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閑話 夜の巣の聖晩祭

少し時系列が前に遡ります。

第三章直前の出来事です。


 冬、始め月下旬。

 寒さが本格的になり吐く息が白い。

 リトは背の高い木の上で寒さに悴んだ手を擦り合わせた。

 いつもの朝稽古を終えて射撃訓練をしていると少し寒さが堪える。


 狙いはいつでも正確に。どんな体制であろうと標的に当てるのだ。


 とは言え動き回る相手でなくその時々で配置を変えた的ではそう大したことはできないのだが。

 少し変化を着けるため借りた木製のブーメランを連続で五つほど角度や腕の振り加減を変えて投げる。

 リトは木の上から飛び降り宙返りした。

 空を切って回転するブーメランは様々な方角へ飛んでいき、やがて変則的に方向を変えてリトに迫ってきた。

 自由落下に身を任せ壊さない程度まで威力を絞って狙いを定め、撃つ。放たれたエネルギー弾は一つ残らず命中し、ブーメランがその場にポトリと落ちる。


 今日はこれくらいにしようかな。

 一人の訓練は味気ない。


 そうしてリトは引き上げる事にした。




 ◇◇◇


「お邪魔します」



 ぬくぬくとしたダグの小屋へ入るとリトは寒暖差でブルリと身を震わせた。タンスへ向かおうとするとダグが手招きする。

 何事かと思い近づくとダグは何かを握って手を差し出した。不思議に思いながらリトが両手を受け皿にするよう差し出すとその手にちょんと何かが置かれた。

 見ればそれは小さな木彫りのトナカイだった。二頭の内一頭は両角にリボンをつけている。



「わぁ……可愛いですね」



 ダグはちょいちょいとリボンのついてない方を指してリトを指差し、リボンの方を指しタンスへその指を向けた。

 リトはその意味を正確に読み取り合点いった。



「こっちが僕で、こっちは……ルナにですね?」



 ダグじぃがこくりと頷く。



「ありがとうございます。大事にしますね……でも、どうして急に僕たちにこれを?」



 リトが訊ねるとダグじぃは片眉をひょいと上げた。つぶらな瞳がぱちくりする。

 うんうんと頷きながら揺り椅子から立ち上がりタンスへ背を押し始めた。



「???」



 リトは首を傾げながらもタンスを潜るしかなかった。




 ◇◇◇


 タンスを潜ると鍛冶場だ。いつも何かしらトンテンカンテンと騒がしいのに今日は誰も居ない。


 朝ごはんかな?


 そう思いながら食堂へ繋がる鏡を通ると面食らった。いつもポツポツとしか人がいない食堂がきょうはごった返していた。

 ガヤガヤと賑やかな声。

 椅子が取り払われたテーブルにはすでにご馳走が並べられており、立食形式で各々が皿に取って楽しんでいる。

 いつも料理を取りに行くカウンターには酒やジュースなど様々な飲み物が大きなピッチャーに入れられて並んでいた。


 一体全体何事だ。


 そう思って固まっているといきなり頭に肘が置かれた。



「よぉ〜修行帰りかぁ?相変わらず精が出るな」



 シャンパン片手に出来上がっているカティが絡んできた。



「か、カティ?こんな朝っぱらから何飲んでるんだよ。それにこれは……?」



 リトはこの状況の説明を求めた。



「あ〜ん?

