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賞金5000兆円

二話です。

実は西山オフラインのマネージャーは前作に登場するキャラをモデルにしました。

俗にいうスターシステムって奴です。

「まあ、安心しろ。お前が顔出しをする事でデメリットが生じるわけでもない」

「じゃあ、メリットは?」

「……」

「なんか答えてくださいよ」


 相変わらずフォローが下手な住吉さん。

 誰か俺のデリケートな心に癒しを与えてくれる者はいないか……と。


「そういえば今日はスターライト・シアターズのサービス開始日だっけ!」

「ああ、なんでもそれに関して昼に重大発表するとか言ってたような……」


 響が慌てたように言ったゲームタイトル。

 スターライト・シアターズ、通称スタシアは今日サービス開始を予定する、基本無料のVRMMOゲームだ。

 自分だけの劇場、シアターを頂点にする為、様々な事に挑戦するというなんだかごちゃごちゃしたようなゲーム内容。 

 まあ開発元が世界一のゲーム企業、ミリオネスだしある程度は期待しているが……。


「……あ、もうすぐじゃん! ほら宗谷! 早く早く!」

「え、ああわかったから急かすな」


 響に催促(さいそく)……というか誤魔化され、スマホのMETUBEアプリを開く。

 ライブ開始まで後数分、どうやらギリギリ間に合ったようだ。


「んじゃ、私は仕事に戻るから」


 あ、逃げたな。

 しかし、これ以上追求しても俺が傷つくだけなので放置した。

 今度トウィッターのアンケートで俺の人気を証明するから覚悟しておけよ。


『全世界の皆さん初めまして。ミリオネスの三好杏奈です』

「あ、始まった」


 黒い画面から切り替わり、社長である三好(みよし)杏奈(あんな)の姿が映し出される。

 三好杏奈、それは数々の独特な発想と大胆な改革でゲーマーからの評判が最悪だったミリオネスを世界一のゲーム会社に押し上げた凄腕の人物だ。

 事実、昨日やっていたゲームもミリオネス製であり、ミーチューバーの間では定番となっているゲームなのだからその凄さがわかる。

 またモデル並の美貌(びぼう)を持っており、それを生かして自らが広告塔として前に出てくることが多いのも特徴である。


「皆さんご存知の通り、本日サービス開始を予定しておりますスターライト・シアターズ、通称スタシア。お楽しみにしていただけていますか? 今回、スタシアについて新たな情報を……」

「ねえ、重大発表ってまだかなー?」

「慌てるな、こういうのは最後に発表するものだろ?」


 三好杏奈がスタシアの新情報について次々発表していく。

 スキルの説明、シアターカスタマイズ、新たなるゲームモード……どれもこれも発表していないシステムだが重大発表というには程遠い。

 まあ見たところ自由度が高そうだしMETUBEがまた湧くだろうなあ、とは思ったが。


「さて、お待たせしました。ここから重大発表に移りたいと思います」

「お、やっとか」

「どんなのかなー、わくわく」


 響にとっては少し退屈だったようでトウィッターを合間合間に見ていたが、重大発表と聞いてすぐ俺のスマホに視線を切り替えた。

 ま、くだらないオチだろうしあんま期待しないでおこう。


「私自身、ゲームにおいて何が必要かミリオネスの社員全員と共にずっと考えていました。暇を潰せる、ストレス発散……色々あるが何かが違う、そう思いました。そして、ある一つの結論に我々はたどり着きました」


 ん? 何か様子がおかしくないか? 

 これアイテム配布とかそういう空気じゃないな?


「それは夢、そして刺激だと思うのです。これら二つが上手くベストマッチすることで究極のコンテンツが提供できる筈なのです。そして、我々は……ついにその答えにたどり着きました!」

