表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/14

第13話 黄昏の東京湾決戦、あるいは天災という名の魔獣

 その日、天気予報は「快晴」を伝えていた。

 しかし午後、東京湾上空に突如として鉛色の暗雲が立ち込め、季節外れの暴風雨が吹き荒れた。


 レインボーブリッジは封鎖され、お台場の観光客たちが屋内に避難する中、海面が異常に盛り上がり始めた。


 ザッパァァァーン!!


 波間を割り、それは姿を現した。


 全長500メートル。

 青黒い鱗に覆われた巨体。背中からは鋭利な水晶の棘が天を突き、巨大なあぎとからは、すべてを押し流す濁流のブレスを吐き出す。


 聖書に記されし海の王【巨大魔獣・リヴァイアサン】。

 御影 迅が三日三晩かけて設定を練り込んだ、自信作(超大型レイドボス)である。


『うわあああ!? なんだあれは!?』

『怪獣だ! お台場に怪獣が出たぞ!!』


 東京都民の悲鳴が、リアルとネットで交錯する。

 緊急地震速報ならぬ「緊急魔獣警報」が、スマホを一斉に震わせた。


 自衛隊機が緊急発進し、ミサイルを撃ち込むが、リヴァイアサンの周囲に展開された「水神の障壁アクア・フィールド」によって、すべて無力化される。


 もはや人類の手に負える代物ではない。


 その光景を遥か上空――汐留の高層ホテルの屋上ヘリポートから見下ろしている男たちがいた。


 一人は黒衣のマントを風にはためかせる総帥、御影 迅。

 そして彼を取り囲むように、耳にインカムをつけた公安のエリート捜査官たち。指揮官の室戸もそこにいた。


 彼らは銃を構えることすらせず、ただ呆然と眼下の終末的絶望を凝視していた。


「……絶望する東京都民」


 御影が独りごちた。

 彼の声は、暴風雨の中でも鮮明に公安たちの耳に届いた。


「滑稽なものだね。あれが『見える』ようになっただけで、彼らはこれほどまでに狼狽うろたえている」


「……どういう意味だ?」


 室戸が、雨に濡れながら問いかけた。

 御影は振り返り、悪魔のように甘美な問いを投げかける。


「君たちは、ずっとこれを『台風』や『津波』と呼んできたのだよ」


「!?」


 御影は手すりに寄りかかり、荒れ狂うリヴァイアサンを指差した。


「太古の昔から、台風や水害といった『天災』は、本来このクラスの魔獣が暴れた結果が、世界律ワールド・ルールによって自動置換されたものに過ぎない」


 もちろん嘘(御影の設定)だが、室戸たちにとっては衝撃的な真実だ。


「かつての伊勢湾台風、東日本を襲った水害……。あれらは気圧配置の悪戯などではない。こういうバケモノが、空腹で暴れたただの食事の跡さ」


 御影は続ける。


「人類はずっとそれを『自然現象だから仕方がない』と自分を納得させてきた。だが、こうして実体が見え、明確な敵意として認識できるようになった途端、人々は理性を失い、絶望している」


 彼はクスリと笑った。


「面白いと思わないかい? どちらも結果として起きる破壊(被害)は同じなのに」


 冷たい雨が、御影のマスクを濡らす。


「目に見えぬ理不尽な天災と、目に見える圧倒的な魔獣……。人間にとって、果たしてどちらが本当に怖いんだろうね?」


 室戸は言葉を失った。


 確かに、ただの台風なら「運が悪かった」で済む。

 だがもしそれが「怪物の暴力」だと知らされたら?


 恐怖の質が変わる。世界への信頼が崩れ落ちる。


「我々は……」


 室戸は、絞り出すように言った。


「我々警察組織も、自衛隊も、あの怪物の前では無力だというのか……」


 米軍が倒した雑魚魔獣とは、スケールが違う。

 人工能力者部隊「サクラ(日本の部隊名)」を投入しても、一瞬で蒸発するのが関の山だ。


「……黙って見ているしかないのか!」


 室戸が悔しさに拳を握りしめた時、御影がスッと手を挙げた。


「安心したまえ。今回は我々が出る」


 御影の声が、不思議と力強く響いた。


「このサイズは、放置すれば東京が地図から消える。君たちの作った『まがい物(人工異能者)』では、何十回戦っても勝てないだろうからね……」


 厳しい宣告だが、同時にそれは救いの言葉でもあった。


 室戸は項垂れ、そして深く頭を下げた。

 プライドも、国家の威信も、かなぐり捨てて。


「……すみません。お任せします」


 それは、日本政府が正式に【真・国家保安特務機関】へ防衛を委任した、歴史的瞬間だった。


「……ということだ、円卓の諸君」


 御影はインカム(実際は念話)を通じて、待機していた配下たちへ命じた。


「存分に暴れたまえ。今宵の東京湾は、君たちの独壇場だ」


 ――承知ッ!!


