断罪のための歌
広間は貴族たちで賑わい、ジョアンの成年を祝う歓声が響いていた。
だが、セシリアの視線は、広間の隅に立つ2人の人物に注がれていた。
トマス・フォン・ローゼンとライザ・マックバート。
トマスは相変わらず自信に満ちた笑みを浮かべ、ライザは彼の腕にしなだれかかり、勝ち誇ったような表情をしていた。
セシリアの胸に、3カ月前の屈辱が蘇った。あの婚約破棄の夜、トマスの冷たい言葉、ライザの嘲笑、そして父の裏切り。
すべてが、彼女をこの瞬間に導いていた。
レノーラが広間の中央に進み出て、リュートを構えた。
彼女の赤いドレスが燭台の光に映え、まるで舞台の主役のように存在感を放っていた。
「皆様、今宵はジョアン・フォン・クレイモア様の成年を祝う歌を披露いたします。だが、その前に、一つ余興の歌を歌うことをお許しください。」
レノーラが一つ、礼をした。簡素だが、貴族の礼よりも美しかった。
「クレイモア家の名にかけて、ある物語を歌いましょう。」
彼女の声は澄んでおり、広間に響き渡った。貴族たちのざわめきが静まり、すべての視線がレノーラに集まった。
セシリアは胸を高鳴らせながら、兄ジョアンと並んで立った。
レノーラの指が弦を弾き、低く荘厳な旋律が流れた。
それは戦うための歌とは異なる、物語を紡ぐためのメロディだった。彼女の歌声が、広間を包み込んだ。
聞け、貴族の裏切りと、令嬢の試練を
金色の誓いは、偽りに穢された
薔薇の紋章、クレイモアの誇り
愛を誓った若者、トマス・フォン・ローゼン
幼なじみライザと、密かな恋に溺れ
真実を捨て、権力に魂を売った
侯爵の陰謀、マックバートの企み
ライザは公爵の愛を裏切り、名を汚した
婚約破棄の傷を隠すため
純真な令嬢、セシリアを断罪し
暗殺の刃を、闇に忍ばせた
「正当防衛」と偽り、命を奪わんと企む
されど、令嬢は逃げ、試練に立ち向かう
ダックス辺境伯の地、魔物の荒野を越え
祖母メリダの遺志、薔薇の暗号を解き
冒険者ギルドの鍵、真相を暴いた
裏切り者の仮面、剥がされし今
クレイモアの名は、断罪の炎に燃える
聞け、貴族たちよ、真実の歌を
トマスの不貞、ライザの謀略
父すら金に目がくらみ、娘を裏切った
されど、セシリアは立ち上がる
薔薇の誇り、試練の果てに
令嬢の復讐は、正義の光となる!
歌の間、セシリアは目を閉じ、胸に手を当てていた。
レノーラの歌詞は、彼女の3カ月の試練を鮮やかに蘇らせた。
トマスの裏切り、ライザの嘲笑、父の打算、魔物の脅威、ダックス辺境伯領での成長。
――すべて、忘れられない記憶ね。
広間の貴族たちは息を呑み、トマスとライザの顔が青ざめていくのが見えた。
トマスは拳を握り、ライザは唇を震わせ、反論を試みようとしたが、レノーラの歌の重みに言葉を失っていた。
ルートが
「フム、ワガハイの相棒の歌は、いつも心を震わせるな!」
と得意げに呟いたが、レノーラはそれを無視し、リュートの最後の弦を静かに弾いて歌を締めくくった。
歌が終わると広間に深い静寂が落ち、貴族たちの視線がセシリアに移った。
彼女は一歩前に進み出た。青いドレスが燭台の光に輝き、15歳の少女とは思えない威厳が漂っていた。
「トマス・フォン・ローゼン、ライザ・マックバート。あなたたちの罪を、ここで暴きます。」
セシリアの声は、静かだが力強く、広間に響き渡った。




