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第七十七話 贈り物

長らくお待たせいたしました。

第五章開幕です!


 王都を襲撃してから一ヶ月半。


 教会の黒幕が勇者一行だった教皇の一人息子「アダム」であることが判明してからというもの、アカツキは各地を飛び回っていて(ろく)に顔を合わせる機会がない。

 あちこちに散った夜の巣のメンバーや協力者達と連絡を取り合うためだ。



 仕方がないとは言え聞きたいことが山程あるのだが……。



「おめでとう!」


「おめでとうリト!」


「リトくんおめでとぅ〜」


「はーっはっはっはっは!!!今日はご馳走とケーキだ!!!」


「ほれ、誕生日おめでとうのプレゼントやるよ」


「やっとオレに追いついたな、おめでとう」



 本日、夏の終わり月十五日。

 リトは十五歳の誕生日を迎えた。



「みんな、ありがとう。

 アルはたった一ヶ月前に十五歳になったばっかりじゃないか」



 リトはみんなにお礼を言いながら、先月中旬に十五歳になったばかりのアルがあまりにも得意げに言うものだから呆れた。



「一ヶ月でもオレの方がお兄さんだ!」


弟弟子(おとうとでし)の癖に」


「にゃにおう!」



 リトとアルは軽い取っ組み合いをしてじゃれた。周囲からどっと笑い声が上がる。


 アルはかつてこの国、ウィクスの東の大都市イスタルリカにいた。本名はアルフレッド。


 アルの兄であり、イスタルリカの魔法士団副団長だったジルベルトはイスタルリカの貴族に不審感を覚えた。

そしてアルを隠し、仲間と共に慎重に調査を進た結果。

 世界各地に散る教会の聖地、サンクメリとイスタルリカの繋がりとその後ろ暗い事情を知り、仲間四人とアルと共に逃亡することとなった。


 教皇とイスタルリカがやり取りしていた非道な実験の数々の報告書やその返答などの証拠を持って。



 本来のアルは生前の情報の痕跡を消され、病死したことになっている。

そしてイスタルリカの外の村の身分証をもった唯一顔の割れていない人物として逃亡者達を支えてきた。



 ジルベルトとその幼馴染達としか長い時間触れてこなかったアルは同い年のリトが初めての友達だ。






 王都を襲撃した目的の一つ。夜の巣の協力者であるソフィとパメラの救出は無事に終わったが二人は家を失い、治ったとはいえ一度腕を落とされるという大怪我を負った。


 そのきっかけとなったのは茶髪にメガネというリトの変装がバレたことによるものだった。


 リトは二人が落ち着いてから深く謝罪したが二人ともあっさりと「リトのせいでは無い」と言ってのけた。

 そしてソフィなんかはポーチからティーポットやカップ、お茶の葉などを取り出し「お気に入りは持ってきたの」とウインクして見せた。



 たくましい限りである。



 今二人は夜の巣のアジトである結界内の部屋で居心地のいい部屋を作ってのんびりと過ごしている。



 リトや他、数人の身バレはかつてリトに執着し、何度も罠にかけまくってくれたタソガレが教会側に付いて情報を流したことによるものだ。



 王都、ひいては王城を襲撃したのはその下にあった地下施設にいた二人の救出、そしてもう一つの目的。

 現ウィクス国王、アーサー・フォン・ウィクスタリアの自我を封じる呪いを解くためだった。



 王都の各所、王城で破壊の限りを尽くしたリト、アカツキを筆頭に目撃された人物は皆、超凶悪犯罪者として手配書が更新され、懸賞金も跳ね上がった。

 爆破や破壊をした際に一般人にはなるべく被害を出ないようもちろん配慮したがそんな言い訳は通らない。



 タソガレが流したであろう情報から、一行の呼び名も「アカツキ一味」から「夜の巣」へと変更され、今や厳重注意の張り紙がそこかしこに張り出されている。



 そんな訳で先日リトは半年以上お世話になった黎明の騎士団を一足先に卒業し、ノーゼンブルグを後にすることになった。


 魔法の師匠であるエルからも及第点(きゅうだいてん)をもらったことだし、何よりデカデカと張り出されている素の顔と茶髪メガネ姿が広まった今、髪の色だけが違うだけではいつ身バレしてもおかしくないからだ。


