第十三話 形見
リトはアカツキと共に黒の扉を通って大きな岩の立ち並ぶ山肌を下っていた。
十分も歩くと小さく口を開ける黒い穴が見えてきた。
「ここはまだ人の手が入っていない山だ。この洞窟では希少な鉱石が採れる」
アカツキは穴に滑り込みながら言う。入口は狭かったが中はアカツキが真っ直ぐ立てる程高かった。アカツキが魔道カンテラの蓋を捻って灯りをともす。
明るくなると黒い土に横穴がいくつか開いているのが見えた。
「行くぞ」
アカツキがそのひとつに進む。リトは足早に着いて行った。突き当たりまで進むと壁面や地面にキラキラと光を反射する大きな鉱石があちこちに埋まっていた。
「これで掘れ」
とアカツキがツルハシを放ってくる。リトとアカツキは鉱石を掘り始めた。
◇◇◇
話は数日前に遡る。
アカツキとリトは青の扉を通って人気のない砂浜にいた。
「戦闘をするにあたって、魔力が優位でも得物ひとつで立場は逆転する。
今日は武器を試す。魔力を持て余しているお前でも使える物をな」
とアカツキはリトに短剣を渡す。
「これに魔力を通してかかってこい」
——結果として短剣や長剣は溶けて、弓は折れたし魔銃は暴発した。
リトの魔力操作は解呪に特化したもので、体の外側でのコントロールはダメダメだ。その上戦闘ともなると必要以上の魔力を大量に流してしまう。
あまりにも膨大な量の魔力はエネルギーとなり、放出されることなく留まって武器を溶かす熱となった。
「試してみるか?」
とアカツキの魔砲を持たせてもらって海へ向かった。
魔力を絞って撃つ。物凄い音と共に飛び出したとてつもない量のエネルギーは海を割って遠くでやっと消えた。こんなもの街では使えない。
魔砲は中の変換器が焼ききれた。
「まあ……そうなるだろうな」
アカツキは煙を上げる魔砲を見下ろした。次々と、そしてアカツキの武器まで破壊したリトは申し訳なさでいっぱいだった。
「いい。想定内だ」
とアカツキはポンとリトの頭に手を置いた。
◇◇◇
今日は破壊した武器で消費してしまったミスリルやオリハルコンなどの鉱石を堀りに来たのだ。普通そうそう手に入ることの無い鉱石達だが、この横穴ではゴロゴロ出てくるらしい。
リトとアカツキは黙々と掘り進めた。
鉱石をアカツキに確かめつつポーチに収納していった。少し場所を変え、勢いよく土にツルハシを振り下ろすとガツンッと腕に強い振動。手元に戻したツルハシが欠けていた。
「?」
リトがツルハシの反対側でそっと掘り進めると、漆黒の鉱石がゴロゴロと出てきた。
「これはなんですか?」
とアカツキに問う。アカツキは鉱石を取り上げ小さなトンカチを取り出して軽く叩く。ほとんど音が響かない。
「アダンマイトだ。魔力を非常に通しにくく、この世のあらゆる鉱物の中で最も固い。だが非常に重いため武器に使うことはほとんどない」
返されたアダンマイトは確かに他の鉱石より重たかった。
この世界では武器に魔力を通して戦うことは基本中の基本だ。
リトは全く通さずに使っていたが。
中でもミスリルは軽く、魔力を非常によく通す。一般的にはほかの金属にミスリルを少し混ぜた合金製の武器が主流だが、夜の巣では贅沢に使われているものが多い。
リトが溶かしてしまった短剣なんかは純ミスリル製のものだった。
オリハルコンはミスリル以上に魔力を通し、アダンマイトに次いで硬いといわれる。アカツキの魔砲にはオリハルコンが使われているらしい。
アカツキを見るとリトの置いたアダンマイトを手に取り何かを思案している。リトは掘削作業に戻った。
◇◇◇
数時間後。充分な量の鉱石を採取したリト達はつなぎの間に戻った。
「用事が出来た」
とアカツキは緑のドアを開けて出ていったのでリトは食堂で朝食を摂ることにした。
食堂に戻るとカティが赤髪の青年と向かい合って朝食を摂っていた。エドワードだ。
リトが朝食を手に近づくと二人が手をあげる。
エドワードはカティと仲の良い顔の割れていない夜の巣のメンバーの一人で二十一歳。背はカティより少し低い。
浮遊術が得意でリトの本棚を組み立てるのも手伝ってくれた。
「おーリト。朝食か?ここ座れよ」
カティが隣を叩いた。リトが腰を落ち着けるとエドワードが口を開く。
「稽古の調子はどうだ?」
「うーん……。ちょっと行き詰まってる。武器に魔力を通すのが難しくて……」
壊した武器の数々をまた思い出してリトはしょんぼりする。
武器に魔力を通すことに集中すればアカツキに伸されてしまうし、アカツキに気を取られるとと武器が壊れる。堂々巡りだ。
アカツキは反撃を繰り出す回数をだいぶ増やしているのだ。二人がリトの肩を慰めるようにポンポンと叩いた。
朝食を食べ終えたリトはルナを探した。
オルガの所かな?
