第二皇太子は見た。
アレン・シュバルツ・リーンハルト
私の腹違いの兄。
自分と似た容姿だが中身は全く違う。
第一皇太子であるにも関わらず正々堂々と貪欲に純粋な力を追い求める。
非の打ち所がない未来の国王たる姿。
まさに理想であり嫉妬の対象でもあった。
あいつだって第二皇太子として生まれていれば私と全く同じ感情だったはずだ。
いくら努力したとしても立場は変えようがない。
もし、あらゆることで秀でたとしても立場は変わらない。
それが生まれの違いだ。
だが、幸いなことに今は違う。
聖女候補様といえど限りなく聖女に近いと言われているカレン嬢と結ばれたら立場逆転も考えられるのだ。
婚約者も一応いるが、カレンが聖女にさえなれば覆せる自信もある。
しかしあいつには焦った様子はないし、むしろカレン嬢の誘いをことごとく躱していく始末。
私は必死だというのに。
悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。
その為なのか、会えば悪いところを見つけてやろうと嫌味ばかりを繰り広げてしまう。
私のことを何とも思っていないようにあしらって見せる態度にさらに募る最悪な感情。
醜くくも苛立ち嫉妬してしまう自分に嫌気が差すが頭を埋め尽くすのは憎悪だけ。
きっと、あいつがあいつである限り私の感情は変わることはない。
「ク~リ~ス~」
しかし、なんだろうか。
なんだか私は見てはいけない場面を見てしまった気がする。
視線の先には学園の王族御用達庭園のベンチに腰掛けたアレンと背後に構えているクリスの姿。
「もうさ、今日は終わりにして家帰ろう。寝たい。めっちゃ寝たい。」
「夜更かしするからですよ。駄目です。」
「も~~、ケチ!」
あ、確実に見ちゃいけないものだわ。
ランチを1人で取りたくなり従者も振り切り庭園へと足を運んでみたものの。
偶然、聞き慣れた声が聞こえて覗いてみればそこは異空間。
唇を尖らせながらクリスに不満そうに声を漏らすアレン。
クリスはいつも通りの従者たる姿。
頭がおかしくなりそう。
いつも完璧で非の打ちどころのない男だったはずだ。
もしかして私は自分に都合の良い夢を見ているのではないか?
「アレン様、お待たせいたしました。」
「よく来たね。アイリーン。」
すると、ベンチに近づくあいつの婚約者の姿。
(は…?)
待て待て待て。
アイリーンといえば、傍若無人で縦長金髪ロールのツリ目のきつい印象を持つ女性だった。
視線の先にいるのは顔こそアイリーンだが、縦長ロールは触り心地の良さそうなストレートに。
さらには優し気な眼差しと柔らかな物腰。
だ、誰だ?
「サンドイッチを作ってみましたの。よろしければどうぞ」
「ありがとう」
アイリーンの変化の差が凄まじくて頭から抜けていたが、アレンの態度もクリスの時と違っていつもの完璧な"アレン様"だ。
脳がバグりそうになりながらもミハエルは物陰から覗くのを止めない。
「今日もアイリーンはかわいいね。髪形もとても似合っているよ。」
「ふふふ…ありがとうございます。」
歯の浮きそうな台詞に、はにかみながら答えるアイリーンは確かに可愛い。
アイリーンってこんなに可愛かったけ?
いやいや、違う、今はそこじゃない!
悪い夢なら覚めてくれ!
あいつはあいつのままで居てくれないと今までの私はなんだったんだ!
アレンの油断しきった言動やアイリーンと合流してからの態度の変わり様。
クリスはいつも通りだがしばらく見ていなかったアイリーンの変化。
脳内処理が間に合わない。助けてくれ。
頭がついていかないミハエルはぐるぐると回る目に一旦、その場を離れた。
ランチはもちろん食べ損ねた。