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第12話 人工の雷撃、そして神々の高み見物

 アメリカ、シカゴ郊外。

 午後2時という真昼間に、日常が破られた。


 放棄された古い製鉄所の跡地に、一体の『魔獣』が出現したのだ。

 今回の個体は、全長5メートルはある四足歩行の重装甲獣【アーマード・ベア】。

 戦車砲すら弾き返す黒い甲殻に覆われ、一撃で建物を粉砕するパワーを持つ中型魔獣である。


 普段なら州軍が出動し、撤退戦を強いられる絶望的な状況。

 だが今日、現場には特殊な装甲車の一団が到着していた。


 車体に描かれているのは、既存のどの部隊とも違うエンブレム。

 白頭鷲がその爪に「稲妻」を掴んでいるデザイン――米国防総省直轄・対魔特殊部隊『ゼウス・プラトゥーン』である。


「ターゲット確認! 繰り返す、タイプ・ブラヴォーだ!」


 現場指揮官のジョン・スミス少佐が怒鳴った。

 彼を含めた隊員は、わずか五名。

 全員が黒い強化外骨格スーツを着込み、そして何より、彼らは全員が『生還者サバイバー』だった。


 地獄のような人体実験に耐え、魔獣因子の適合を果たした人工能力者たち。


全小隊戦闘開始エンゲージ! 我らの力を見せてやれ!」


 合図と共に、前衛の男が飛び出した。コードネーム『タンク』。

 魔獣が咆哮し、巨大な爪を振り下ろす。


「うぉぉぉおおおッ!」


 タンクが吼える。

 彼の皮膚が一瞬で銀色の金属光沢を帯びた。『身体鋼鉄化』。


 ガギィィィン!!


 重金属が激突する音が響き渡り、タンクの足元の地面が陥没した。

 だが、彼は耐えた。


 本来なら挽肉になっているはずの攻撃を、生身の腕一本で受け止めたのだ。


「捕らえたぞ! やれぇッ!」

「イート・ディス(喰らえ)!」


 後方から援護の女兵士、『スパーク』が手を掲げる。


 バヂヂヂヂッ!!


 彼女の手のひらから、青白いプラズマの槍が迸る。

 因子によって体内の生体電流を増幅・放射する、『雷撃操作』の能力だ。


 雷槍は、タンクが抑えている魔獣の側面に直撃した。


 ギャオォォォンッ!!


