会議と雑談
「落ち着いた?」
「あ、あぁ、まあ」
八束はゴホン。と咳払いする。
「つまり、お前の能力ってのはあれか?世界に干渉できない……とか言う……」
「そうそうそれ」
「俺たちが今こうやって普通に話せているのは、世界にそう大して影響を与えないからだってのは前話したよな?つまり、お前が影井に話そうとすると能力が発揮されるということは、影井に影井の状態を話そうとすることが世界に大きく関わることになる。と言うことになるが……そもそも影井って天職ないんじゃないの?」
アンジェラさんがこちらにグイッと近寄る。
「それは私も気になっておりました」
「ああ、そういえば言ってなかったっけ?影井の職業はイレギュラーって言って、鑑定石の結果は、何者かに偽装されていたんだって」
「はあ?!まじかよ!!なんでそんな大事なこと黙ってたんだよ!それ明らかになんかの陰謀に巻き込まれてるじゃん、影井!」
「そうですよ。まさか、影井様が天職をお持ちなんて……」
「ごめん。忘れてた」
「忘れるか?普通。そんな重要な事。友達なんじゃねえのかよ」
「いや、その時はまだ友達じゃなかったし……」
「へえ」
八束はジトーッとした目でハーブティーを口に含んでいる。
なんだその目は。そんなに言わなかったのが悪いか。そんなに聞きたかったなら、質問して来いよ。聞かれなきゃわかんないよ。
……いや。
本当は分かっている。八束は俺の事が心配なんだろう。俺だけに背負わせないように。俺に隠させないように。分かっている。分かってはいるからこそ、俺が八束を宥めるのはなんか違う気がする。
俺のために怒ってくれてるってことだしなあ。
「しかし、これで影井に影井の状態を話すと妨害される説は信憑性が増してくるな……」
怒りから復活したらしい八束は、眉を顰める。
「何せイレギュラーだからね……しかも何者かから、色々ちょっかいかけられてるし……」
「イレギュラー、聞いたことの無い職業ですね……」
「そりゃ、イレギュラーが何人もいたらこの世界滅ぶまではいかなくても、滅茶苦茶になるだろ……」
三人揃ってはぁ。と重い溜息をついた。
八束は急に、顔を上げ、人差し指をピンとたてる。
「何者かってずっと呼んでるわけにも行かないだろう?ということで、何者かを今後、存在Xと呼ぶことにしよう!」
「いや、それどこかで聞いたことあるからやめてよ。って言うか、それなら普通に神で良くない?」
真剣な顔をこちらに向ける八束。
「駄目だ。俺は神を信じていない。死んでも神という存在を認めたくない」
なんだコイツ。面倒くさい……。キメ顔で言うことじゃないだろ……それ。
「じゃあ、神的な物……?」
「それだとなんか締まらないだろ」
「じゃあ、ゴッド」
「それただ英語にしただけだろ」
文句の多いやつだ。そこまで反対するのならば自分で決めればいいだろうに……。
「そういえばこの世界には、神様とかっているんですか?」
アンジェラさんの方を見ると彼女は首を傾げた。
「私は出会ったことがないので分かりかねますが、信じている方はいるみたいですね」
どうやら、アンジェラさんは信じていないようで、ほっとした。神を信じてたらダメってわけじゃないけど、俺たちと価値観合わないと思うからね。話しにくくなったとは思う。
異世界とかだと、中世的なのも相俟って、宗教が幅を利かせているイメージ強いけど、そうでも無いのかな?
あ、そう言えば教皇いたじゃん。じゃあ、アンジェラさんが信じてないだけなのかな。
「それってどんな神様なんですか?」
「ミケランジェロと言う名前の女神ですね」
ミケランジェロか。どこかで聞いたことがあるな……。確か彫刻家だっけ……?変わった名前の女神だ。
「ミケランジェロって言うのはどうだろう?八束」
「長い」
「それに、そのまま使うのは色々と問題があるかと……」
アンジェラさんは遠慮がちに声を挟む。
ふむ。確かに。宗教家の人達に聞かれたら、「我々の信じる神に対する冒涜!」とか言って激怒するかもしれない。何より、紛らわしい。
「でも悪くない着眼点だ。そうだ!ミケランジェロから取ってミケと呼ぼうぜ!」
うんうんと満足そうに頷く八束。
「でもそれってなんか猫っぽくない?」
俺が言うと、八束は思いっきり顔を顰める。
「猫で十分だろ。影井に嫌がらせするやつなんて。いや、むしろ猫が可哀想だ」
「まあ、たしかに」
「ということで、影井にちょっかいをかける存在のことを今後、ミケ、と呼ぶ!」
嬉々とした八束の声に、拍手をする俺たち三人。
「で、ミケは何故、影井にちょっかいを出すんだろうな……?」
「それは……イレギュラーという職業を恐れているからじゃないかな?珍しい職業みたいだし」
「それは俺もそう思う」
言いながら八束はポケットから、メモ帳とシャーペンを取り出し、書き込んでいる。
アンジェラさんはそれを興味深そうに見つめた。
「然し、本当に恐れているなら、影井様を消すのが手っ取り早いのではないでしょうか?」
「確かに。そこまで本気で恐れているわけじゃないのか、それとも、人を消すことが出来ない……とか?」
「何にせよ、遠回りなのは確かなんだよなぁ。無職に勘違いさせたり、不幸にさせたり」
