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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第十二章

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第150話 今後の予定決めと、予想外の着信

 文化祭準備の片付けが終わったころには、夕陽が窓の外を橙に染めていた。

 翔と彩花は、自然な流れで連れ立って教室を出た。

 校門を抜けるころには、蝉の声もどこか弱々しい。


「ねえ、翔君が四股(よんまた)をかけてるって言われてたよ」


 歩き出してすぐ、彩花が爆弾を投下してきた。


「はっ? なんだそれ」

「ほら、美波と篠原さんと佐藤さんと作業してたでしょ。やっぱりプレイボーイだったんだね」

「軽く話してただけだって」


 翔は肩をすくめた。

 四人とは彩花、美波、葵、小春のことだろう。


 鈍感朴念仁とプレイボーイは両立するのか、とまぜっ返したくなるが、怒られそうなので自重する。


「何を話してたの?」

「大した話はしてないよ。相変わらず篠原と佐藤がふざけてたけど」

「でも、美波とハイタッチしてたんでしょ? なんでそんなことになったの?」


 彩花の指先が、鞄の取っ手をゆっくりと撫でている。

 翔は、目線を空に逸らしながら、出来事を順番に思い出した。


「なんでだっけ……ああ、それこそ佐藤のボケにツッコんだら、吉良にナイスツッコミって褒められて」

「そのままパチーン、って?」

「そんなところ」

「なにそれ、青春じゃん」

「そんなんじゃないって。吉良は元々男子との距離感近いし」


 軽いボディタッチ程度なら、翔に限らずしている。

 ただ、狙ってやっているようには見えない。

 彼女にとっては、あれが自然体なのだろう。


「というか、ハイタッチくらいは俺らもやってるだろ」

「まあ、そうだけどさ。映画館で、指先も触れ合っちゃったしね」

「触れさせた、の間違いだろ」

「えっ……翔君、わざとだったの?」

「そっちがな」

「あれ?」


 彩花がとぼけるように小首を傾げたあと、くすくすと肩を揺らした。

 ちょうど、映画館で指先を触れさせてきて「ベタな展開だ」と笑っていたときも、同じような表情を浮かべていた。


「あ……」


 ふいに、何かに気づいたように、彩花がぴたりと笑いを止めた。


「彩花、どうした?」

「い、いや……」


 彩花の視線が、宙を彷徨う。

 ——次の瞬間、彩花がさっと手のひらをスカートでこすってから、翔に向かって差し出してきた。


「その……ナイスツッコミ」

「……おう」


 翔は、なんとも言えないむず痒さを覚えながら、自分の手をゆっくりと重ねた。

 お互いに躊躇いがちだったせいか、手のひらが触れ合った音は、ぺたん、と小さく消えただけ。

 美波のときと違い、乾いた軽快な音にはならなかった。


「……」

「……」


 ぎこちない沈黙が、二人の間に落ちる。

 風が、ゆるく髪を撫でていく。アスファルトの上に、二人分の影が長く伸びていた。


「……そういえばさ」


 居心地の悪い空気を破ったのは、彩花だった。


「文化祭まで、筋トレも勉強会もあんまりできないよね」

「ああ、特に平日はそうだな。放課後はほとんど準備あるし」


 習い事だといえば抜けさせてもらえるだろうが、本当に習い事をしているわけではないため、気が引ける。

 かといって、六時間か七時間の授業を受けた後に文化祭準備まで行なっていると、夕食までに残された時間はわずかしかない。


「それで思ったんだけど、平日の放課後は筋トレと勉強会を交互にやるのはどう?」


 どちらもやる時間は絶対に確保できないため、片方ずつ実施するのは理にかなっている。

 しかし——


「……交互にっていうと、ほぼ毎日放課後も過ごすことにならないか?」

「あ、う、うん。まあ、そうなるね。……さすがに毎日はしんどいか」


 彩花の声が、ほんのわずかに小さくなる。

 嫌がっていると誤解されてしまったのかもしれない。翔は慌てて首を横に振った。


「いや、俺は基本的にお邪魔する側だからいい……というか、ありがたい話なんだけど、彩花たちの負担になるんじゃないかなって」

「あ、そういうこと?」


 彩花の声のトーンが上がった。


「ウチのことは全然気にしないでいいよ。むしろ弓弦が喜ぶし、お母さんも翔君のことは気に入ってるからさ。歓迎してくれるよ」

「そりゃ、ありがたいけど」

「お父さんのボールペンは何本か犠牲になるかもしれないけどね」

「怖いって」


 翔と彩花が名前呼びをしていると知ったとき、彩花の父親である輝樹はボールペンを二、三本折ったと言っていた。

 さすがに冗談だと信じたいが、彼なら可能性はゼロではない気もする。


「なら、勉強会も双葉家でいいか? 帰りは遅くなるだろうし」

「ふふ、紳士だね」

「これくらいは当然だろ」


 草薙家で勉強会をするとなると、彩花を家まで送り届けなければならない。

 そこから家に帰るとどうしても遅い時間になってしまうので、翔としても双葉家開催のほうが都合がいいのだ。


「あ、でも、しれっと私の部屋に押しかけようとしてるから、紳士じゃないか」

「変な言い方するな」




◇ ◇ ◇




 その日の夜。

 翔は彩花と電話を繋ぎ、勉強会と筋トレの詳しい日程を一通り決め終えた。


『この後、日程をまとめたメッセージを送るね』

「おう、助かる」

『じゃあ翔君、また明日ね。おやすみ』

「おう、おやすみ」


 通話が終わると、画面が彩花とのトーク履歴に切り替わる。


「……そういえば、彩花と電話したの、ちょっと久々かもな」


 翔が距離を取ってしまっていた期間は特に、メッセージや電話のやり取りもなかった。

 トークをさかのぼってみると、やがて通話履歴が目に飛び込んできた。


 父親の正志が帰ってくる直前のことだ。

 ……二週間も経っていなかった。

 意思とは無関係に、翔の頬に熱が集まる。


「……それより前は、ちょっと頻繁に電話する用事があったからな」


 誰に向けたわけでもない言い訳をつぶやきながら、スマホを机に置いた。

 彩花からの連絡が来るまで、目を休めていようとまぶたを閉じる。


 しかし、すぐにブーブーとスマホが震え出した。

 メッセージの受信ではなく、着信だ。


 彩花が何か用事を思い出したのか、伝え忘れていたことでもあったのだろうか。

 意外とおっちょこちょいなところもあるからな、と自然と口元を緩めてスマホを手に取り——


「えっ……吉良?」


 翔は驚きに目を見張った。

 着信画面に表示されたのは、美波の名前だった。

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