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宵の姫君  作者: さら更紗
Ⅲ 激流
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Ⅲ 激流 ー11



「?」

 夜中にフッと目が覚めて、陽は身体を動かさずに、そのまま視線だけを動かして、辺りを探った。

 隣の寝台でナルも身体を強張らせて、緊張しているのが分かった。

 部屋の反対側では、ターシャの規則正しい寝息と、ガコの寝言が聞こえた。

 気配は、ナルの寝台側である窓の近くから漂っていた。

 気配から殺気は感じない。

 ただ、こちらが目覚めていると気づかれても安全、とは限らない。

 そう言えば暑かったので、窓は少し開けていた。

 外から少しだけ風が入り、陽の鼻に微かだが匂いが届いた。ああ、これは、知っている匂いだ。

 黙って起き上がると、気配がそっと近寄って来た。

 ちらっとターシャの方を見る。

「ターシャを起こさないでよ。あんたなんか見たくないだろうから」

「よく俺って分かったな」

 気配が感心したように言った。

「匂いで分かるよ。薬を扱う人間は」

「これでも気を付けているんだけどな」

 気配の声がだんだん大きくなってくるので、陽は慌てて言った。

「声を落とせよ。あの子に気付かれたら、許さないから」

「ひどい言い草だな。小さい頃はあんなに俺を慕ってくれていたのにな」

 どうにも絡んでくる相手に、陽は眉を顰めた。

 ナルも目を覚ましているようだが、動かないままだ。警戒心だけがひしひしと伝わって来る。そりゃあ、あんな目に合わされたら、一生警戒しても足りない事だろう。

 だが陽が心配してやることではない。

 当面の心配は、この男のせいでターシャのトラウマが再燃してしまうことだ。

「なんでここにいる?早く出て行けよ、空(くう)」

 陽が低い声でそう言うと、空は陽に顔を近づけてきた。

「そんなにあの子が大事?」

 陽はゾッとして、空の顔を見た。暗くてよく見えない。

「あんた、まさかまだ……」

 空は過去のある出来事で、公国を恨んでいた。それが六年前の事件につながったのだ。

「もうないよ」

空は笑って短く答えた。

「単なる子どもの成長を喜ぶ、オジサンの感想」

 なんだそれ、と思っていると、空はサラリと付け加えた。

「ドムにはまだ公国の隠密が残っているよ。昨日は見つからなかったみたいだけど、ナランダにも潜り込んでる。時間の問題だろうから、動き回らない方がいい。明日、手下を行かせるから、この部屋で待っておいで」

 陽は少し考えてから、首を横に振った。

「悪いけど、俺たちの目的はナナライじゃないよ」

 その先がある。

 空は何でもない事のように「うん」と応えた。

「分かってるよ。王女に会いたいんだろ」

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