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終幕 ユリア・ジークリンデ ⑩

「私がヴァルブルク王国の副王となった頃には、兄上にはそれなりに大きくなった息子がいたけれど──兄上か、その子の代でラインフェルデン家は途絶えたのかもしれない……。だって、ここにあるものは、ほとんど私の実家にあったものだからね。見覚えがあるものばかりで驚いたよ」


 その瞬間、ラインフェルデン家の血を引く子孫たちは「ほとんど!?」と驚いた。


「ああ──まるで、ローヴァイン家に引っ越したのかと思うほどにね」


 すると、テオドルスは「兄上は、身内に甘いからなぁ……」と呟きながら、部屋に保管されていた真っ黒な絵画の額縁を撫でる。


「兄上の子が『自由になりたい』と願ったら、兄上は覚悟があるなら貴族の地位を捨てていいと許可した可能性がある──。ラインフェルデン家は、ヴァルブルク王家とヒルデブラント王家とも縁のある貴族なのに、双子の弟たちと妹は、世界を明るくしたいからという理由で大道芸の道に行くことを許されているからね。両親がそんなことを許す人だから、兄上も許すだろう」


「今のローヴァイン家みたいやな……。さすがはウチらのご先祖様やで……」


 アシュリーがしみじみと感想を述べると、ミルドレッドは感心したように腕を組んだ。


「ご先祖はそんな感じだったかもしれないのに、今までローヴァイン家はすごく長く保ったわねぇ……。旦那のご両親は、旦那と違ってすごく真面目だったけど」


「その真面目な遺伝子は、今まで眠っていたのかもね。だから、昔は真面目な人が多かったのかもしれない。でも、僕たちの代でその遺伝子が目覚めた──先祖返りみたいなものかな、たぶん」


 そんなローヴァイン家の話を静かに聞いていたユリアは、テオドルスが真っ黒な絵画を見つめていることに気が付いた。


「──テオ。その黒く塗り潰されているらしきものは、なんなの? 額縁があるということは、絵なの……?」


「ああ……。これはね、術式が施されているから、こうなっているのさ。描かれた絵を長く保存できるようにね──」


 そう言って、テオドルスは額縁に触れながら、刻まれた術式を動かした。

 少しずつ黒が薄まり、とある人々が写実的に描かれた絵が現れた。


「……! この人たちは……」


 年頃の子どもたちから、それよりも少し小さい子どもたち。さらに小さな子どもたち──その子らに囲まれながら、椅子に座る両親らしき男女の大人。全員が笑顔を浮かべた、九人の肖像画。

 その小さな子どものなかには、テオドルスに似た少年がいた。


「ああ、私の家族だよ。──私は、こう思うんだ。私の家族は全員、貴族らしさではなく自分で選んだ道を歩んでいった。だから、直系の血筋が途絶えた……。そう考えるほうが、納得がいく。私の実家らしい最期だと思うからね」


 そして、「……だから、オレもそのように生きていくよ」と、彼はぽつりと零す。


「そう……。それにしても、あなたってお母様そっくりだったのね。私と一緒」


 肖像画を見て、ユリアは微笑みながらそのことに気付く。


「たしかに、ほとんど母上似だけれど……鼻のかたちは、父上に似ていると言われたことがあるよ」


 そして、テオドルスは軽く息をつき。家族の肖像画を持ち上げた。


「……ラウレンティウス。この肖像画だけ貰うよ。あとの物は、次期当主である君に任せる。クレイグも、欲しいものがあれば自分のものにするといい」


「いや……これらは、ここで保管しとこうぜ。そのほうがいいだろ」


「ああ。俺もそう思う。──必要になったら、また取りに来るといい。その時も、俺が車を出す」


「そうか……。ありがとう」


 その後、ユリアたちは、ラインフェルデン家の遺物に術式が組まれた保護シートを掛け終え、その場を後にした。


「──ねえ、ユリアちゃん。ちょっと気になったんだけど、式典のときの服装ってどんなのにするの? ヴァルブルク城にあった戴冠式用の鎧と服?」


 外に出たときに、イヴェットがユリアに問いかける。


「そうね……。あれが、ちょうど良さそうだと思うわ。衣装の出費も抑えられるし」


「つーか、ユリア・ジークリンデ本人がユリア・ジークリンデを演じるとか、わりとシュールなことになってるよな」


 と、クレイグ。


「……ユリア本人やって、バレへんよな……? ユリア・ジークリンデの肖像画は、この世に残ってへんけどさ……両親の肖像画は残っとるし、普通に学校の教科書にも出てくるで」


