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【冤罪なし、反省ゼロ。溺愛の罰を召し上がれ】悪役令嬢、ヤンデレ王子に飼われ溶かされ壊される〜今さら謝られても、もう一生離さないよ〜  作者: 重井 愛理
五章

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最終話:罰

 溢れんばかりの湯を湛えた展望浴場の浴槽。ルイスは、泥と煤でまみれた私の肌着を脱がせ自らもすべての衣服を脱ぎ捨てた。冷え切った私の身体を背後から抱きかかえ、湯船に沈める。


 水中でゆらゆらと揺れる身体は、逃走の疲弊で飛ばされてしまいそうなほど軽い。抵抗の叶わぬ不自由な檻の中、背中と胸、濡れた肌同士が吸い付くような密着を生む。


「震えている……。芯から温めようか」


 ルイスは私の顎を押し下げて固定し、琥珀色に輝く液体を喉奥へと流し込んだ。どろりとして煮えたぎるほどに熱い果実酒が、乾いた粘膜を容赦なく灼き、胃の腑へと落ちる。

 香気が脳を揺らし、湯船の縁を掴んでいた指先を剥離させた。視界が甘やかな酩酊に染まる中、水面下で私の肢体が捕らえられる。


「アリエル。脚をこっちに寄せて」


 彼の腕が脱力した足の関節を曲げる。凍った地面を踏みしめて腫れ上がった足先を引き寄せ、彼は無慈悲なまでの力感で揉み解した。土踏まずの窪みを親指で抉られ、強張った筋が伸展させられる。


「……っ、ふう……」


 悲鳴は、湯気の中に霧散した。

 足の血流が蘇り感覚を取り戻した頃、きめ細やかな白泡が二人の間に現れ、境界を塗り潰した。お風呂上がりにする彼の匂い。石鹸の滑りに乗じ、大きな掌は私の肌の起伏を余すところなく記憶せんと這い回る。

 泥を拭うという名分は、いつしか皮膚の一枚下にある神経を直接慈しむような侵食に変わっていった。



 瞳が潤む。私は、堪えきれずに自らを蝕む罪の意識を吐き出した。


「もういい……っ。私は死にたいの……!」


 絶望を遮るように、ルイスの掌が私の肌を撫で続ける。


「ん……っあ……やめてっ、ください……!」


 奥に熱を浸透させるような、言葉を奪うための支配的な接触。私が自責の念に喉を詰まらせ、泣きじゃくるたびに、ルイスはその声を容赦なく嬌声で塗り替えていった。

 

「私はただの罪人で、正しいことなんて、何ひとつ――」


 彼は答えず、水面下で心臓に近い柔らかな曲線を力強く包み込む。足の先や背中など按摩で幾度となく触れてきた場所だけではない。あらゆる親密な部位への接触を、彼は私の口を塞ぐためなら厭わなかった。

 甘い痺れを突きつけられ、思考の余地が奪われていく。


「イヴだって、私なんかがいたから……。 命を狙われて、あんなことに――」


 今度は、かつて夜の甲板で自ら穢したその場所へと手を回し、指先で肉を割り弄ぶ。溢れ出す蜜。跳ねる身体。けれど、私の心はまだ、暗い地獄の底で自分自身を切り刻み続けていた。


「それに、私はっ……裏切られるのが怖くて、直ぐにあなたを疑ってばかりで! あなたを……っ、……傷つけた」


 ルイスの動きが、ぴたりと止まった。

 彼は、片腕を私の華奢な肩に回して壊れ物を扱うようにきつく抱き寄せ、もう片方の手は、私の指の間に自らの指を深く割り込ませ、きゅっと骨が軋むほどに固く繋いだ。


 逃げ場のない抱擁。至近距離で、彼の熱を帯びた呼気が耳元に幾度か押し当てられた。そして、彼は言葉を絞り出した。


「違う」


 鼓膜を揺らしたのは、これまで聞いたこともないほど低く、揺るぎない、祈るような声音だった。


「君はいつも僕を守ってくれた。傷つけたのは僕だ。君は出会ったときから変わらない――強く、美しい僕の大好きな女の子だ」


 呼吸が止まる。


 彼の言葉が、閉ざされていた魂を抉り、こじ開けた。指先だけでは決して届かなかった聖域。私を頂へと突き上げたのは、自分という罪深い存在を丸ごと飲み込もうとする、彼の狂気的なまでの受容だった。


「ひ……っ、あぁああああああ……っ!!」


 私は天を仰ぎ、腰を浮かせ、弓なりにのけぞった。ルイスはその震える身体を、極寒の冷気に晒すまいとするかのように、自らの厚い胸板へとさらに強く押し付ける。


 抗いがたい安堵に思考が覆われる中、繋がれた彼の指の硬さだけを私は感じていた。


 深い痙攣が終わると、ルイスは私を抱きしめたまま囁いた。


「アリエル。僕を恨んでくれ。僕を……恨んで……生きて、くれ……」


 切実な願いも、胸の奥から湧き上がり続ける感情を押し殺すには至らない。私は彼の胸に体重を預けたまま、小さく首を横に振った。


 彼は顔を伏せ、私の片脚を優しく掴んだ。水面の直ぐ下まで持ち上げられ、赤みを帯びた内腿が彼の視界に晒される。そして、彼は最も太い血管が流れる、生を象徴するその場所に唇を押し当てた。深く、長く、命を繋ぎ留めるかのように。


 ぐったりと項垂れる私の顔を彼が自分の方へと向かせた。吐息が触れ合う。下腹部に向けられた視線と、頬を伝う涙。彼は口づけを贈る代わりにもう一度強く私を抱きしめ直した。



 湯気の向こうでは、燃え盛る森の残光が濡れた斜面を照らしていた。




 私の身体にはもう一切の自由は残されていなかった。

 目覚めてから眠るまで、すべてを彼に管理される。心まで管理されてしまえばどれほど楽だっただろう。

 私は身体から意識を溶かす方法を、”これ”しか知らない。


「アリエル……」


 ルイスはベッドで私を抱きかかえ、濡れた髪を拭いていた。タオルを脇に置き、私を抱きすくめる。彼が寝台に横たわろうとするより早く――


「……ごめんなさい」


 私は彼の肩に手を置き、押し倒した。見開かれた黄金の瞳に獣の姿が映る。覆いかぶさり、顔を近づける。それは、初めて王宮に連れられた日に、彼が教えてくれた方法。

 私は濡れた瞳で微笑み、彼に唇を押し当てた。深く、長く、決して許されぬ罪を重ねるように。



 そして、私たちはひとつになった。


 忘却の揺り籠で、ルイスは私を抱き、愛を注ぐ。後悔も自己嫌悪も簒奪され、白く遠のいた。


「僕の愛しいアリエル。もう一生離さないよ」


 死罪を待つだけの女にとって、一生とはどれほどの時間を指すのか。

 その時はきっと遠くない。けれど、私たちはその時までただ求め合い溺れ続けるのだろう。


 fin.

皆様、最後まで読んでいただきありがとうございました。


実は今、公募のために別の小説を書き進めています。

完成したら、アリエルとルイスのその後のお話を少しだけ書こうと思ってます。


ぜひブクマをして、アリエル達が帰ってくるのを待っていただけると嬉しいです!


(公募の締切が4月なので、エピローグ投稿は5月の大型連休くらいになると思います。)

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