第5話:消えた香包と、忍び寄る影
夜風が後宮の石畳を冷たく撫でるころ、シンファは薬房で香包の在りかを確かめていた。
先日、庭園で手にしたあの小さな香包――しかし今は見当たらず、彼女の胸に不安の影を落としていた。
「どこに……消えた?」
その問いは、答えを待つことなく自らの胸を締めつける。
前夜の書庫で見つけた紙片の警告から、後宮の誰かが暗躍していることは確実だった。
だが、その正体は依然として霧の中。
シンファは誰を信じ、誰を警戒すべきか迷いながらも、己の薬学の知識を武器に少しずつ真相へ迫っていた。
その夜、薬房の扉がそっと開き、沈婆が現れた。
「若いの、心配か?」
彼女の声は優しく、だがどこか鋭さも秘めていた。
「はい……何者かが後宮で毒を使おうとしているかもしれません」
「ふむ……おまえの勘は当たっているようじゃな」
沈婆は包み隠さず告げた。
「この後宮はただの楽園ではない。影に潜む者たちがいる。だが、おまえは一人じゃない」
その頃、李華は上層部との密談を終えたばかりだった。
「お前の言う通り、後宮の中には危険な力が渦巻いている」
そう告げられた彼の瞳に、一瞬の暗い光が宿る。
「だが、簡単に表沙汰にはできぬ。故に、お前のような者が必要なのだ」
翌朝、シンファは薬房の隅でかすかな痕跡を見つけた。
消えたはずの香包が、わずかに残した香りとともに――何者かの足跡と共に。
彼女の心は緊張で震えた。
「この陰謀を止めなければ……」
後宮の闇はますます深く、二人の影はより緊密に絡み合っていた。




