その42
次の日の朝、【禁足の塔】の七階に向かうべく朝ご飯を作り終えたわたしは、リビングのソファーで転がっている皇太子と白亀の口の中に二日酔いの薬を流し込んだ。
「・・・何か酷い目に合った気がするんだけどなぁ。僕、泡盛飲みながら焼き肉食べてたよねぇ?」
「・・・ あら、偶然ね〜。あたしもそんな気しかしないわね〜。泡盛も焼き肉も美味しかったわ〜」
『・・・』
わたしは思い出されても面倒臭そうなので、乾杯した辺りの事は記憶の彼方らしい二人に何も言わずにおく事にした。
そして、それは既にダイニングテーブルに着いていた皆んなも同じ気持ちらしく、誰も何も言わなかった。
「うわぁ!今日の味噌汁めっちゃカメの出汁が効いてて美味いねっ!」
「うんうん!この出汁巻きにもカメ入ってるよね〜!」
「この炊き込みご飯もカメ使ってんじゃね?マジ美味過ぎじゃね?」
「この酢の物もカメかぁ!マジ美味過ぎだよなぁ!」
「あっさりしたカメの炒め物も、飲んだ次の日には最高に美味いよな!」
普段そんなに海鮮を食べてなかったからか、わたしはカメ肉が気に入ってしまったので、今朝はカメ肉祭りにしてみたのだ。
「・・・所でアンジュ兄上。俺達はこのまま七階に向かうが、兄上達の視察予定はいつまでなんだ?」
「これと言って期間は定めて無いんだよねぇ。ほら、世界は平和だし?僕が出て行かなければならない状況が無くて暇なんだよねぇ」
「兄上、暇ではないよな?俺は普段物凄く忙しいぞ?兄上が公務を丸投げしてくるからな?」
「ラスターには感謝してるから皇太子位譲ろうか?」
「・・・譲らなくていいから働いてくれ」
第二皇子が苦い顔をしながら出汁巻きを口に入れると、皇太子はヘラっと笑いながら味噌汁を飲んだ。
「ねぇ、白龍。あんた、このまま上に行くつもりなのかしら?」
「ん?そやな〜。てっぺんまでは一度では絶対に無理やからキリ良く十階ぐらいまで行こう思っとるで〜」
「そうなのね〜。あんた、それまで生きてると良いわね〜」
「は?それは、俺様が闇堕ちした聖獣如きに負ける言うとんか?」
白龍がいつもとは全く違う鋭い雰囲気になり、ダイニングの空気は一瞬で冷え切った。
「は、白亀殿!我等の心配をして下さり、誠にかたじけない!然し乍ら、この白虎も微力を尽くす所存故大丈夫でござるよ!」
「そ、そうだよっ!俺だってもう聖獣としての力を、ちゃんと使えるからなっ!闇堕ちした聖獣なんかには負けないぜっ!」
「せや。だから、別に白亀が心配せんでもええで。お前はもう一回神界でも行って来いや」
わたしは冷え切った空気の中でゆったりとお味噌汁を飲み干し、お椀を置いた白亀の空気がガラリと変わった事に全身の毛が逆立った。
「・・・闇堕ちした聖獣ならば、最上位の聖獣であるお前達は負ける事は無い。だが、この先にいるのは悪魔だ。我等はいつか神の御許に還るのだから無駄に命を削る必要はないと俺は思うのだがな?」
そして、オネエがどっか行った白亀の言葉に白龍達はびっくりしてるけど、わたし達はもっとびっくりした。
『・・・悪魔って本当にいるんだね〜』
わたし達が住むこの世界は神と悪魔が全面戦争をした結果、神が勝利して悪魔を地底の奥深くにある地獄に封印して空いた場所に出来たもので、それ以降はずっと平和なのだと言う事を王子妃教育で習ったので、そんな感じの世界観なんだなぁとしか思ってなかったのだ。
「はあっ!?何で悪魔が出て来とんねんっ!?彼奴等は俺様達聖獣と神使達が千年前に地獄に叩き落としたやろがっ!?」
「その地獄は神が封印したはずでござるよっ!?」
「そうだよっ!俺は生まれたばっかりで何も出来なかったけど、全部覚えてるぞっ!?」
わたしは神様じゃなくて白龍達聖獣と神使?なるものが頑張ったからこの世界が出来たのかぁと、やっぱり他人事だった。
「ま〜ね〜。あの時は神達が面倒臭いからって、あたし達に丸投げして本当に良い迷惑だったわよね〜。神使達なんてサービス残業だって泣いてたものね〜。だけどね?あの後神達が天空への道をぶっ壊したじゃない?その時に地獄の封印に綻びが出来たみたいなのよね〜。ほら、神達ってすっごく雑でしょ?それで、あたしが気づいた時には結構ヤバいぐらいここに出て来てたのよ〜。だから、神界へどうにかするようにって言いに行ったのよね〜」
『・・・』
わたしはオネエの白亀が戻った事よりも、神様って傍迷惑な感じの人達なのかな?と思ったのはしょうがないと思う。
「それでっ!?もうそこ迄来とんのやろっ!?神達のミスなんやから、神達がさっさと封印し直してくれるんかっ!?」
すると、白亀は大きな大きな溜め息を吐きながら首を横に振った。
「・・・この世界を観るのも飽きたらしくて、どうでもいいそうよ・・・」
『は?』
その瞬間、わたしはこの世界の神とか言う奴等は絶対神様なんかじゃないと思ったのは言うまでもない。




