29話 翌日自宅にて 18
例えば。
どんなに美しく咲いた花があったとして、ヘドロのような臭いをさせていたら誰も部屋に飾りはしないだろう。
どんなに美味しそうに飾り付けられた料理があったとして、腐った生ゴミの臭いを漂わせていたら誰も食卓にのせはしないだろう。
私にとって女性とはそういうものなのです。
公子サマはそう言った。
口元は微笑みの形を作ってはいたけれど、見ている方が遣る瀬無くなる、そんな笑み。
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「殿下のお体を専門機関で検査しましたが、脳にも神経にも異常は見当たらないとの事」
『--,----------------------,-------------------』
「ただ、妙齢の女性の香りが非常にご不快に感じるとのことで、脳波等の測定でもそれは検証されております」
それはまた何とも……。
公子サマとセパシウスさんの説明に、さすがに言葉が出ない私と祥くん。
だって、一国の統治者の第一継承権保有者で、しかも継承のためには結婚して子供を作らなきゃいけないのに、女性の香りがダメだなんて……。
「なぁ」
いささか重い沈黙の後、祥くんが口を開いた。
「相手に徹底的に体を洗って消臭スプレーをかけるとか、公子サマが好むような香水をつけてもらうとかじゃダメなのか?」
あ、なるほど~。
『-----------------…』
「そういった方法は全て試してみましたが…」
まぁ、この場ですぐ思いつくようなことはお試し済みですよね。
『----------,----------------------』
「まず人が生物である以上、一瞬は臭いを消せても消し続けることはできません」
そうですね。どんなにこまめに洗っても、シィさんやムゥくんの犬の臭いは出てきますしね。
『--,-------------------------------------……』
「それに、香水の状態では好ましい香りでも女性が付けた途端により酷い悪臭になるようでして……」
あららら。まぁ、香水は変化を楽しむ面もありますからねぇ。でも悪臭だなんて……。
『---------------------------------,-----------……』
「女性の客人とのご面談の後に青い顔をして洗面台でお戻しになる殿下のお姿に、私はいつも涙が止まらず……」
その光景を思い出したのか、また涙ぐんでハンカチを目に当てるセパシウスさん。
……今度はこっちまで目が熱くなってしまいました。さっき涙目になったせいで涙腺が緩んでいるようです。
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「こうした体質は一族特有のものらしく、数代おきに現れるようなのです」
隔世遺伝というものですね。
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「私の曽祖父は味覚に異常があったと聞いています」
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「人生の伴侶を探すために‘味見’をしなければならなかった曽祖父に比べれば、私の嗅覚はまだマシですよ」
女性相手に‘味見’って……。
どう考えても微妙な表現に、しんみりした空気(&私の涙)が吹っ飛びました。