M54 勧誘会
雨が降った。
「・・・。」
お料理倶楽部の面々は恨めしげに天を見上げている。
今日は倶楽部勧誘会の日。今頃、屋内組の倶楽部は初等部生徒の勧誘に勤しんでいるのだろう。でも、あたし達を含めた屋外組は何も出来ない。
「セーラがあんな事言うから・・・。」
あたしが言うとセーラは面喰らった様に目を剥いて尋ねてくる。
「え!?私のせいなの!?」
「冗談よ。」
あたしは笑った。
まあ「盛大なフラグを立ててくれたなぁ」くらいは思ったけど、別にコレはコレでマヌケさが際だって面白い。
あたしにして見れば最初から勧誘なんてどうでも良くて、ただみんなで楽しめれば良かったんだ。そんで準備段階でもう充分に楽しんだ。
だから、まあ、みんなは残念かも知れないけどあたし的にはこのまま静かに幕を下ろしても構わないかなと思ってる。
「ま、明日も有るんだし今日は諦めましょう。」
「・・・はーい。」
みんな渋々と言った感じで返事する。
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
「残念だったね。」
夜、部屋でマリの言った言葉にあたしは首を傾げた。
「何が?」
「・・・。」
銀髪美少女が釈然としない表情になる。
「何が・・・って、勧誘会の事。」
「ああ・・・。」
マリが不思議そうな顔に首を傾げた。
「そうでも無いの?」
「いやぁ、まあ・・・うん。もう結構楽しんだなぁと思って。」
「・・・ふっ。」
暫くあたしの顔を見ていたマリが軽く吹き出した。
「あ、笑った。」
「だってあんなに張り切ってたのに、本番が出来なくても構わないなんて・・・」
クスクスと笑うマリに見惚れながらあたしは照れ笑いをする。
「でも、マリだってそんなに残念そうじゃ無いじゃない。」
「私はヒナちゃんと何か出来たら其れで充分だもん。」
チクショウ、このハート泥棒め。いちいちドキドキさせるな。・・・ヤバい。手を出したくなってきた。話を変えよう。
「そ、そう言えば、マ・・・マリは・・・。」
「?」
・・・なんも思いつかん。ええっと・・・。
「み・・・味噌とか、醤油とかにあんまり食い付いてこなかったね。」
「え?」
ああ!!
ヘタクソか!あたしは!
「そうだね。実は私、前世でもそんなに味噌とか醤油とか口にしなかったんだよね。」
「え!?」
・・・今日一、驚いた。
マジで?じゃあ何食って生きてきたん?
「大豆が私の身体に余り合ってなかったみたいなんだ。アレルギーって程では無いんだけど、体調に拠ってはお腹を壊したり蕁麻疹が出たりしてたから、口にする機会は殆ど無かったかな。」
ああ、体質かぁ・・・。じゃあしょうがないな。
「そっか、それじゃ前は何を食べてたの?」
「ん?パンとかお肉とか野菜とか。今の食生活と余り変わらない。」
・・・そうだった。忘れてた。この子、超大金持ちの家のお嬢さんだったんだ。
「じゃあ、コッチに来てもそんなに違和感は無かったんだ?」
「うん。テーブルマナーも前世とそんなに大差は無かったし、そう言う処での苦労は無かったかな。」
信じられん。
あたしは苦労した。超苦労した。コッチで目覚めて学園に入学するまでの1週間はこのテーブルマナーに費やされたと言っても過言では無い。
家の人達は、あたしが「記憶喪失になっているからテーブルマナーも忘れてしまったのだろう」と思ってくれた様で一から丁寧に教えてくれたから助かったけど。
ぬぅ・・・。この生活レベルの違いよ・・・。
あたしは両腕を頭の後ろに組んで寝転んだ。
「なるほどねぇ・・・。じゃあ、あんまり味噌や醤油に興味は無いのか。」
呟くとマリが慌てた様に言った。
「そんな事無いよ。前世では余り口に出来なかったし。其れにヒナちゃんが食べたい物なら私も興味あるよ。」
うーん・・・こう言う処が可愛いなぁ。
「うん、アリガト。」
あたしが微笑むとマリは顔を真っ赤にして擦り寄ってあたしの横に寝転んでくる。
「ヒナちゃん。」
「なあに?」
「・・・。」
マリが左手の人差し指をあたしに突き出した。
「・・・。」
あたしはマリの繊やかな指を見つめる。
マリは、アイナの婚約事情に端を発してあたしが失言したあの日のイチャつきの後から、時々こう言う要求をしてくる様になった。
「今日はダメ。」
「ええっ・・・なんで。」
あたしが顔を逸らすとマリが不満そうに声を上げて理由を尋ねてくる。
なんでも何も・・・。さっき、あたしの感情がヤバかったから・・・なんて事は言えない。そんな事を言ったらマリが燃え上がってしまう。
もし明日晴れたら勧誘会が始まるって言うのに、ヘロヘロの状態で本番に出るわけには行かない。
「今日は気分が乗らないもん。」
そう言うと、マリは身体をあたしにピッタリとくっつけて上目遣いにあたしを見上げてきた。そして指を突き出す。
「お願い。」
普段のマリなら「そっか。」とか言って直ぐに諦めるのに。
チクショウ、ココまで粘られては拒否はムリだ。っつーか、変に拒否し続けて、マリの火を猛らせてしまったら手に負えなくなる。
「今日はソレだけだよ?」
「うん。」
「・・・。」
あたしが起き上がるとマリも続いて起き上がった。
自分の頬が火照るのを感じながら彼女の指をペロリと舐めた。
「・・・もっと。」
マリの声にあたしは更に舌を這わせる。第二関節まで。指の付け根まで。指と指の股まで。
「・・・ふぁ・・・。」
彼女の口から声が漏れる。
「・・・。」
あたしは舐めるのを止めてマリの恍惚とした表情を見つめた。
マリはあたしに視線を合わせると、あたしの背中に右腕を回してグイッとあたしの身体を自分に寄せる。あたしはその勢いに思わず彼女の膝の上に手を置いて身体を支えた。
・・・この子、ひょっとしたらあたしよりも力強いんじゃないかな?
