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別れの時②

レノーラがリュートを軽く弾きながら、何気なく質問を投げかけた。

「ねえ、お嬢様。話は変わるけど、クレイモア家にお兄さんいなかったっけ?」

レノーラの赤い瞳が、興味深そうにセシリアを見つめていた。

セシリアは一瞬、質問の意図を掴めなかったが、素直に答えた。

「お兄さん…?ええ、いるわ。ジョアン、3つ上だから、もうすぐ18歳になる兄が。貴族学院の寮にいて、なかなか帰ってこないけど…。」

その瞬間、セシリアの頭に閃きが走った。


兄、ジョアンの誕生日が、3カ月後に迫っていることを思い出したのだ。

貴族学院の生徒は、18歳の誕生日を祝うために一時帰郷するのが慣例だった。

ジョアンがクレイモア領に戻れば、トマスやライザ、そして父の企みを暴くチャンスがあるかもしれない。

社交界に出られない15歳の自分には難しいが、ジョアンを通じて、断罪をやり返す機会が訪れるのだ。セシリアの青い瞳が、決意に燃えた。


「そうか…!ジョアンの誕生日!3カ月後なら、きっと何かできる!」

セシリアは思わず声を上げ、レノーラと辺境伯を驚かせた。

レノーラは片眉を上げ、

「おや、急に元気になったわね。何か企んでる?」

と尋ねた。セシリアは微笑み、答えた。

「企むだなんて、失礼ね。貴族の令嬢として、家の名を取り戻す計画よ」


辺境伯はセシリアの変化に気づき、静かに頷いた。

「その意気だ、セシリア。君なら、メリダ様の遺志を継げる。3カ月後、必要な支援は私が用意しよう。」

彼の言葉に、セシリアは深く頭を下げた。

「ありがとう、辺境伯様。必ず、クレイモア家の誇りを取り戻してみせるわ!」


その夜、セシリアとレノーラは客室で最後の時間を過ごした。

「セシリアを辺境伯領まで安全に送り届ける」というレノーラの任務は、正式に完了していた。

彼女はリュートを手に、旅支度を整えながら言った。

「さて、お嬢様。私の仕事はここまで。あなた、泣き虫だったけど、ずいぶん強くなったわね。これなら、メリダ様も安心するんじゃない?」

セシリアは胸が締め付けられるのを感じた。

――レノーラとの別れが、こんなにも辛いとは思わなかった。


彼女は目を潤ませながら、立ち上がった。

「レノーラ…あなたには感謝してもしきれないわ。本当に、ありがとう。」

彼女の声は震え、涙が頬を伝った。

だが、セシリアは泣きじゃくる自分を抑え、深く息を吸った。

そして、貴族の令嬢として教わった「淑女の礼」を、レノーラに向けて行った。スカートの裾を軽く持ち、優雅に膝を曲げ、頭を下げる。その姿は、まるで社交界の舞踏会に立つ令嬢のようだった。


レノーラは一瞬、目を丸くしたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。

「お嬢様、立派になったじゃない!メリダ様が見たら、きっと褒めるわよ。」彼女はリュートを肩に担ぎ、部屋を出ようとした。

「レノーラ、待って!」

セシリアが呼び止めると、レノーラは振り返った。

「また…会えるわよね?」

セシリアの声は小さく、彼女がか弱い少女だったことを思い出させた。

レノーラはニヤリと笑いとばした。

「さあね。吟遊詩人は風の吹くままよ。でも、もし縁があれば、どこかでまた会うんじゃない?」

彼女はそう言い残し、軽やかな足取りで部屋を後にした。

ルートの「さらばじゃ、小娘!次に会う時はもっと強くなっておれよ!」という声が、遠くに響いた。


セシリアは窓辺に立ち、レノーラの姿が麦畑の向こうに消えるのを見送った。涙が止まらなかったが、彼女はそれを拭うことはなかった。

きっと、これがセシリアが最後に泣いた日になるだろうから。


3カ月後のジョアンの誕生日。

そこが、トマスとライザへの反撃の第一歩になる。祖母の試練を乗り越え、クレイモア家の名を取り戻すために。

――絶対に、やり遂げてみせる!

やっと泣き止んだセシリアは、新たな決意を胸に刻んだ。

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