↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宵の姫君  作者: さら更紗
Ⅲ 激流
PR
58/101

Ⅲ 激流 ー15



 ドムから黄神(おうじん)山脈を抜け、海沿いを駆けること二日。ターシャたち一行は、ガザ王都全輪(ぜんりん)との貿易の中継地、蒼(そう)碇(てい)に着いた。

 ガコが薬で眠っているうちに、ターシャたちはドムを後にした。ガコへの置手紙には、謝意だけをしたためた。賢い子だ。事情を呑み込み、素直に都かマルゴに帰るだろう。

 ドムまで連れてきてくれたガコを裏切るようで、ターシャの後ろめたい気持ちはどうしようもなかったが、そういう気持ちになること自体、感傷的な自己満足だと、ターシャは自分を戒めた。

 黄神山脈を抜けるまでは、監視の目も多いこともあって馬車を利用したが、ガザに入ってからは馬に乗って移動した。

 ターシャは隼の後ろに乗せてもらったのだが、それでもこんなに長く馬の背に乗ったことがなかったので、体中の筋肉が悲鳴をあげていた。

「馬車より馬の方が断然早いですからね」

 隼は言わずもがなのことを言う。ターシャを貴人扱いする気はないらしい。

 それがこの男の性質なのか、ガザ王室の公女への態度なのか、判断がつきかねた。

 だが、確かに燦に早く会わなければならない。ターシャは何も言わず、隼の指示に従った。

 蒼碇は海に面しており、大きな湾を持つ。水深も深いので、大型船を付けることができる。全輪へも近いことから、大量の物資を運ぶ大型船は、ここを目的として集まってくる。それが蒼碇を、一大貿易都市へと成長させた要因だった。

 馬に乗ると、結局マルゴに置いてきてしまったルークスを思い出す。充分な礼金は置いてきたし、オロがターシャのことを公女だと知っていたのなら、粗末に扱われたり、勝手に売られたりすることはないだろう。

それでも後悔に近い気持ちにはなる。

どうせなら、ルークスの背に乗って、蒼碇を走ってみたかった。

 馬上でも、潮の香りはすぐに分かった。公国にも海はあるが、都は内陸にあるので、ターシャは海には縁遠い。

 慣れない香りは、ターシャを落ち着かない気持ちにさせた。

 隼はある建物の裏側に回った。

壁面や窓に飾り模様を施した華やかな建物が多い中、褐色のその建物は、飾り気がなく簡素だが、不思議とみすぼらしくはなかった。堂々としており、粋にすら見える。

「ここは?」

 ターシャが隼に尋ねると、「蒼碇の役所ですよ」という答えが返ってきた。

 ターシャは驚いた。王女が大きな町とはいえ、地方の役所にいることも驚きだが、そんなところにターシャが入って行って大丈夫なのだろうか。地方とはいえ、国の機関であることには変わりない。

 だが、もう裏門に入ってしまうし、隼と同じ馬上にいるターシャにはどうしようもなかった。

 隼はすんなり裏門を通り抜けた。裏門には一応門番らしき兵がいたが、隼の顔をチラリと見ただけで、何の動きも示さなかった。

 裏門を抜けたすぐのところに馬留めがあり、ターシャたちは馬を留め、忍び込むわけでもなく、役所の裏口からすんなり入った。裏口といっても両開きのきちんとした扉で、警備の兵も立っていたが、何ら咎められることもなかった。

 廊下で役人と思しき者に会っても、隼は堂々としており、役人は見知らぬターシャたちに目を向けることもなく、軽く頭を下げて通り過ぎていた。

「隼ってえらいの?」

 陽が小声でそう訊くと、「燦さま付きだから、みんなビビってるだけだよ」と笑って答えた。

 奥の扉にたどり着くと、隼は遠慮がちに扉を叩いた。反応はない。もう一度、強めに叩く。

 扉が急に開いた。

「遅い!」

 中から怒れる女性が出てきた。金色の髪は無造作に高く結われ、くるくるとまとめられていた。服装は近衛兵の訓練着のようなものを着ている。六年前に会った時とは雰囲気も印象すら違ったが、顔は確かにこの国の王女だった。

 その顔がまず隼を睨みつけ、次にターシャに移る。見る間に満面の笑顔になった。

「入って!」

 何かを言う前に、引っ張り込まれてしまった。隼がやれやれと呟きながら、陽とナルを促して部屋に入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。