難なく身体の位置を腕1本でズラされてしまったあたしはそう思った。
マリはあたしのそんな感想など勿論知らずにあたしの横顔を眺めている。そして更に指をあたしの口元に近づけて囁いた。
「咥えて・・・。」
あたしは、その艶っぽい声にゾクリと身を震わせてから、マリの指をパクりと口に含んだ。
口の中でマリの指がクネクネと動く。あたしはその指に舌を絡めた。そしてチュルッと吸い付くとマリから吐息が漏れる。
彼女の息が荒い。
またマリが囁いた。
「・・・噛んで。」
この子はコレが好きみたいで必ず1回は言ってくる。あたしは軽く歯を立てて甘噛みした。
「・・・う・・・」
マリがブルリと震える。
・・・気持ち良さそうだな・・・。
マリの蕩けそうな顔を見てあたしは思う。そんなに良いのかな?
「・・・」
あたしは黙ってマリに右手の人差し指を突き出した。
「・・・」
マリがあたしの指とあたしの顔を見比べる。
「・・・舐めて。」
ドキドキしながらあたしが言うと、マリは指に口を寄せて舌を出した。
『ペロリ』
彼女の柔らかくて温かい舌があたしの指を濡らす。
ゾクリとした。
これまでにも、もっと敏感な首筋とかを舐められたりしている筈なのに、なんでこんなにゾクゾクするのか。
マリは更にあたしの指に舌を這わせる。さっきあたしがマリにやって見せた様に、第二関節まで。指の付け根まで。指と指の股まで。
ああ・・・。と理解した。
マリの這う舌が、その彼女の表情が、舐められる快感と共にあたしの視覚に入ってくる。恍惚とした表情にあたしも惹き込まれていく。・・・コレは堪らないかも知れない。
「マリ・・・。」
あたしは彼女に囁いた。
「・・・咥えてよ。」
「・・・。」
マリの顔が更に紅くなっていく。
彼女は小さな口を開けてパクりとあたしの人差し指を咥えた。
「はぁ・・・」
と思わず口から吐息が漏れる。
堪んない。あたしはマリの肩を押すと彼女を押し倒した。
「わっ。」
マリが驚いて小さく声を上げた。
「ビックリするよ、ヒナちゃん。」
マリの軽い抗議の視線が可愛い。
っていうか未だ「ちゃん付けモード」なんだ。良かったと言うべきか、残念と言うべきか。
「ゴメン。」
あたしは微笑んでそう言うと、仰向けになったマリの口の中に再び指を差込む。
マリは口に含んだあたしの人差し指に舌を絡め続ける。
時折聞こえて来る「ピチャリ」という水温が、あたしの心音を高鳴らせる。
あたしは彼女の耳元に口を寄せて囁いた。
「・・・噛んで。」
「・・・。」
マリは指を咥えたまま、あたしをチラリと見ると指に歯を立てた。
「!」
身の毛が弥立つ。
何、今の。柔らかく絡んでいた舌の感覚の中から、不意に現れた固い歯の攻撃的な感覚に鳥肌が立った。・・・でも・・・悪くない。コレは嵌まる。間違い無い。
「ねえ、マリ。エッチな事はしないけど・・・今日は一緒に寝ようか。」
「・・・うん。」
マリが嬉しそうに笑った。
で、その夜は指がフニャフニャになった訳で。まあ、それ以上は何も無かったんだけど。
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
翌朝はお日様カンカンだった。
お料理倶楽部の面々は張り切って初等部の校庭で準備に勤しんでいる。あたしは其の様子を少し離れた所で体育座りをして眺めていた。
「晴れちゃったかぁ・・・。」
正直な感想である。
これで入部者が少なければ未だ良い。みんなで「残念だったねぇ。」とか何とか言っとけば良いだけだから。
でも・・・もし「入部希望者が多数」なんて事になったら、纏める身としては気が重い。
「ヒナ、準備出来たわ。」
セーラが呼びに来る。
「わかったぁ」
あたしは応えてみんなの集まる場所に行く。
