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エルフ、砂に生きる  作者: 初荷(ウイニィ)
砂エルフ、旅情篇

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196/202

オルターボット(もしくは麦畑)防衛戦






「来るぞ!」

「気合い入れろーっ!」

「構えーっ!」


 迫りくるゴブリンの群れを前にして、ベテラン探索者たちが気勢を上げる。最前列には彼らだけでなく、囮要員の見習い達も隣にいるからだ。


 進路を逆茂木で邪魔をされているので、勢いのまま一直線に来られるゴブリンは限られている。迂回する羽目になったゴブリンは勢いをそがれ、あたふたしている上から矢が降り注ぐ。


 邪魔な逆茂木を迂回するゴブリン達は、空けられた通路に殺到して渋滞を起こしていると、そこを狙って後方から魔法の炎が降り注いだ。


 しかしそれらの攻撃すら凌いだゴブリン達は、柵に取り付き手を伸ばして襲い掛かろうとする。


“ずぶり”


 その腹のど真ん中を槍が貫く。


 一々その生死を確認している余裕はない。なにせ次から次へと敵は押し寄せてきているからだ。見習い達の中には雰囲気に押され、槍を抱えて固まっている者もいる。


「やーっ」


 それでも気勢を上げて槍を突く見習い。柵に取り付くゴブリンへ、寄るなとばかりに力の限り突き刺す。


“gyogorufu”


 見習いの槍はゴブリンに当たらず、それどころか突き出した槍の柄を掴まれ引っ張られてしまう。見習いも踏ん張るなり手放すなりすればよかったのだが、握りしめた槍につられて柵の方へつんのめってしまった。


 囮のはずが餌食に───いや、両脇に居たベテランがすかさずフォローに入った。片方は見習いの襟首をつかんで引き留め、もう片方はそのゴブリンを自身の槍の餌食にした。


「大丈夫か」

「腕で突くな、腹にも力入れろ」


「はっ、はいっ」


 見習いの心は殺さ(やら)れそうであった恐怖よりも、頼もしいベテランへの羨望が上回った。それは幸運であり、この先の長い戦闘において心が潰れることはないであろう。




★☆★☆




 柵と逆茂木で仕切られた通路をぬけると、ひらけた一角にゴブリンの死体が複数転がっていた。しかも一様に腹を切り裂かれて絶命している。見るものが見れば、傷跡は一定の高さであったことに気付いただろう。


 迫るゴブリンどもを前に、バルボーザは愛刀である大太刀を左腰に構え水平に抜き撃つ。すると襲い掛かって来ていたあるゴブリンは両断され、またあるゴブリンは腹を割かれ絶命。返す刃でも確実に獲物を始末していく。


 バルボーザの周囲には死体が転がっていたが、それだけ斬っていれば刃に払いきれない血糊が付着していく。


「ヴァロ、清めてくれ」


 この声を合図に彼のゴーレムロバのヴァロが近寄ると、右前脚の肩口が“カシュッ”と音を立てて開くではないか。血濡れた大太刀の切っ先がその開口部に宛がわれると、するりと刀身が鍔元まで飲み込まれる。


 出ているのは鍔と柄だけ。その間も周囲を伺う無手のバルボーザであったが、怖気付いたゴブリンは襲い掛かろうともしない。だがゴブリンにしてはまともな武器(錆びたショートソード)を手にした一匹が飛びかかる。


 タイミングはほぼ同時であった。鯉口を切るようにヴァロの肩口から大太刀が飛び出ると、すかさずバルボーザの手がかかる。


 抜き打ち。切り上げ。哀れゴブリン、宙で股下から頭頂部まで真っ二つ。バルボーザは切り上げた勢いを利用して飛び退り、返り血を避ける。


「ふう」


 一息ついてバルボーザが歩を進めると、気圧されたゴブリン達は柵の間を逆走して逃げ出した。しかし柵の向こうで槍を構える探索者たちが逃すはずもなく、ここぞとばかりにゴブリンめがけて槍を突き刺す。