 エルは初弟子のリトが去るのを酷く惜しんでしがみついて離れなかったが別れの際にはこっそり「また夜の巣にも帰るからねぇ〜。それまでまた腕を磨いておくんだよ」と言ってくれた。


 夜の巣の協力者である街主のヴィルヘム、その家令のカラシキ、そして団長のヤツラギ達も別れを惜しんでくれた。



 ヤツラギは「堂々とセクハラできるヤツが減った」などとぼやいていたが。



 アルとルナはもう少し騎士団で鍛えてもらうことになっている。ヤツラギがルナに手を出さないよう見張っておくとメルは約束してくれた。


 メルはエルの妹で夜の巣にいたこともあるがその事情は知らない。

 エルが辛い体験をしたメルが明るく過ごせるようにと配慮しているからだ。時が来るまでは。



 以降リトは夜の巣で(ひま)をしている相手を見つけては相手してもらう日々を送っていた。



 そんなこんなで今日は絶賛騎士団の勤務日の筈だがエル、アル、ルナの三人はわざわざ特別休暇を取って帰って来てくれた。



 ヤツラギが「三人一辺に取るなんてあってたまるか!」と言っていただろうことが目に浮かぶ。



 リトは食堂で席に着かされ頭には小さな三角帽、肩には「お前が主役!!!」という謎のたすきをかけられていた。目の前にプレゼントが山積みにされていく。



「みんな、本当にありがとう」



 プレゼントの(ほとん)どがリトが三度の飯より好む本であることは言うまでもない。



「ほら、これ開いてみろよ」



 カティがリトと肩を組み1冊の本を差し出した。



 なんだろう?重厚な装丁の割には薄いような……



 リトは開いて一瞬でバターンッと閉じた。後ろで(のぞ)き込んでいたアルがルナの目を(おお)っている。



「なんてもの渡すんだ!!!」



 リトが真っ赤になって憤慨(ふんがい)すると二人で仕組んだのであろうカティとエドワードが肩を組んでニヤニヤ笑った。



「いやぁお前もお年頃ならさ?こーゆー事も覚えていかねぇと」


「そうだぞリト。男は攻めてくものだ。ヨルに捨てられるぞ」



 エドワードがそう言った瞬間カティに思い切り頭を叩かれた。



 そう、リトの恋人であるヨルは王都に取り残されたまま。


 しかも先の襲撃で手に入れた情報で魔王の心臓の一部を移植された実験体であったことが判明した。

 そして魔王の周囲や物体、人から魔力を吸い取る魔法の再現に成功し、魔王の再来と言われていることも。



「いいよ、カティ。僕は気にしてない」



 リトは()えて笑って見せた。



 正直に言うと不安でいっぱいだ。

 ヨルも、孤児院のみんなも、別れた時には呪いをかけられ、結界で閉じ込められていた。あの後どうなったかの情報はリトの耳には入っていない。



 王都へは王城に直通するゲートが設けれているはずだ。

 アカツキは街の方にゲートを設置して本格的に調査を進めると言っていたが本当のところは分からない。