 子供がこの日忘れちゃダメだろ〜」



 カティがちょっと前まで自分も未成年だったことを棚に上げて勿体ぶる。



「今日は聖晩祭だぞ」



 リトは頭のてっぺんに雷が落ちたような気がした。


 そうだった。忘れてた。すっかり忘れてた。


 聖晩祭。それはこの世界が始まったとされる日から五日間この世に生まれたことへ感謝する日である。

 大切な人や家族と過ごす日。特に最初の二日間ははご馳走を食べ、贈り物をし合ってたりする風習があるのだ。


 夜の巣に来て様々なことがありすぎて完全に忘ていたが去年までは祖父とささやかながらご馳走とケーキを食べ、プレゼントを贈り合っていたではないか。


 ダグじぃのさっきのトナカイはその贈り物だったのか。リトが固まっていると足元に小さな衝撃が加わった。



「リト、おはよう!せい、ばんさいおめでとう!」



 ルナが聖晩祭の言葉に詰まりながらもニコニコとしながら足にしがみついていた。



「ルナ、おはよう。聖晩祭おめでとう」



 リトもにっこりするとルナは両手を口に当ててうふふと笑う。



「いつもいないみんながいるの。たのしいの」



 見回すと普段あまりいやほとんど見かけないメンバーの姿もちらほら見えた。



「そうだルナこれ……」



 リトはしゃがんでルナに両ツノにリボンが結ばれた小さなトナカイを取り出した。



「わぁ!かわいい!」


「ダグじぃからのプレゼントだよ」


「わぁい!」



 ルナは木彫りのトナカイを両手に捧げ持ちくるくると回った。



「夜はお楽しみのプレゼント交換会だぞ」



 そうこうしているとエドワードまでやってきた。



「プレゼント交換会!?」


「ん?あ、そっかそりゃそうだ。お前夜の巣での聖晩祭初めてだもんな。うちじゃ聖晩祭の初日の夜に交換会するんだよ。

 音楽に合わせてプレゼント回してって止まった時のがそいつのだってな。賑やかだぞ」



 大変だ!何も用意してない!


 リトが慌てているとエドワードが頭を撫でてきた。



「まだ朝だし後で買いに行けばいいだろ。取り敢えず朝食でも取ってきたらどうだ?」



 リトはハッとしてルナを連れ慌てて食事を取りに行った。

 ノーマンの作ったローストチキンは絶品だった。




 ◇◇◇


 雪の舞う王都を駆ける。

 片腕には大きなリボンでラッピングされた大きな包みを。もう片手には洒落た白い箱に青いリボンがかけられた大事なプレゼントを。


 辿り着いた孤児院の門を潜ると門衛たちにヒューヒューと冷やかされたが気にしない。聖晩祭の初日に成さねばならぬ使命があるのだから。


 一呼吸息を整えて、孤児院の扉をノックする。するといつもの若いシスターが出てきた。



「いらっしゃい。来ると思ってたわ」



 シスターはくすりと笑った。部屋へ案内され、少し緊張しながらノックをした。「どうぞ」と鈴を転がすような声に促され入室すると車椅子で机に着くヨルがいた。



「まあ、リト!」



 ヨルが振り返り花が綻ぶような笑みを零した。



「ヨル、調子はどう?」



 リトが車椅子を動かしてやり向かい合うと



「ええ、それはもう。だいぶ良くなりました。もうじき左足のギプスが外せそうとのことです」


「よかった」



 ヨルの怪我の治りにリトはほっと息を吐いた。



「ヨル、これプレゼント」



 リトはヨルの左手を取り箱を乗せた。



「まあ!ありがとうございますリト!」



 ヨルの代わりに箱のリボンを解いてそっと開ける。


 気に入ってくれるかな?


 中には磨かれた青い石が嵌め込まれた一対の髪飾り鎮座していた。



「綺麗……」


「ヨルの髪に似合うかなって思って」



 ヨルは黒に限りなく近い自分の髪をコンプレックスに思っている。だがリトは光に透かせばかすかに青に透けるこの色が好きだ。

 ヨルは瞳を潤ませた。



「リト、ありがとうございます。大切にします」



 リトはヨルの髪をいつもしていたように結って髪飾りを着けてやった。手鏡でそれを見たヨルが花のような笑顔を咲かせる。



「聖晩祭おめでとう」



 そう言ってリトはヨルと小さなキスを交わした。




 ◇◇◇


 夜になりお待ちかねのプレゼント交換会だ。繋ぎの間のだだっ広い空間に円形になったメンバーがひしめく。

 リトはルナとエドワードに挟まれて座っていた。



「えーえーごほん!例年通り司会はこの俺様カティがお送りするぜ!みんな用意はいいか?」



 そのど真ん中に立ったカティの呼び掛けに「ウオオーーー!!!」と歓声が上がる。飲んで騒いで食べてお腹も膨れて眠くなる頃……と思いきやみんな興奮からか目がギンギンだ。


 なんだこの空気は。


 リトがやや不穏さを感じているとカティが続ける。



「今年は新入りのリトが居るからな!ルール説明だ!

 プレゼントは音楽に合わせて左回りに回す!

 当たったヤツを開けて交換OK!自分じゃ使えねえのもあるからな!

 そしてプレゼントは()()()()使()()()