「ドワーフって斧とかハンマーってイメージあったわ」

「しかも剣筋ぜんぜん見えんとか」

「「とんでもねぇ」」


 柵向こうで軽口を叩く探索者たちがいたとかいないとか。




★☆★☆




「遅れは取ってはいませんが、数に押されていますね」


 櫓の上から赤髪ショートが戦況を告げる。


「妙に持ち堪えている陣地が二か所……何故だ?」


 ギルド長が額の汗をぬぐいながら、その場所へ目を凝らす。柵が破壊された他の場所は数に押され、少しずつ戦線を後退させている。


「伝令……騎士団じゃあるまいし、そんな洒落たのはないしなぁ」


「ギルド長、あそこバルボーザさんが押し留めています」


 赤髪ショートの指摘に目を凝らすと、背が低くて分かりにくかったが、武器を振るうがっしりした体形は確かにドワーフのそれである。


「彼に向けて“(ささや)いて”。一区画わざと引いて誘い込んでほしいと。“隣”にも声をかけて同時に頼むと伝えてください」


「分かりました」


 赤髪ショートは珍しく眉間にしわを寄せながら集中していく。


「■■■ 囁き(ウィスパー) バルボーザさん、バルボーザさん───」


 発動した呪文は、彼女の声を風に乗せてドワーフに届ける。突然の認識外からの声に軽く飛び上がるドワーフ。呪文の効果時間は限られているので、赤髪ショートがお構いなしに用件を伝えて呪文が切れると、ドワーフは声の主が櫓の上にいると知り、手を振って了解の意思を返してきた。


「ごくろうさん」


 ギルド長の労いに、赤髪ショートは珍しく口角を少し上げるのであった。




★☆★☆




“ご、ごん、がらがら”


 手桶にスリング用の小石を補充してやる。見習い達へは下手に槍を持たせるより、スリングで石を投げさせた方が戦力になる。てことで、見習い達を十人ほど列に並べて投擲させている。実は後方に用意されていた投擲用の石を、付与ポーチに少し(・・)入れてきておいたのだ。


「ヴィリュークさん!こっちにも石を!」


 お陰で見習い達に言われるがまま、補充に走り回っているが、その合間に───


「ほっ」


 柵の隙間を抜けてこようと、頭をねじ込んできたゴブリンの顔面に石を一発お見舞いしてやる。


“GYA”


 ゴブリンの悲鳴に気付いた近くのベテランが慌てて槍で一突きをし、こちらに手を振って礼をしてくる。


 隣の柵を見るとゴブリンどもが死屍累々。その中を動く姿があるので目を凝らすと、バルボーザとゴーレムロバがいるのが見える。バルボーザ、無双しているなぁ。


 俺はと言えば一人で無双する気はさらさらなく、ここに配置された面々でこの区画を守るべく動いている。忙しくはしているが、面子も大きな怪我を負うものもおらず、順調な防衛が出来ている。


 太陽がてっぺんに差し掛かった頃、状況が変わった。


“一区画後退して、戦線を揃えるぞ“


 隣の区画から怒鳴り声が響く。バルボーザの声だ。どこからか指示でもあったのだろうか。


「スリング隊、斉射三連。当てなくても構わん!投擲後後退しろ。槍持ちはゴブリンを牽制し、見習いどもの援護をしながら後退だ!」


 一発・二発とタイミングを合わせ、三発目の投擲を目視してから声を張り上げる。


「後退―っ!」

「にげろー!」

「わーっ!」


 緊張感に欠けているな。少し構い過ぎかもしれないが、それでも見習い達の後ろに付いて周囲の確認を怠らない。と思った矢先───


「ホブだ!ホブゴブリンが混ざってるぞ!」


 俺たちの後退を手下のゴブリンの露払いの結果とでも思ったのだろうか。ゴブリンが戦術を理解しているとも思えない。精々ヒトどもがやられて逃げていった、チャンスだ、程度の認識であろう。


「先に行っておけ」


 見習い達を引率するつもりだったが、新手が来たとなると話は別だ。槍持ち達に混ざって殿(しんがり)を務めるとしよう。




★☆★☆


「この丘を越えるとオルターボットの街が見えるんだ……」


 丘にはなだらかな坂道が向こう側まで続いている。馬車でも無理なく走れる緩い道だ。しかしその向こうから怒号とも絶叫ともとれる、張り上げられた声が響いているのだ。あれは歓声ではないと思う……