 どれだけ不安でも今は待つしかない。






 リトはみんなからの贈り物の本を開いて流し読みし楽しんでいたがまたバターンと一冊の本を閉じた。



「だからなんてものを混ぜてるんだ!!!」



 カティとエドワードがゲラゲラと笑う。アルがヒョイとそれを取り上げ読み出した。ルナが興味津々に背伸びして覗き込もうとするので今度はリトが目を覆う。



「何?なに?なんのご本?」


「大人の本だよ。これくらいで真っ赤になるなんてリトはまだまだお子ちゃまだなぁ」



 アルはそれをなんともないように流し読みしててリトに向かってニヤリと笑った。



 アルが平然としているのが悔しい。



「アルこそ彼女いないくせになんでそんな余裕なんだ!こ、この変態!」



 リトの言いようにアルとカティとエドワードがゲラゲラ笑う。



「オレの周りは年上の大人ばっかだぞ。これくらい見つけんのは造作ないだろ」


「ほぉー言うじゃねえか」


「で?そのアルくんの叶わなそうな恋は実るのか?」



 今度はアルが赤くなった。

 そう、アルにも好きな人くらいいる。



「あら、みんなお集まりね。

リトくん、お誕生日おめでとう。あまり大したものは用意できないけどノーマンにキッチンを借りてプリンを作るわよ」



 アル、ジルベルトと共に逃亡していたカナリアが前下がりのショートボブを(なび)かせながらやってきた。



「ケーキに絶品プリン。今日はデザートも充実だな」


「カナリアのプリンはアルの大好物だもんな〜」



 カティとエドワードに挟まれて今度はアルが赤くなった。


 そう、アルの好きな人と言うのはカナリアだ。

一回りも歳が違うから全く相手にされていないのが可哀想な所だが。



「あら、それなあに?」


「「「「あ」」」」



 カナリアがアルの手から例の本をひょいと取り上げた。広げてすぐさまバターンと閉じる。



「ちょっと!子供になんてもの渡してるの!!

アルくんも!こんなものまだ早いわよ!!!」


「か、カナリア、それは誤解で……」


「これは没収!」



 カナリアはぷりぷりと怒りながら厨房(ちゅうぼう)に消えていった。



「あっちゃー」


「やっちまったな」



 リトもアルの肩にぽん、と手を置いて慰めた。



 少しいい気味だと思ったのは内緒である。



 その時、リトの頭にトン、と何かが乗せられた。

 振り向くとそこには箱を持つアカツキが立っていた。



「誕生日おめでとう、リト」


「アカツキ!」



 リトは驚いた。まさかアカツキに会えるとは思わなかった。



「開けてみろ」



 アカツキがリトに箱を渡し、カティと同じ様に促す。リトは恐る恐るリボンを解いた。



 まさかアカツキが例の本のように馬鹿げたものを渡してくるとは思えないが、なんだろう?



