第十一話
漆黒の円卓。
闇同盟の幹部たちが、重苦しい空気の中で集まっていた。
最下座に立つのは、先日撤退した下位幹部――ノクス。
「報告しろ」
総帥アストラルの声は低く、冷たい。
「我らの同胞が、
一介の冒険者に退けられたと聞く」
ノクスは、わずかに視線を伏せた。
「……相手は、女です」
ざわ、と空気が揺れる。
「女?」
「冒険者?」
「単独か?」
「はい。
名は……“モブ”と名乗っていました」
一瞬、沈黙。
次の瞬間、誰かが鼻で笑った。
「ははっ、名前からして冗談だろう」
「女で、しかもモブ?」
分析役の幹部――
《深謀官》レグルスが口を開く。
「可能性は三つだ」
指を一本立てる。
「一。
運が良かっただけの偶然」
次に二本。
「二。
優秀な仲間に守られていただけの後衛」
三本目。
「三。
特殊スキルを持つ支援型」
レグルスは断言した。
「いずれにせよ、
脅威ではない」
ノクスが、かすかに眉を動かす。
「しかし……彼女は」
「感情論は不要だ、ノクス」
アストラルが遮る。
「女である以上、
前線での持久戦は不可能」
「重装も扱えず」
「高威力武器も振るえない」
幹部たちは、当然の前提として頷く。
誰一人として、
“装備できない”という事実に辿り着かない。
「次はどうする?」
アストラルが問う。
レグルスが即答した。
「単独行動中を狙うべきです」
「近接圧殺」
「力でねじ伏せる」
「女である以上、
対応できません」
ノクスの脳裏に、
あの光景がよぎる。
ハリセン。
あまりにも軽く、
あまりにも理不尽な一撃。
――だが、言葉にはしなかった。
「では決まりだ」
アストラルが、闇の中で微笑む。
「“女冒険者モブ”」
「次は我らが狩る番だ」
森の奥。
漆黒の闇同盟・下位戦闘部隊。
四人。
「……で、標的は?」
先頭の男が欠伸混じりに聞く。
「女冒険者一人だそうだ」
「は?」
後ろから笑い声が漏れた。
「なんだそれ」
「護衛なし?」
「運良く幹部に当たっただけだろ」
編成は、完全な近接特化。
重装二人。
斧使い。
大盾。
「拘束は不要だな」
「気絶させて連れて帰るか?」
「いや、面倒だ。
適当に痛めつけて終わりでいい」
その日。
私は、森の中でしゃがみ込んでいた。
「……これで三つ目」
目的は、薬草採取。
ギルド掲示板の一番端に貼ってあった、
報酬も控えめな、完全な下積み任務だ。
「戦闘なし、危険度低」
そう書いてあった。
「よし」
袋に薬草を入れ、立ち上がる。
その時だった。
がさっ。
重い足音。
「……?」
振り返ると、黒装束の男たちが四人。
明らかに、採取任務向きじゃない。
「おい」
先頭の男が言う。
「女一人か?」
「はい」
素直に答えた。
「今、忙しいんですけど」
「は?」
後ろの男が笑う。
「何してた?」
「薬草採ってました」
「……はは」
誰かが吹き出した。
「運が悪かったな」
「今日は狩られる側だ」
私は、袋を背負い直す。
「ちなみに聞いていいですか」
「ん?」
「薬草、踏まないでもらえます?」
沈黙。
「……は?」
次の瞬間。
重装の男が、盾を構えて突っ込んできた。
「ちっ、舐めるな!」
私は一歩、前に出る。
パンッ!!
盾の縁を叩く。
「ぐっ!?」
体勢が崩れる。
「え?」
続けざまに、横から。
パンッ!!
二人目が膝をつく。
「な、なにが――」
三人目。
斧を振り上げた、その前。
パンッ!!
斧が地面に突き刺さる。
最後の一人が、後ずさる。
「ま、待て……!」
私は、袋を下ろした。
「待たないです」
パンッ!!
全員が、倒れた。
森に、静けさが戻る。
「……あ」
私は周囲を見回す。
踏み荒らされた地面。
「……やっぱり踏まれてる」
ため息をつき、しゃがみ直す。
「もう少し奥に行こう」
倒れた男たちには、もう興味がなかった。
――数刻後。
闇同盟の報告書には、こう書かれる。
「標的、採取任務中に遭遇」
「戦闘時間、推定三十秒未満」
「被害:全滅」
報告を受けた幹部が、沈黙していた。
「……壊滅?」
「はい。
接触から、数十秒で」
レグルスが、言葉を失う。
「女一人、だよな?」
ノクスだけが、目を伏せた。
「……だから、言っただろ」
誰も、答えなかった。
――“女だから”という前提が、
音を立てて崩れ始めていた。
だが、モブ本人の報告は違った。
「薬草採取、順調でした」