八束はくるくるとシャーペンを回し始めたが、急に、ピタリ、と動きを止める。
「あ、」
「どうした?」
俺が聞くと、八束はメモに書いてあるミケの文字をぐりぐりと囲みはじめた。
「お前が影井に話せないのってこいつの妨害って線もあるんじゃね?」
「あー」
「なるほど、影井様をより孤立させる為に……」
「って言うか、こいつの可能性の方が高いんじゃね?」
八束はつんつんとミケの2文字をつついた。
「イレギュラーってことは、多分、柏岡みたいに、この世界から逸脱した存在なんだろうし、影井に関わったところで、世界に関わることにはならねーんじゃねぇの?」
「いや、イレギュラーという職業は、世界から逸脱はしてないみたいだよ」
「はぁ?!どういうことだよ!」
「どういうことだって聞かれても……そう書いてあるんだから、それ以上説明のしようがないよ……」
「じゃあ、イレギュラーって何がイレギュラーなんだ?」
イレギュラーの所を星の形で囲いながら、八束は尋ねる。
「俺の推測だけど、この世界の未来は既に決まっている。その中に影井は含まれているんだけど、彼だけが決まった未来とは違った風に動くことが出来る。こういうことなんじゃないかな?」
「なる、ほど?分かったような分からないような。つまり、影井に話せないのはミケの所為じゃない可能性もあるってことか」
「そうだね」
八束は黙ってだらり、と椅子にもたれかかった。
それから、ふぅーと長く息を吐く。
「めんどくせー!考えれば考えるほど謎が増えるじゃねえか!!」
「別にいいんじゃない?今どうしても解決しなきゃいけない訳じゃないんだし」
「まあ?それもそうか」
アンジェラさんが俺たちの飲み終えた瓶やティーカップを持つ。
「必要であれば、私が皆様にカゲイ様の職業について話してまいりますが」
「いえ、それはいいです。何が起こるか分からないので……。無理をすると最悪口封じのために、殺される……なんてことになりかねませんしね」
「お前もな、柏岡」
そんな心配そうな顔しなくても、無茶はしないって。そもそも俺、困難とか試練とか大好きな主人公キャラとはかけ離れてるし。寧ろ、そんなのは出来るだけ避けて通りたいし。ってそれが普通か。
「っていうか、アンジェラさん俺のベッド用意してくれたんだ。ありがとう」
言われて見ると確かに増えていたベッドに八束は思い切り寝転がる。これ、アンジェラさんが運んだのか?
……運んだらしい。凄いな……。
「いえ、メイドとして当然のことをしたまでです」
軽く頭を下げるアンジェラさんの腕は細い。あの腕のどこからベッドを運ぶ力が出ているのか。
まあ俺が倒れそうになった時、支えてくれたぐらいだからな。相当な力持ちなんだろう。
「そう言えば、契約で増えた能力ってなんだった?」
俺も八束の隣のベッドに寝転がる。
「そんなのお前の能力で見りゃわかるだろ」
「覗き見されてるみたいで気分良くないんじゃない?」
「いや、別に」
八束は、全く気にしてないどころか、説明する方が面倒くさい。とでも言いたげな顔をした。
「じゃあ見るけど……」
俺は意識を集中させ、八束の方を見る。すると、大量の文字が現れた。
……どうも戦闘能力が上がるようなスキルが多いようだ。つまり、俺には戦う才能がない、ということなんだろう。まあ、戦闘能力があった所で世界に干渉出来ないなら、あまり意味がないと思うけど。
「契約してから八束の感じる変化とかってないの?」
これだけスキルが変わっているなら、何かが変わっていても可笑しくない。
「あー、言わてみたら少し体が軽くなったかも」
「ちょっとその辺殴ってみてよ」
「こうか?」
ドスッ!!!
ものすごい速さで壁に殴りかかった。壁にはヒビが入っている。
「「……」」
俺の頬に汗が流れるのがわかる。きっと八束も同じように冷や汗をかいていることだろう。
「す、すいませんでした。アンジェラさん」
八束は誠意からなのか、ベッドの上で土下座している。俺も同じように頭を下げておく。
アンジェラさんははぁ、とため息をついて、こちらを向いた。
「気にしないでください。そのうち直しておきますから」
ベッドを運んだ時と同じように俺達がいない間に直しておくつもりなのだろう。
幸いにも、穴が空いている訳では無いから、一晩過ごす分には問題なさそうだしな。
「謝るついでに頼みたいことがあるんだが」
八束は顔を上げる。
「なんですか?」
アンジェラさんも壁のヒビから目を外す。
「なんかこう、頭の中の映像を他の人にも見えるようにする機械的なものってないか?」
「ありますよ」
「あるのかよ。ご都合主義だな、おい」
「本来は夢を共有するための機械なんですよ」
「あー、なるほど。夢も確かに脳内の映像だな」
八束は納得したように頷く。
しかし、その機械、もしかして俺に使わせようとしているのか?
その場合、普通、俺に許可とか取るもんじゃないの?それを勝手に……まあいいけど。
「いつぐらいまでに用意できそう?」
「いつかは正確には言えませんが……。できるだけ早く手配しましょう」
「ありがとう。出来るだけ早くな」
アンジェラさんは恭しく頭を下げた。