 黒い装甲が焼け焦げ、魔獣が悲鳴を上げる。


「効いた! 装甲を貫通したぞ!」

「畳み掛けろ! 一気に仕留めるんだ!」


 そこからは、泥沼の死闘だった。


 彼らは必死だった。

 実験で死んでいった(と思っている)仲間たちのためにも、ここで成果を上げなければならなかった。


 魔獣が暴れ、タンクが吹き飛ばされて腕を骨折する。

 スパークも鼻血を出しながら、過剰な電力で脳が焼き切れそうになるのを堪える。


 あと少し。あと一歩。


「これが……俺たちの、人類の可能性だぁぁぁッ!!」


 最後は、全員の斉射だった。


 鋼鉄の拳、雷撃、ソニックブーム、衝撃波。

 人工的な超常の力が一点に集中し、ついに魔獣の心臓部コアを粉砕した。


 ドサァッ……。


 巨大な魔獣が、黒い霧となって消滅していく。

 残ったのは、ボロボロになり息を切らせて倒れ込む五人の兵士たちだけだった。


「はぁ……はぁ……やった……」


 スミス少佐が、膝をつきながらガッツポーズをした。

 周辺で待機していた通常の米軍部隊から、割れんばかりの歓声が上がる。


 歴史的瞬間だった。


 「見えない怪物」に対し、人類が初めて自分たちの技術で作った力で勝利したのだ。


 CNNのレポーターが興奮してマイクに叫んでいる。

「アメリカが! 人類が! ついに反撃の狼煙を上げました!!」


          * * *


 そして。


 その熱狂とは正反対の、静寂と冷ややかな視線に満ちた場所があった。


 次元の狭間【黄昏の宮殿】。

 円卓の間に浮かぶホログラムスクリーンに、シカゴでの激戦の一部始終が映し出されていた。


「……ふん」


 円卓のNo.8席、スカーレッド(チンピラ狼男)が、つまらなそうに鼻を鳴らした。

 彼はポップコーンを放り投げ、ポリポリと齧りながら画面を指差す。


「雑魚魔獣じゃねえか。アーマード・ベアなんて、俺なら爪楊枝でも倒せるぜ?」


「まあ、爪楊枝では無理でしょうけれど……」


 No.4席のレイ(お嬢様)が、優雅にティーカップを置き、ため息をついた。


「なんとか退治できたみたいですわね? ……けれど、スマートじゃありませんわ」


 彼女の目には、泥だらけになって勝利を喜ぶ米軍の姿は「野蛮」にしか映らない。


「美学がありませんのよ。黒いドレスも着ずに、汗とオイル塗れで戦うなんて」


 No.6の言霊少年が、マスク越しに呟いた。


「……効率悪い。一体倒すのに30分? 僕なら一言で終わる」


 彼の能力なら、『砕けろ』と言えば終了だ。


「しかも、こいつら雑魚だぜ?」


 スカーレッドが再び画面を指差す。


「見てみろよ。たった一体倒した程度で肩で息してやがる。全員ボロボロじゃねーか。疲れ切ってるぜ」


 円卓のメンバーたちは、冷笑していた。


 無理もない。

 彼ら「純正の能力者(御影の設定した天然物)」は、チート並みの出力を持っている。

 それに対し人工異能者たちは、命を削ってようやく「下級~中級の魔獣」と互角になれるレベルなのだ。

 スペックの桁が違う。


 そんな部下たちの慢心を、No.1の席から見下ろしている男がいた。


 御影 迅総帥だ。

 彼は深く椅子に腰掛け、ワイングラス(中身はグレープジュース)を揺らしていた。


「ふふふ……。厳しい評価だね、みんな」


 余裕たっぷりの声が、円卓に響く。


「だが、褒めてあげるべきじゃないかな? 私があの日、公安に残した『ヒント(魔獣因子を利用せよ)』を、彼らはうまく使えたようだ」


「ボスが情けをかけてやったおこぼれってことッスか?」


 ライト(No.3)が、皮肉っぽく笑う。


「そうだね。まあ……」


 御影は、画面の中、歓声を上げるスミス少佐たちの顔をアップにした。


「その能力は未熟もいいところだ。出力制御もなっていないし、因子の適合率も低すぎる。あれでは数回戦えば、肉体が崩壊するだろう」


 いわゆる「粗悪品(劣化コピー)」だ。


「……ボス。潰しますか?」


 No.9の情報屋が、眼鏡を光らせた。


「彼らが増長して、我々の領域に入ってくるようなら、今のうちに『教育』が必要かと」


「いや」


 御影は片手を上げて制した。


「放っておけばいい。……彼らの存在は、我々にとっても都合がいい」


 彼はニヤリと、悪役(と書いて神と読む)の笑みを浮かべる。


「警察や軍隊が『雑魚掃除』をしてくれれば、君たちの手間が省けるだろう? 我々は、より強力な『上級魔獣』や『世界の深淵』の相手に集中できる」


 これは詭弁だ。

 実際には、上級魔獣なんてまだ設定していない(これから作る)のだが。


「まだまだ我々の活躍が無くなることはなさそうだね……。むしろ、彼らが苦戦し絶望した時こそ、我々が颯爽と現れて『格の違い』を見せつける……最高の演出スパイスになると思わないかい?」


 おお……と、円卓から感嘆の声が漏れる。


 スカーレッドが膝を叩いた。


「なるほどな! さすがボスだ! 『へへッ、やっぱり軍隊じゃ歯が立たねぇ! 助けてくれ特務機関様~!』って泣きつかせるワケだな?」


「およしなさい、品のない表現を」


 レイが窘めるが、その顔も楽しそうだ。


「でもそうですわね。引き立て役は必要ですわ」


「そういうことだ」


 御影は頷いた。


「まあ、露払いを任せていいぐらいに思ってたらいいかもね。……所詮は人間の作った模造品だ。我ら、選ばれし『円卓』の席には届き得ないよ」


 一同は納得し、再び優越感に浸りながらモニターを眺めた。


 画面の向こうでは、ヒーロー気取りの米軍兵士たちが大統領から勲章を授与されるシーンが流れている。


 しかし、ここにいる13人は知っている。

 その栄光がいかに薄氷の上に立つ脆いものであるかを。


 そして、もし次に彼らが対処不可能な「真の絶望」が現れた時、世界が誰の名前を呼ぶことになるかを。


 御影は、グラスの中の紫色の液体を見つめながら独りごちた。


(さて……そろそろ次のシナリオの執筆だ。人類側が戦力を整えたんだ、こっちも強敵ボスキャラを出してあげないとな。パワーバランスの崩壊こそが、物語を面白くするんだから)


 世界の平和カオスは、今日もこの厨二病患者たちの手によって、入念に、かつ楽しげにコントロールされていたのである。

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