茶色い扉を1番に合わせ、医務室を通ってオルガの部屋へ行く。オルガが何かを調合している側で案の定ルナはお絵描きをしていた。
「あ!リト!!」
ルナが顔を上げ駆け寄ってくる。リトはルナの持ち上げてくるんと一回りしてやった。ルナがはしゃぐ。
「リト。今日も解析ですか?」
オルガが問った。リトは頷いた。
オルガの部屋は沢山の薬草や書類、器具で溢れている。
祖父が仕込んでくれたおかげでちょっとした薬が調合できるリトでも、見たことの無い薬草や、角、骨などの材料はびっちりと壁一面に並ぶ小ぶりな引き出しに納められていた。
この引き出しに保存の結界を張ったのはカティらしい。
これを作るよう頼まれた時、カティはちょっと泣いたそうだ。
部屋の至る所に蒸留器や、フラスコ、試験管、鍋やすり鉢、アルコールランプに藥研や見たこともない道具が渦高く積んである。
リトはお絵描きを再開したルナの頭に手を置き魔力を巡らせた。
他人の体に魔力を巡らせることを『潜る』という。
潜る時は頭から足まで広範囲にじわじわと広げていくのが普通だ。リトの解呪もそうだ。
しかしルナの呪いの核は魔力を吸い取る。リトも体験済みだったが以前オルガが話してくれた。
————「ルナの呪いは厄介です。核と核が共鳴し合い魔力を求めて移動します。
「調整」のために私も潜ることがありますが命懸けです。微細なコントロールをしなければあっという間に魔力が枯渇するでしょう」
オルガは厳しい顔で指を三本立てた。
「そのため、あなたが解呪に使っていいのは一日三時間。それ以内に納めてください」
————月に一度。ルナは『調整』をしなければならない。
外部から魔力を整えて貰わなければ体が腐ってしまうのだ。生きながらにして。
早く解いてやりたい。
リトは強くそう思っていた。
◇◇◇
五日後早朝。
リトはアカツキに呼ばれて海に行へ行った。紋様の刻まれた木を通り抜けて砂浜へ。
そこでアカツキがまた何かを放ってきて慌ててキャッチするとそれは魔銃だった。
魔銃とはグリップに描かれた紋様から魔力を取り込み、内蔵された変換器で物理エネルギーへ変えて弾として撃ち出す武器だ。
正式名称は魔導式変換銃。
一般的には銃身はかなり太く、短く、二重構造になっており、外側は魔力伝達の低めの頑丈な合金、内側はミスリル合金等に加速等の魔法が定着されている。
魔力が枯渇しない限り連続射撃ができるし、ものには依るがその威力は凄まじい。
勇者が使っていた事もあり、憧れる者は多い。
しかし扱いが難しいので実際には相応の実力者か、見栄え重視のアクセサリー感覚や威嚇用に使う者が多いのだ。
渡された魔銃を見る。
漆黒の外装。緩くウェーブを描くグリップには木目が見えた。その銃身は普通の物より長くスマートだ。そして重い。
「あそこに向けて撃ってみろ」
アカツキは海に浮かぶ五百メートルはあろう距離の的を指さした。
普通の魔銃の射程距離の倍以上はある。しかもこの間暴発実証済みだ。
「いいから撃ってみろ」
アカツキが促す。
リトはフーと息を吐いて魔力を絞り、照準を合わせ……引き金をを引いた。
ドンッという音と共に飛び出したエネルギーは的を掠めて海の向こう側で消えた。
銃口を取り巻く燐光が散る。
撃てた……それも、暴発なしに。
「どうして……?」
とリトが問うとアカツキがよくぞ聞いてくれたとばかりにニヤリとした。こんな顔は珍しい。
「変換器にアダンマイトを使用した。お前の魔力を一度アダンマイトで削って変換し、加速魔法を定着させたオリハルコンの銃身で威力を増幅して撃ち出す。
お前は思い切り魔力を流して撃てばいいだけだ。
先日使った武器で唯一、変換器以外無事で形をとどめてたからな。魔銃は。
魔力が大きすぎて制御出来ず、暴発するなら削ってやればいいわけだ」
発想の転換だ。とアカツキが肩をすくめた。
すごい……そんな事ができるなんて……!!!
アカツキは続ける。
「グリップは与える魔力によって硬さを増す木、ユガルド製だ。火には弱いから気をつけろ。外装にもアダンマイトが多量使ってある。
これらは俺の父が使っていたものだ。魔砲が出来るまで俺も使っていた」
アカツキが更にもう一丁、同じ魔銃を渡してきた。
「変換器を交換したことで、ずっと重くなったがお前には楽に扱えるだろう」
と締めくくる。
アカツキのお父さんの形見……。そんな大切なものを自分のために組み替えてくれたなんて。
リトは胸がいっぱいになり、ぺこりと大きく頭を下げた。