みんなには予め武術着を着せている。そのままだとアイナとかセーラがエロいので、上から薄い上着などを羽織わせてはいるけど。
「武術着を着る必要なんてあったの?」
「何を言ってるの。料理は戦いよ!」
アイナの問いにあたしはそう返す。
1年生達は昨日、屋内の倶楽部勧誘を堪能した事もあってか、今日はお日様の下に姿を見せている。
あたし達は用意したバーベキューセットを使って、肉焼き組、野菜担当組、お鍋組に別れて調理に入る。因みにお鍋は、あたし特性の鶏ガラスープをベースにした塩風味の豚汁だ。鶏なのか、豚なのかってツッコミは不要だ。
アリエッタちゃん達、1年生の新入部員のみんなは、通り過ぎる1年生達に声を掛けては料理を振る舞っている。
何しろ材料は昨日使えなかった分まで大量に余っている。
「剥け剥け!」
「切れ切れ!」
「焼け焼け!」
「煮れ煮れ!」
みんな最初の上品さは何処かへ打っちゃってしまって、殺伐とした雰囲気が漂ってくる。
良い匂いが校庭に漂い、明らかに1年生以外の人達も寄って来ている。
「どうしよう?」
と相談してきたフレアにあたしは言い放つ。
「ええい、構わん!全員に喰らわせてやれ!」
ともあれ、全員のテンションが爆上がり状態だ。
「材料が足りないわ!」
「氷嚢庫に行ってくる!」
「炭が足りない!」
「薪が無くなった!」
人が離れては物を持って戻って来る。食材を長時間外に置いておく訳にも行かず、始まってからずっとコレの繰り返し。しかも女の子だから沢山の量を持って来られない。
でも人数の多さが上手く機能してくれていて、大勢のお客相手にも何とかギリギリで対応出来てる。
途中でリューダ様とエリオット様とエオリア様が来た。アイナとフレアが舞い上がったのは言うまでもない。
あと、生徒会長と副生徒会長もやって来た。
とにかく人が次から次へとやってくる。
もう全員が汗まみれだ。制服のままで始めなくて本当に良かった。武術着を着せたあたしの勝利だ。
お料理倶楽部の面々のお昼はこの食材を使って昼食にする。流石に昼食はみんな食堂に行く様だ。ホッとする。
「一段落着いたね。」
レイナー様が呟く。
「みんな昼食を摂ったら、流石に午前程の忙しさには為らないと思うわ。」
セーラがそう返しているのが聞こえる。
そっか。じゃあ、少し楽が出来るな。
草むらに寝っ転がったあたしはボケッとそう考える。秋の落ち着いた風が火照った身体に心地良い。
「お疲れ様、ヒナちゃん。」
マリが疲れた顔に笑顔を乗せてあたしの右側に寝転がる。
「あ、気持ち良さそう。」
アイナが食い付きフレアが続く。
「私はココ。」
セーラがニコニコ顔であたしの左側に寝転がる。
「・・・。」
他のみんなも興味深そうに、でも怖っかなビックリといった感じで横になり始める。
校庭の広い草むらに、総勢40人以上の御令嬢達が寝っ転がっている。
「ふふふ。」
誰かが笑った。
「クスクス・・・。」
「フフフ・・・。」
続けて笑いが起こり、終いには。
「・・・あはははは!」
全員で笑い出した。
やっばい。メッチャ楽しい。
「貴女達、何をやってるの!?」
様子を見に着たマルグリット先生が仰天した声を上げた。
まあ、そら驚くわな。
結局、午後はセーラの予想通り、怒濤の注文に煽られる事もなく、比較的ゆったりとした雰囲気の中で幕を下ろす事になった。
「みんなお疲れ様でした。」
「お疲れ様でした!」
あたしが言うと全員が返事する。
どの顔もやり切った感で満ち溢れている。
今日晴れて良かったな。
ちょっとだけ、そう思った。
そして、ふっふっふ。実は今日1日勧誘はしてないんだ。
ただ、メシ作ってみんなに食わせてただけだ。だから入部希望者はそんなに居ない。居ても2~3人が関の山だ。
何にせよ、うん、楽しい思い出がまた1つ出来たわ。