 その瞬間。


 暗い東京湾の空が、真っ黒な炎で焼き尽くされた。


 『ライト(右腕)』が上空へ飛翔し、彼が得意とする黒炎を極限まで練り上げ、一匹の巨大な『竜』を形成していたのだ。


 オォォォォオオオンッ!!!!


 闇より生まれし黒きドラゴンが、咆哮を上げる。


「先陣は俺が貰うぜぇ! 行けェ、黒炎竜ブラック・フレア・ドラゴンッ!!」


 ライトが腕を振り下ろす。

 黒き竜が、リヴァイアサンへと突撃した。


『!!??』


 避難していた都民たちが、そしてテレビの前で見守っていた一億人が絶句した。


『竜だ!!!!』

『黒い竜が現れたぞ!!!』

『あれ、あの組織の狼のやつの……いや、これは別格だ!』


 カメラが捉える。

 黒竜と海竜の激突。

 水蒸気が爆発的に発生し、お台場が白い霧に包まれる。


「隙ありだぜ!」


 霧の中から、海面を凍らせて滑走する人影。

 円卓No.11『氷結の魔女コキュートス』だ。


「凍てつけ! 【絶対零度の大監獄】!!」


 彼女が海面に手を触れると、リヴァイアサンの足元の海水が、一瞬にして氷山へと変わった。


 巨大な質量を持つ怪物が、氷に足止めされる。


「今ですわ! 全員一斉攻撃を!」


 お台場の観覧車の頂上に立つNo.4レイが、号令をかける。


 彼女のスカートの下から展開されたのは、影で形成された数百門のガトリング砲とミサイルランチャー(『黒き荊』の応用技『死の舞踏・殲滅形態』だ)。


「あなたたちごときに、マスターの創った美しい東京(夜景)は渡しませんわーーーッ!!!」


 ズババババババッ!!!


 無数の黒い棘ミサイルが発射され、リヴァイアサンの鱗を削り取っていく。


「ウラララララァ!!」


 スカーレッド(狼男)も負けてはいない。

 彼はタンクローリーを片手で投げつけ、それを空中で粉砕して、即席の榴弾としてぶつけるという荒技を見せつける。


「……崩れろ」


 そしてトドメは、高層ビルから見下ろすNo.6の『言霊』だ。


 彼はリヴァイアサンの水晶の角一点に狙いを定め、静かに、しかし確定した未来として言葉を紡いだ。


 パキィィィィィィン!!


 高音の破砕音が響き渡り、リヴァイアサンの象徴である角が粉々に砕け散った。


 断末魔の叫び。


 黒竜のブレス、茨の砲撃、氷の鎖、言霊の重圧。

 12人のチート級の攻撃を一斉に浴びて、さしもの超大型魔獣も限界を迎えた。


 光の粒子となって崩壊していく、リヴァイアサン。


 雲が割れ、そこから一筋の陽光(これも御影の演出)が差し込む。


「……終わったのか……?」


 屋上の室戸が、呆然と呟いた。


 戦闘時間、わずか10分。

 人類の全兵器を投じても勝てないはずの怪物を、彼らは「遊んでいる」かのように蹂躙し、消し去ってしまった。


「言っただろう?」


 御影がマントを翻す。

 逆光の中、その姿はまさに救世主か、あるいは魔王のようだった。


「我々がいる限り、この世界の『黄昏』は終わらない。だが同時に、決して『夜』にはさせないとな」


 『ウオォォォォォオオオ!!!!』


 お台場から、対岸の芝浦から、そしてテレビの前から。

 歓声が上がった。


 【真・国家保安特務機関】万歳!

 12使徒万歳! 黒マントの総帥万歳!


 ネットは、サーバーダウン寸前の勢いでお祭り騒ぎになっている。


『カッケェェェェ!! 日本終わったかと思ったけど始まったわ!』

『もう自衛隊いらなくね? こいつらに税金払おうぜ』

『俺もあの組織に入りたい……! 能力さえあれば……!』


 御影は満足げに頷いた。


 公安の目の前で見せつけた、圧倒的な力の差。

 これで政府も警察も、もはや俺たちの「下請け」として動かざるを得まい。


 彼らは二度と、俺たちに「協力してほしい(対等に)」などという寝言は言えなくなるだろう。


「室戸管理官。……あとの掃除(事後処理)は任せるよ。我々はシャイでね、マスコミ対応は苦手なんだ」


 御影は茶目っ気たっぷりに言い残し、いつもの転移魔法で消失した。


 後に残されたのは、ボロボロになったが平和を取り戻した東京湾と、完全に価値観を書き換えられてしまった人類(公安)だった。


 室戸は晴れ渡る空を見上げ、苦笑した。


「……化け物め。勝てるわけがない……」


 彼の手は震えていたが、そこには安堵もあった。


 少なくとも、彼らが「味方」であるうちは、人類は滅亡を免れるだろう。

 彼らの機嫌を損ねない限りは。


 こうして【東京湾決戦】は伝説となり、世界は本格的に『厨二病の時代』へと突入していくのであった。


 <第一部:東京湾決戦編・完>

おまけでネットの反応があります。人体実験バレでぶっ叩かれる姿はそこで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