師匠ひとの基準は自分自身なのだ。あんなマニュアルの量、尋常でない。その一冊をあれだけ読み解いた彼も相当なのだが、二人とも自覚していない。


どの様な紆余曲折を経たのかは分からないが、彼が砂漠へ行くことを師匠は了解し、そして彼がこの工房を継ぐことは無くなったのだろう。





「もう一回座学からやり直した方がいいのかしら……依頼の期日までまだ余裕はあるけれども……」


何やら不穏な発言が聞こえてくる。明日になるのが怖い。


「で、ヴィリューク。あの仕様でずっと使っていたの?」


「あー、うん。速度も運動性もいいし、収納の容量も十分だから燃費もそれ相応なのかなぁ…と」


ばあさまが呆れた目で見てくる。これは十数年分のあきれか?


「始めのころとか疲れが激しくなかった?」


「そうだったかな?けれども今は特に問題はないかな」


ばあさまがこめかみを擦りながら言う。


「あんた、ここを出発してから今の今まで、八つの貯蔵庫に魔力を補充しながら飛ばしてきたのよ。体力をつけるのに運動して身体に負荷をかけるでしょ、あんたは必要以上に魔力を消費して、そのつもりもないのに魔力量を鍛え、増やしてきたのよ」


「え?色んなヒトを乗せてきたけど魔力がどうこう言われたことないぞ」


「当たり前!操縦者からのみ魔力を吸収するのよ、同乗者(お客さん)から取ってどうするの!」


「なるほど、そういえば基本俺一人で飛ばしていたし、俺以外のヒトから魔力提供してもらう時は変換器兼貯蔵庫に直接座らせていたしなぁ……あれ?」


なんで変換器に座らせて魔力が溜まったんだ?で、なんで二人して額に手を当てている?


「ヴィリューク、それ直結して魔力補充するのと同じよ」


「バカもん、それ、場合によっては急性魔力欠乏症になるから」


その時、精霊たちの声が割って入った。






「かあさま、この子成長した」

「かあさま、この子変化した」


揃って声がする方を向くと、裸の女性が精霊の二人に挟まれてソファに座ってこちらを見ている。


年の頃は二十歳過ぎ、黄色と言うか砂色の長い髪が鳩尾あたりまで伸びており、その小さくはない胸を隠していた。身体つきは余計な脂肪も無くしなやかさが見て取れる。


野性的な顔も魅力的だが、何より特徴的なのはその耳だろう。俺たちエルフより短めだが大ぶりな耳の先三分の一には髪の色と同じ繊細な毛で覆われている。


そして彼女は俺たちからの集まった視線に小首を傾げるのだ。


その時…


「あんた何ガン見してるのよ!!」


不意のエステルの飛び蹴りが、俺の意識を刈り取る。不意打ちは……やめろ。


薄れゆく意識の中聞こえてきたのは、彼女の素っ裸を咎めるエステルの声だった。

ばあさまの名前ですが、5話前から既に決まってます。

小ネタもあるのに中々出す機会がありません。絶対出したいのですがどうしたものか。


お読みいただきありがとうございます。

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