 開けて出て来たのは小さな古い懐中時計だった。



「祖父の形見だ。お前のものはヨルが持っているのだろう。ないと不便だ。

 それに何かしらの守りになるかもしれん」



 その時計には見たことのある太陽を模したような紋様が刻印されていた。



「こんな大事なものを……ありがとうございます。

 それと僕、アカツキにずっと聞きたいことがあったんです」



 リトが武器として使う魔銃はアカツキの父の形見で、それにも同じ紋様が記されていた。

 そして一ヶ月ちょっと前、リトは偶然ある写真にも同じものを見つけていたのだ。



「そうだろうな。アーサー王に会ったのなら……」


「それもですけど、僕が聞きたいのはこれの事です」



 そう言ってリトはポーチから白黒の古い写真を取り出した。



 弓を背負うひょろりとした浅黒い肌のエルフ。

 大きな盾を背負った髪もヒゲもないドワーフ。

 大きな球体の嵌った装飾的な杖を持つこれと言って特徴のない男。

 三角帽にマント、長い杖を持つリトの祖父の若き頃の姿。

 そして真ん中に映る、腰に二丁の魔銃を差しているアカツキと瓜二つの若い青年。



「「「「え?」」」」



 覗き込んでいた若手組の他四人がそれを見て素っ頓狂な声を上げた。



「これ、パパ?」



 ルナが不思議そうに訊ねる。

 リトは写真を裏返した。


 そこには祖父の文字で『魔王討伐記念』と書かれている。


 もう一度表に返しリトは自分の腰に差してある魔銃をテーブルに乗せグリップの一点と写真の青年が差す魔銃のグリップを示した。


 そこには懐中時計と同じ太陽を模した紋様が写りこんでいる。



「アカツキと、勇者アサヒはどんな関係なんですか?」



 予想はもう着いてる。だがアカツキ自身の口から聞きたかった。



 アカツキは写真を取りあげるとふっと笑った。



「こんなものを見つけていたとはな」



 と普段はあまり動かさない表情を懐かしそうなものに変える。



「ちょうどいい機会だ。お前たち若手組にもいい加減話しておこうと思っていた。

 アーサー王と俺の関係……いや、夜の巣の全てに関わる話だ……」



 その時、食堂のドアがバーーーーーンッッッ!!!と大きな音を立てて開いた。



「おおっとぉ!待て待て!

 その話をするにはおれが欠かせねえだろ?」



 えらく荒っぽい口調で話しながら現れたのはカーキブロンドに目を包帯で覆った可憐な少女……の様な姿をした女性だ。



 彼女の名はルシアン。

 触れた者の未来を視ることのできる稀有(けう)な存在の彼女は夜の巣の情報部の中枢(ちゅうすう)を担う人物だ。

 因みにルシアンの予知は彼女自身が働きかけると変わってしまうので普段は夜の巣のアジトであるここの結界の奥に引き篭もりっぱなしだ。



「よお、リト!誕生日おめでとうだな!記念におれさまが無料で「視て」やるよ!」



 そう言ってズカズカとやってくると、リトの手を取ってしばらく黙った。



 ここだけの話、ルシアンは金の亡者である。彼女に何か頼み事をすると、ことあるごとに金をむしり取ろうとすることで有名だ。



「っかーーーっ!ダメっだ!お前の未来はどうあっても視えねえ!

 魔力差の問題か?なんなんだ!せっかく視てやったのにやり損じゃねえか!」



 そう、リトの未来はルシアンにも見えない。それはリトの高すぎる魔力のせいなのかなんなんなのか理由は判明していない。



 初めてルシアンを目にしたアルは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

 小柄だが女性らしい体つきと可愛らしい少女の様な見た目に反するルシアンの男勝(おとこまさ)りな言動に驚いているのだろう。



「ちぇっせっかくお前のカノジョってやつ見てみたかったのにな!」



 本音はそっちか。



「ルシアン、不謹慎(ふきんしん)だぞ」



 今度はエドワードがルシアンを注意する。



「けっ!ケツの青いガキがおれに意見するんじゃねえ!」


「俺もう大人なんだけど……」


「おれらに比べりゃまだまだずーーーーっとガキンチョのままだよ!」



 アカツキもだが大人組の年齢は分かりにくい。中でも一番分からないのはルシアンだ。



「さあさあ座った座った。物語の始まりだ!」


「長い……本当に長い話になる。座って聞いた方が楽だろう」



 アカツキもそう言ってみんなが食堂のテーブルに腰掛ける。



「俺の父の名前はソル。勇者アサヒの息子だ」


「そのアサヒの母親こそが当時の国王の妹だったんだぜ!出奔してたがな!

 つまりアカツキはアーサー王の三従兄弟(みいとこ)だぞ!」



 みんなギョッとした。



「ウィクス王家の者は特別な目をもつ。祖父も、父も、俺も。

 代々曾祖母から受け継いできたのがこの青い目だ」



 確かにアカツキの鮮やかすぎる青い目の色はアーサーのそれと同じ色だ。



「ウィクス王家の目は様々なものを見通す!

 脳の僅かな魔力の動きまで見逃さずその動きを見て口に出してないことまで言い当てることができるんだぞ!他にも色々あるぜ!」



 ルシアンが補足した。



「俺の代ではもう随分薄れてしまった。条件を満たさないとそう簡単には見抜けない」


「アサヒについてはアカツキよりおれの方が詳しい!

 話してやろう!勇者一行のその後の物語を!」



 そう言って長い長い話が始まったのだった。

巡る巡る。夜の巣創設以前の物語。

次話から、全てが繋がる勇者のその後の物語が始まります。

どうぞお楽しみください。


この後すぐ更新!ᐕ)ノ

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