 以上の三つだ!それじゃあ行くぞ?レッツゴー!!」



 カティがアカツキの部屋から持ち出したバイオリンを弾きだす。見事な腕前なのだがリトはそれどころではなかった。


 早い。

 何が早いって回すスピードが。高速で隣から隣へ受け渡されるプレゼントが霞むように飛んでいく。


 まるで全員でお手玉してるようだ。


 カティの演奏は徐々に盛り上がり曲の最高潮に達しする直前で、 ピタッと止んだ。みんなが笑いながらそれぞれの手に渡ったプレゼントを開けていく。



「おい誰だ!パンツなんて入れたのは!」


「キャー!バジリスク!……っておもちゃじゃないの!本物かと思う手触りだったわ!」


「俺メイド服が当たったんだが……入るか?」



 ネタに走ったモノも多いようだ。その中で……



「あら、枕?なになに『快眠枕』……素敵じゃない!」



 明るい水色髪のノエルがリトのプレゼントを引き当て喜んでいた。すると



「あ〜!それ俺と交換してくれ〜〜〜!」



 ラベンダーブロンドの確かナイトという名の前髪で殆ど顔が見えないメンバーがノエルに手を伸ばした。



「嫌よ!だってあなた快眠グッズもうたくさん持ってるじゃない!私だって快眠したいしあなたが当てたのと交換はごめんだわ」



 ナイトが手に持つのはルーレットシュークリーム詰め合わせ。内容は激辛、激苦、激甘、激酸、激旨の五種類。

 当たりが一つしかないという大いに遊び心に溢れたモノだった。ノエルが断るのも納得である。

 リトの手元にあるのは可愛らしいラッピングがされた小さな袋。開けると可愛らしい小さなミトンだった。


 これは……



「あーーーっ!おっしい!お前が居ると予知が狂うんだよ!」



 カーキブロンドの女性がピンクのミトンを指差して叫んだ。彼女はルシアン。極めて珍しい予知能力を持つ情報部の中心人物だ。



「くっそー!リト、てめえルナと交換しやがれ!」



 リトはなるほどと納得した。ルシアンはこれがリトの右隣にいるルナに渡ると予知していたのだ。早速交換しようとルナを見ると



「わー!これなあに?じゅーす!」



 掲げていいたのはなんと酒。ショッキングピンクの液体になみなみと満たされた瓶に貼られたラベルの度数を見てリトは目玉が飛び出した。


 これはなんとしてでも交換せねば。



「る、ルナ、僕のこの可愛いミトンと交換しない?」



 できるだけ動揺を抑えつつミトンの可愛らしさをアピールする。



「ほら、これ見て。フリフリだよ」


「ルナに似合いそうな可愛いピンクだなあ」


「このリボン真ん中にパールが付いてるよ。すごいね!」



 見れば見るほど作り込まれたミトンに感服するがルナはフルフルと首を振る。



「あ、ルナちょっとここ触ってみて」



 そっとルナの手を取りミトンの中へ差し込むと



「わあ!ふわふわ!」



 ルナはぱあっと笑顔を咲かせた。



「ね、気持ちいいね。ルナの手にピッタリの大きさだよ」


「かわいい……」



 そう言って嵌めてやるとルナは頬を染めた。



「僕の手は大きすぎて入らないんだ。ルナへのプレゼントだよ」


「ルナのプレゼント?」



 ルナのツインテールがぴょんと跳ねる。



「じゃあ、ルナもリトにこれあげる!」



 そう言ってリトにショッキングピンクの酒を渡す。



「ありがとう」



 リトはにっこりしてルナの頭を撫でた。


 さて、後はこれをどうにかせねば。


 と思い辺りを見回すがみんなもうそれぞれ満足のいくプレゼントに交換し終わっておりやり場がない。その時ふと、視線を感じて見やるとアカツキと目が合った。

 その手には黄土色の粘り気のある液体がなみなみと入った瓶が。


 誰からのプレゼントか一目で分かる。

 というかなんてものを混ぜてるんだオルガは!プレゼントというより罰ゲームでしかない。


 リトはフルフルと首を振った。アカツキは心なしかしゅんとした……ように見えた。



「お、俺のはあったかそうな靴下だな!誰のか知らんがサンキュー!

 じゃ、みんな交換し終わったな?早速ご使用タイムだ!着替える野郎は後ろ向けよちゃんと!」



 各々着替えたり羽織ったり、食べたり飲んだりしている中、リトと、斜め向かいのアカツキはゆっくりと顔を見合わせた。

 そしてお互い覚悟を決めると頷き合い、瓶の栓を抜いて一気飲みした。

 リトは滅多なことでは酔わない。魔力の高さに比例して薬や毒……つまり酒も分解してしまうから。


 そう思って瓶を空にすると目の前がぐにゃりと曲がった。視界の隅でオレンジ色の何かが爆発したような気がしたがそこでリトの記憶は途切れた。




 ◇◇◇


 翌朝。目を覚ましたリトが酒を飲んだ後、自分とアカツキがどうなったのか誰に聞いて回っても教えてくれなかった。

お読み下さりありがとうございます❀.(*´▽`*)❀.


夜の巣のクリスマス楽しんでいただけたでしょうか?

夜明けワールドの聖晩祭はクリスマスとお正月が重なったような感じです(*´∀`*)


……アカツキとリトに何が起こったかは伏せておきますね。彼らのイメージ保持のために……。


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