「ねえ宗谷……なにかおかしくない?」

「ああ、これ本当にゲームの発表か……?」


 響も感づいたようだ。

 三好杏奈は至って真面目に発表しているだけだ。

 なのに……なにか恐ろしい物を見ている気分になる。

 チラッと見たトウィッターでもざわついていた。


『あれ、これゲームの発表?』

『ちょっと社長怖くね?』

『ま、まあ社長だし色々疲れてんだろ(震え)』


 生放送を見ている人達が三好杏奈に違和感を持っていた。

 この重大発表は本当に世界を揺るがす物かもしれない、そんな予感がしたからだろう……。


「その二つを提供するべく、ミリオネスはある一大企画を行うことにしました! それがこちらです!」


 三好杏奈がパチンと指を鳴らすと後ろの壁がゆっくりと開きそして……


「このスターライト・シアターズを最初に完全攻略した者に、この賞金五千兆円を差し上げます!!」

「「え……?」」


 扉の向こうには一つの巨大モニターがあり、そこにはオンライン銀行に預け入れられた五千兆円という文字が……

 その額に驚いたのか、はたまたその発表が現実味を帯びていないからかはわからない。

 だがこれだけは言える。

 この発表は間違いなく世界中を揺るがした。

 そしてこの五千兆円を巡って、日常が大きく変化するのだろうと……


「さあ、全世界のゲーマー諸君! 是非この企画に挑戦し、賞金五千兆円……そして達成した物だけが与えられる【スターライトマスター】の称号を手にしたまえ!」


◇◆◇


「ねえ、あの放送本当なのかな……」

「有志があのオンライン銀行の画像が偽物かどうか検証したらしいけど本物らしいぜ……」

「やっぱり……」


 事務所を後にするも、俺と響の話題は五千兆円関連だった。

 全く、信じられない話だ。

 ただ新作ゲームを最速攻略しただけで賞金を差し上げるのもアレだが、額の凄さに比べたらちっぽけな物だろう。

 この五千兆騒動は瞬く間にトウィッターのトレンドを埋め尽くし、ヤホーニュースのトップを飾り、挙げ句の果てには政府の偉い人が緊急会見を開く程大きな物となっていた。

 そりゃそうだ、スタシアを完全攻略しただけで五千兆円という大金が一気に動くかもしれない。

 この社会への影響がどれほどになるのか、誰も予想がつかないのだ。

 だが俺は……


「なんか面白そうだよな……」

「え?」


 心の奥底で、スタシア完全攻略に面白みを感じていた。


「スタシアを最初に完全攻略すればさ、賞金五千兆円が手に入るんだろ? なんかそれ、実況プレイで成し遂げたら滅茶苦茶最高だろうなーって思っていたんだ」

「へー珍しい。宗谷がこういう変わり物に突っ込むなんて」


 そう、こういう変わり物に突っ込むのは響の役割だ。

 単発動画でやる奇ゲーやバカゲーといった部類のチョイスは全て響が行っており、俺は無知の状態でやるのが西山オフラインのデフォルトとなっていた。

 なので、俺が変わり物に突っ込む事等、今までなかったのだ。


「でも今回は五千兆円という大金が絡んでいる危険な企画だ。下手したら取り返しのつかない事になるかもしれない。それでも……」

「別に問題ないよ」


 きっぱりと言い切る響。

 しかし、俺がやろうとしている事は、危ない世界にアホなクソガキが挑戦するような物。

 そんなあっさり決められても、どう反応すればいいかわからない。


「響……お前は拒否しても文句は言わな……」

「俺は宗谷のやりたい事に付いていく。それで十分でしょ?」

「……本当にいいのか?」

「もー、しつこいよ宗谷は! 俺達今まで何年一緒にやってきたと思ってんだよ!」

「……そうだな」


 ふと、思い返す響との思い出。

 響と初めて会った時、隣の家に同年代の子が引っ越してきた、と親から聞かされたからよく覚えている。

 それから親同士の仲がいいのも相まって、俺達二人でよく遊ぶようになった。

 中でも二人でやるゲームは最高に楽しくて、今こうして実況者コンビとして活動するくらいにまでなっているのだ。

 響と出会って十年、実況者コンビを組んで三年。

今なおその関係は途切れることはなく、むしろその絆を深めている……


「やるならやってやろうよ! 俺達、最強の実況者コンビだし可能性はある筈だよ!」

「響……お前」

「実は俺、宗谷のアイデア最高だと思ったんだ! 最近刺激が足りないなーと思ってたし、このスタシア最速攻略も俺達西山オフラインがやればファンも絶対盛り上がる事間違いなし! まさしくWINWINってやつだね!」


 瞬間、夕日が俺達に向かって差し込んだ。

 オレンジ色の髪と夕日が風景に溶け込み、満面の笑みを浮かべる響を幻想的に映し出した。

 その光景を見て、俺は心の奥底がすっと軽くなった気がした。


「はは……相変わらずだなお前は……」


 いつもそうだ。

 俺が路頭に迷った時、響はいつも明るく振舞って俺の背中を押してくれる。

 やっぱ響はすげえよ。

 流石、西山オフラインのムードメーカー、と言ったところか


「ありがとな……お前の言葉で目が覚めた。だが、やるなら徹底的にだ。パンピーもミーチューバーも廃ゲーマーだって寄せ付けねえ……。西山オフラインの底力、全世界にしらしめてやろうぜ!」

「おー! その意気だよ宗谷! じゃ、帰ったら早速ログインするから早めにお願いね!」

「了解、なるべく早く準備するわ。」


 各々の家に着いた後、響とはここでわかれた。

 響……俺のワガママに付き合ってくれてマジでありがとう。


◇◆◇


 俺は家に帰って自室に入った後、VR機器【スパークルファイズ】の電源を付けた。

 こいつは通常のVR機器に比べ、仮想空間内の動画撮影に特化したミーチューバー御用達の代物だ。

 その特徴すべき点は、内蔵されている空間ビット式カメラが高画質でブレにくく、撮影者を360度あらゆる方向から自動追尾する機能がついている所である。

 この自動追尾が優秀で、指示してもいないのに最高のアングルで動画を撮ってくれるのだ。

 その仕組みはどうなっているのか一回ネットで調べてみたが、細かく複雑な文字でびっしりと書かれており、俺は速攻でブラウザバックした。


「リンクスタート」


 アクセスコードを言い、俺は仮想空間へフルダイブする準備を整える。

 このVR機器を使う時は普段の神城宗谷からゲーム実況者、シンジョーに切り替わる時だ。

 キャラ作りしている訳ではなく、神城宗谷とシンジョーの性格に大きな差異はない。

 ただ、シンジョーといういつもと違うニックネームを使うとちょっとテンションが上がるような気がする……それだけだ。

 ほんと、ニックネームだと少しテンションが上がる現象は一体なんだろうな。

 そんなどうでもいい事考えながら、俺は仮想空間へとフルダイブした。

「宗谷は五千兆円手に入れたら何に使いたい?」

「んー、やっぱリスナーに還元する形で何か……」

「まあそれしかないよね」

「立場的に変な事したら炎上するしな……」

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