「ねぇ、キャラバンみんなで進まなくても……誰か様子を見に行ってもらった方が……」


 諭すように隊商リーダーに言葉をかけるが、なんか変に意固地になって馬車を進ませていくのだ。


「丘を~越え~ふふ~ふふ~ん♪そしてその先には~」


 鼻歌を歌って無理やり気持ちを上げるリーダー。そして上った先には───


「!!?!どう!どうどう!とまれーっ!」


 手綱をひいて停止を合図するが簡単に止まれるはずもないし、後ろには馬車群が詰まっているのでそれぞれの馬車たちは前に衝突させぬように右に左に避けていく。


「バカヤロー」

「何やってんだ!」

「急に止まるんじゃねぇ!」


 後方から罵声が上がるのも無理はない。


 馭者台を立ち上がった眼下には、見晴らしの良い丘の上からというのも相まって、何が起こっているのか一目瞭然であった。


 そこに広がるのはゴブリン対ヒトの戦場。


 東の彼方にオルターボットの街壁が見え、その西側には麦畑が広がっている。その麦畑を守るように柵や櫓が建てられており、そこがヒト側の陣地だ。


 西の彼方には鬱蒼とした森が広がり、ゴブリン達はそこから湧いて出ている。まさに“湧いて”出ているかのようだ。森からヒト側の陣地の間にはゴブリン達が死屍累々と積みあがっている。それでもまだ奴らは湧いて出ているのだ。


 ヒト側の強大な攻撃の結果なのであろうが、ゴブリン達は仲間の死体に見向きもせず、ただただ武器を持って対抗するヒトへ襲い掛かっている。


「戦いの真っ只中じゃねぇか」

「誰だよ、勝利の喜びの中にキャラバンが颯爽と登場とか抜かしたのは」

「ちょっと、後退して隠れた方が良くない?」


 後方の馬車から様子を見に来た面々が、次々と不安を口にしていく。


「ナスリーン、不安がっていないね」

「そういうエステルこそ」


 これくらいの距離があれば平気だろう。ゴブリンが気付いたとしても、ここまで駆けつけてくる間に弓矢なり魔法なりで倒してしまえるし、大量に向かってきたとしても今度はヒト側が背後から攻撃できるチャンスになる。


 陣地構築しているくらいだし、それくらいの機は見逃さないわよね?


………

……


 最初こそ驚きうろたえはしたものの、ゴブリンがこちらにやってくる様子もないと分かると、途端にヒトは気が大きくなるものらしい。


「こんなの中々見れるもんじゃねぇ」

「結構迫力あるなぁ」

「あっ、なんか押されていない?」


 ついには干し肉を齧りながら観戦する始末。護衛リーダーも干し肉を齧っていたが、周囲を伺う目は鋭いもので、正直ちょっとホッとした。


「ん~」


 目を凝らしていたエステルが、取り出したエルフの眼帯を着けると、再度戦場に目を凝らす。


「なんかヒトと同じ大きさのゴブリンがいる……ホブゴブリンかな?」


「「「えっっ」」」


 その場の者たちは一瞬エステルを見やるが、すぐさま戦場に目を凝らし始めた。


「確かにでかいのがいるな」

「あいつらのせいで押されているの?」

「ああっ、がんばって」


 みるみるうちに戦線は後退したが、よく見れば突出した部隊を退かせ、戦列を整えたと分かった。列が整うと、それ以上押されることはなくゴブリンを押し留めた。


「見ろ!」


 ほぼ全員が釘付けになっているのだから、その言葉はどうなのよ。しかしそんな声が上がるのも無理はない。


 押し留められたゴブリンの頭上へ、ヒトの陣地から一斉に矢が放たれると、ゴブリンどもは右往左往慌てふためいた。しかしそれだけでは終わらない。数基の櫓の上から炎系に統一された魔法が撃ち込まれる。