「指摘はされるかもだが……さすがにユリア・ジークリンデ本人だと思う人はないはずだ。それに、ユリアの個人情報は、王室から保護されている。そのうえ極秘部隊の所属でもあるからな」 


「まあ、な──。極秘部隊の情報を探ることは法律でも禁止になっとるから、問題ないか……」


 アシュリーとラウレンティウスも、ユリアの正体が露見しないかが気にかかるようだ。

 だが、もしも露見したとしても、ユリアにとっては構わないことだった。奇異の目で見られようとも、持て囃されようとも、自分がすべきことは変わらない。


「あ、そうだ。ユリアちゃん、式典当日の髪型はどんなのにするの?」


「か、髪型? 細かいところまで気にするわね、イヴェット……」


「だって、ユリアちゃんってファッションに興味薄いから、すごくシンプルに済ませそうなんだもん。今の時代は、映像や写真として簡単に世界に出回るし、後世に残っちゃうから、しっかり着飾って式典に臨んだほうがいいよ」


「うっ──」


 それもそうなのだが、見映えを軽視しているわけではない。

 着飾るのが苦手で、よくわからないのだ。だから、つい簡易的に出来て動きやすいものを選んでしてしまう。


「せっかくだから、華やかさとキッチリさが両立した髪型にしてみたら? せっかく髪長いんだし、どれが良いかいろいろやってみようよ。セットは、あたしやお母さんでやってあげるし」


「──セットするんやったら、巻き毛にしてみるのもエエんとちゃう? なんかオシャレな女が来たなって初見に思わせといて、スピーチとか武芸の披露とかで戦士としての威厳を見せつけてギャップを感じさせるとか」


「カジュアルな場だったら全然イケるけど、式典だよ? なんか軽そうに見られないかな?」


「そんな印象、あとからカバーできるやろ。バリバリに戦うとこ見せんねんから。──ミルドレッドおばさんはどう思う?」


「ん~、おばさん的には……そうねぇ──」


 いつの間にかイヴェットとアシュリーとミルドレッドの会議に変わってしまった。まったく話についていけず蚊帳の外となったユリアは、正直な本音をさり気なく伝える。


「……何もわからないから、みんなの最終判断に従うわね……」


 その時、テオドルスが小声で話しかけてきた。


「『英雄ユリア・ジークリンデ』に扮して武芸を見せるのなら、君の戦いを映えさせる相手役が必要となるだろう。だから、その相手は私が務めようと思う──私からカサンドラ様に頼んでおくよ。セウェルスとルキウスは、これからもいろいろと大変だろうし、ほかのみんなだと世間からの反応がいろいろと面倒になるかもだからね。その点でも、私が適任だ」


「いいの? 式典に出ると、あなたもこれから『目立つ存在』になってしまうけれど……」


「そんなことは構わないさ。極秘部隊に所属していれば、何者なのかはバレないだろう? 私は、元側近として、君の勇姿を傍で見届けたい。君のために、相応しい式典となるよう務めたいのさ」


 王位継承ではないが、ヴァルブルクの意思を継ぐ決意を表明する点は同じ。

 ユリアは微笑みながら頷き、彼にだけ聞こえるほどの小さな声で言葉を紡ぐ。


「──ならば、その日のみ、ふたたび私の側近としての任に就いてもらうぞ。テオドルス・マクシミリアン」


「仰せのままに。ユリア・ジークリンデ様。──我が君」


 もう主従関係ではないが、瞬時にその間柄に戻れるのは、互いに半身であり主従だと認めているからこそ。

 このふたりが持つ、特別な絆の証である。

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