酸の土と魔法石
私の頭の中で何かが足りないと囁いていた。このダンジョン内で、酸の土を生み出すことのできるビジョンが思い浮かばないでいた。
「フィナ……。酸の土が採取できるエリア周辺の地形って、どうなっているのでしょうか?」
「うーん?」
小さなため息を漏らし続ける私は、剣を素振りしているフィナに尋ねた。
立体的に映し出されているフィールドマップと睨めっこするだけでは、何も生まれない。
私なりにはわかっていたつもりなのだが、ダンジョンの進展がない時間を過ごしていることを空しく感じていた。
ずっと練習していたフィナの剣先が鋭くなるように、私のダンジョンにも何か大きな進展がほしい。
「私が求めているのは、闇の国と水の国の境目あたりの情報ですよ?」
「オシリスとアクエリアとの境界付近か。あの辺りは属性反発が発生する場所だな」
「属性反発……。どんなものでしたっけ?」
「火、水、風、土、光、闇。六つの属性が存在している魔法石が、異なる属性と寄り添った際に生まれる新たなエネルギーのこと。そして、各国それぞれの大陸そのものが強大な魔法石で出来ている」
「陸地に巨大な魔法石……国境付近は天候などが荒れやすいということですか?」
「天候って……考え方としては間違ってないのがなんとも言えないけど」
「ふむふむ、とても参考になります。でも、魔法石となるものが私の手持ちにありませんけど」
「そのことなんだけど」
フィナは素振りをいったんやめていた。
その代わりに、両手で包み込むように何かを持っていた。
「これが魔法石です。貴重なアイテムなので、紛失しないようにお願いしますよ」
フィナがゆっくり開けると、青と黒、それから赤色の輝きを放っていた。
三つある魔法石は間違いなく、SSRの素材アイテムだった。
「フィナ、ありがとうございます。ところで、フィナはこんな貴重なものどうやって入手したのですか?」
「それは……あの……」
フィナは頭を右に逸らす。
「それらの魔法石は、あたしが持っているSSRの武器を獲得するついでの副産物で……」
「フィナの武器は魔法の銃に変形する、白い剣でしたっけ?」
「そうです、聖剣ティルザードという名前です。SSRの魔法石は、そのピックアップガチャで」
「それ以上は聞かないでおきますね」
魔法石を受け取った私は、にこっと微笑む。
フィナの闇が見えてきそうだったので、これ以上は深く掘り下げないでおこう。
「とりあえず、闇の魔法石と水の魔法石を設置すればよいのかな?」
「そうなるのかな、あたしは魔法石なんて使ったことないけど」
「これらを使うまでもなく、フィナはこのダンジョンの地下四階層までソロで進んだ実力があるのは知っていますから」
「その……。褒めてくれて、あ、ありがとう……」
「いえいえ」
照れ隠しするフィナから目を離した私は、死骸を集めておいた部屋に二つの魔法石を設置した。
すると、魔法石を送り込んだ部屋に変化が起き始めた。
「早速ですが、酸の土が発生しているのでしょうかね。すぐに行ってみましょう」
「あたしは、どうしよっか。ついて行って良いかな?」
「フィナ、勿論ですよ!」
そう言った私は、大きめのワープゾーンを出現させて、すぐに対象の部屋に向かった。
「これは……。足元が、色の違う砂に変わっていますね」
「うん。これ、酸の土だね」
その場にしゃがみ込むフィナは、両手で砂をすくい上げる。
「酸といっても、所詮は素材アイテムだから素手で触っても平気なんだよね」
「なるほど。私たちに直接的な害はないということですね」
「でも、魔法を当てたりすると爆発が起きたりするから扱いには気をつけてほしいかも」
「それは、気をつけます……」
素材アイテムの仕様について理解が深まった私は、酸の土を部屋の隅っこへと寄るよう、ダークスライムに指示をする。
これで、酸の土を集める問題は解決した。
あとはデーモンウルフを倒しに行くのみ。ついでにレアモンスターの情報がほしいところではある。もし遭遇したら討伐をしても良いのだけど、フィナはどう思っているのだろうか。
「フィナ、これからフィールドに出てデーモンウルフを倒しに行くのはどうでしょうか?」
「そうだな。試しにだけど、パーティーとして連携してみるのはどうかな?」
「それ、良いですね」
フィナと協力してデーモンウルフを倒しに行く。
それ以上でも、それ以下でもない。
あるのは、わくわく感のみ。
「あたしは準備万端だけど」
「では、ダンジョンの入り口付近まで転送しますね。どのみち私は遠距離から攻撃するので、武器は必要になったときに取り出します」
「そ、そうだな……」
フィナは渋い顔になる。
もしかしたら、フィナにとって苦い敗戦の記憶を、思い出させてしまったのかもしれない。
「では、ワープしますよ!」
ダンジョンクラフトのスキルを用いて、自身とフィナをダンジョンの出入り口まで転送する。
やっぱり便利なダンジョンクラフトというスキル。そういえば、フィナの持っているスキルのこと、まだ把握出来ていないような。
後で聞いてみようかな……。
「ふあー。外の空気が美味しく感じます」
ダンジョンの外に出ると、デーモンウルフがまばらに出現している大草原が広がっていた。
「クレイキューブの地下迷宮だっけ? ダンジョンの見た目、なんかピラミッドっぽいよね」
その場で振り返ったフィナは、私のダンジョンを見上げる。
「ピラミッドみたいと言われましても。見た目の変更方法とか、よくわかってなくて」
「つまり、パルトラはスキルの持ち腐れということか。なるほど」
フィナは一瞬だけ、目を光らせる。
「へ、変なことは考えないでくださいね!」
「別に変なことは考えてないよ。ただ、パルトラがわからない物事って、いっぱいあるんだなと思っただけです」
「ふむ……?」
言われてみれば、たしかにそうかも。
フィナのほうが詳しいことを、少しずつでも良いから教わらないといけない気もする。
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