第十二話
ギルドの奥。
普段は使われない、小さな会議室。
「……では改めて」
受付のお姉さんが、書類を揃える。
「モブさんのランクについて、再判定を行います」
「はあ」
私は椅子に座りながら、首を傾げていた。
「そんな大事な話ですか?」
向かいには、
ギルド職員二名と、立会いの冒険者。
全員、やけに真面目な顔をしている。
「まず確認しますね」
受付が読み上げる。
「・下位幹部ノクスとの交戦、撤退に追い込む
・漆黒の闇同盟戦闘部隊、四名壊滅
・いずれも単独、または少数での戦闘」
「……あの」
手を挙げる。
「それ、半分は採取任務中です」
沈黙。
職員が咳払いした。
「はい。そこが問題です」
「問題?」
「“問題ないはずがない”という意味で」
隣の冒険者が、小声で言った。
「普通、採取中に壊滅させない」
「ですよね?」
私は頷く。
「だから偶然です」
誰も頷かなかった。
「本来なら」
受付が続ける。
「これだけの実績があれば、Dランク以上の審査対象になります」
「えっ」
思わず声が出る。
「いやいやいや」
ハリセンを抱え直す。
「私、ハリセン以外の装備もできないですし」
「承知しています」
「戦闘職でもないですし」
「記録上は“前衛”です」
「え?」
紙を見せられる。
【戦闘配置:前衛】
【被弾:なし】
【結果:敵壊滅】
「……これバグってません?」
「こちらのセリフです」
空気が一度、重くなる。
やがて、受付が結論を告げた。
「協議の結果――」
「今回はEランクとします」
「……低くないですか?」
「妥当です」
即答だった。
「理由は?」
「モブさんは強い。ですが、その強さが――」
「まだ“測れない”からです」
受付は、真剣な目で言った。
「……ああ」
なんとなく分かった。
「なので」
「Eランクとして活動してもらいながら、データを集めます、実質試験続行です」
私は、少し考えてから頷いた。
「まあ、楽そうでいいです」
受付が苦笑する。
「楽、ではないと思いますよ」
机の上に、新しいギルドカードが置かれた。
Eランク・モブ
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
カードを受け取る。
「次の目標は?」
そう聞かれて、私は答えた。
「とりあえず」
ハリセンを肩に担ぐ。
「採取任務を、平和に終わらせたいです」
部屋の全員が、目を逸らした。
――その願いが、この世界で一番難しいことを、
何となくが分かっていたからだ。
場所は変わり、漆黒の円卓。
再び、幹部たちが集められていた。
「新情報だ」
情報担当が、羊皮紙を広げる。
「標的――モブ」
「ギルドにて正式にEランク認定」
ざわ、と空気が緩む。
「……E?」
「下から数えた方が早いな」
「やはり、評価が過剰だったか」
レグルスが、満足げに頷く。
「見ろ。ギルドですら高ランクにしていない」
「つまり」
指を鳴らす。
「危険度は、低」
ノクスだけが、口を閉ざしていた。
「過去の実績は?」
誰かが聞く。
「下位幹部との交戦一件、
戦闘部隊壊滅一件」
「だが、どちらも大した事ない」
アストラルが、腕を組む。
「なるほど」
「つまり、“運が良い女”だ」
幹部たちが、納得したように笑う。
「ギルドがEにしたなら、こちらもそれに従うべきだ」
「過剰戦力は不要」
レグルスが結論を出す。
「次は――」
「教育担当を送ろう」
場が一瞬、静まる。
「……教育担当?」
「漆黒の闇に入った新人の調教係だろ」
「威圧、見せしめ、半殺しは当たり前のお方だ」
「女でEランクレベルなら、これで十分すぎるプランね」
ノクスが、ついに口を開いた。
「……一つだけ」
全員の視線が集まる。
「彼女は」
「装備を、使っていない」
沈黙。
だが、それもすぐに流された。
「Eランクだからだろう」
「装備を買う金もない」
「女ならなおさら」
アストラルが、手を上げる。
「決まりだ」
「Eランク冒険者モブ」
「次は――確実に倒す」
ノクスは、目を伏せた。
その胸に、嫌な予感だけが残る。
――数日後。
掲示板の端。
Eランク向け簡易依頼。
「近郊での不審人物の確認」
モブは、何も考えずにそれを剥がした。
「楽そう」
それが、“教育担当”が仕掛けた罠だとは知らずに。