 単体・範囲・爆発など形状は違えども、魔法の炎は確実にゴブリンを駆逐していく。


「「「おおお~……」」」


 丘の上の面々から歓声が上がったが、それは尻つぼみになってしまった。


確かにヒト側の攻撃はゴブリンには有効であったが、その上位種へは効果が薄かったのだ。


「うわぁ……なんかホブゴブリン、多くね?」

「ホブ、残ってるな」

「やばくね?」


 それでも森から湧き出るゴブリンは打ち止めのようで右往左往するのが見受けられるが、近くのホブゴブリンを頼りにまだまだ油断ならない数が集まりつつある。


 逃げる様子もないのは士気が高い?ホブが健在だからなのか。士気?ゴブリンが士気とかお笑い草だ。単純に力が強い仲間を当てにしているに過ぎないのだろう。


 どうやらこの戦場も最終局面に突入したようだ。


「わあああ」

「柵が破られたぞ!」

「ガキどもは後退しろ、邪魔だ!」


 丘の上にいるとそんな声が聞こえてきそうな状況が眼下に見える。


 柵の一部がホブゴブリンによって破られると、あちこちで引き倒されたりしてゴブリンどもが陣地に侵入し始めていく。このまま乱戦になればゴブリン側が有利になってしまう。


 しかしヒト側に集まった探索者たちも然るもの。前に立ち押し留める者。一纏まりになり連携して事に当たる者。押されて不利になった所へ援護に回る者。ヒト側も決して負けていない。


 丘の上から隊商の者たちが息をのんで見守る中、護衛リーダーが突然茂みに駆け込んだ。


“GYAAAA”


 ゴブリンの断末魔の叫びが上がった。


「警戒!ゴブリンがこちらに逃げてきているぞ!」


 ああ、所詮はゴブリン。ホブゴブリンの元へ集結するばかりではなかった。戦場の端にいて不利な状況だと分かったゴブリンは、近くに頼りになるホブゴブリンがいないと知れると、こそこそと逃げだしたのだ。


 森へ向かえば一発でバレる。奴らは程よくばらけると、身を伏せて隊商が陣取る丘側へ向かってきたのだ。バラけて移動してきたゴブリン達であったが、丘の元へ辿り着いた奴らは、地形も相まって自然と一塊になった。


「エステル、じゅうたん!」


 すぐさま彼女がじゅうたんを広げ……二枚?ヴィリュークのと彼女のじゅうたん?エステルは自分のじゅうたんに飛び乗ったので、私はヴィリュークのじゅうたんに飛び乗り高度を上げる。


「正面に四・五匹いるわ!あとあっちから三匹!」


 じゅうたんの上からゴブリンのいる方向を指し示す。


「よし!迎え撃つぞ!そのまま見張っていてくれ!」


「まかせて!」


 勢いよく返事をすると、エステルがじゅうたんを寄せてくる。


「ナスリーン、あそこちょっと多くない?」


 エステルが指差す方を見ると、確かに接近されたくない量のゴブリンがこちらに向かってきているようだ。


「引き寄せて“火球”(ファイアボール)を二・三発撃ち込みたいけど、私ひとりじゃ一発撃ちこんでる間に接近されちゃいそうね。ここは威力強化の魔法陣()を使うべきかしら───ってエステル何やってるの!?」


 彼女はじゅうたんの収納魔法陣から色々引っ張り出し、じゅうたんの上に並べていく。手始めに跳ね上げ式のバイザーと面頬が付いた兜を被り、顎紐をしっかり縛る。そしてじゅうたんに並べていたのは馬上鎗(ランス)とカイトシールド。


「ちょっと蹴散らしてくるわ」


「ちょっと、って!アンタ、じゅうたんで騎兵突撃(ランスチャージ)仕掛ける気!!?!バカ!やめなさい!」


歩兵(ゴブリン)には騎兵が有効って何かに書いてあったわ」


「ばかばかばか、なに小説に書いてあるのを鵜呑みにするのよ!」


 エステルは私の言うことに耳を貸さず“剛力招来”と一言。身体強化を施し、その細腕に似合わぬ槍と盾を軽々と持ち上げ、じゅうたんの上で構える。勿論その前に面頬を下ろすのも忘れない。


「ナスリーン、あとはよろしくね」


「エステル待ちなさい!」


 彼女は私の制止も聞かず、文字通り飛び去って行った。


「エステルっ、戻ってきなさいっ!!」


 私の制止はむなしく大空にこだました。






今回でクライマックスだったはずなのに _(:3 」∠)_


ブクマ、イイねボタン、★★★★★、ぜひポチっとお願いします。


感想もお待ちしております。


お読みいただきありがとうございました。


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