お友達を探しに
「ダンジョンを一緒に作ってくれる方がほしいです」
受け付けのお姉さんに直接、問い合わせてみた。
ダンジョンの発展には探索する冒険者が必須であり、私個人的にお友達も欲している状況だった。
必要性を、心の片隅で薄々感じている。
「ダンジョンの名前はお決まりですか?」
「うーんと、出現モンスターのスライムってなんだか粘土っぽくて……。クレイキューブの地下迷宮……とか……」
「なるほど」
「あの、どうしましたか?」
「迷宮神殿オシリスの北に位置する、クレイキューブの地下迷宮という名のダンジョン。このダンジョンの最深部に到達した者は、ユニークスキルを二つも持つダンジョンマスターと相対する権利を得られます!」
受け付けのお姉さんは、大声で口に出してきた。
その直後だった。
メールが届きましたという、お知らせが来た。
「これって……」
さっき受け付けのお姉さんが口にした言葉が、そのまま掲載されている。
そう、この受け付けのお姉さんは大胆に各位プレイヤーへ告知を出してしまったのである。
「あの……一緒にダンジョンを作ってくれそうなお方を探しているのですけど……」
「ダンジョン作成のお供に相応しいプレイヤー様を探しだす手段として、剣を交えてみるのはどうでしょうか?」
「うーん。たしかに、ダンジョンを自力で進めることのできる実力くらいは欲しい気もしますけど」
「それではパルトラさん、頑張って下さい」
「あっ、はい。がんばります」
受け付けのお姉さんとの会話が、途切れる。
実力に見合った者同士が手を取り合ってダンジョンを作り、他のプレイヤーを倒す。
とてもこのゲームらしいといえば、らしいが。
ひとまずは……。至急、ダンジョンに戻っておかないといけない気がした。
探索したプレイヤーがたどり着くであろう最深部に、ダンジョンのボスが不在だなんて笑えない。
あと、私のことをプレイヤーとしてではなく、ボスモンスターと告知したのも、何かの意図があってなのだろう。
その確認もしたいので、ダンジョンに直行する。
「えっと、まずはダンジョンを探索する者の人数確認と、私のユニークスキルの表示かな?」
告知されて早々、ダンジョンを探索する者が現れていた。
プレイヤー達は早速、ダークスライムと戦闘している様子だった。
戦闘している様子を見守るのも悪くないけれど、私自身のことについて再確認したくて。
「うんと、あった」
私は、発見した。エネミー判定のオンオフである。
現在オンであるが問題ないだろう。
これがオンだと、私自身がモンスター扱いになる仕様。そして、このゲームの仕様のひとつである、モンスターに倒されたプレイヤーは、所持しているアイテムや装備を落とすペナルティーが発生する。
おまけとして、残骸がその場に残る。
残骸が出現しても、あくまでもゲーム内なので、現実世界でプレイヤーは死ぬことはない。
一応、触れる判定はあるので各種素材に自由に使うことができる。
「これで確認できたことだし、いまの戦況はどうなっていますかね」
私はダンジョンの様子を確認する。
「あれっ、皆さん地下一階でやられてますね……」
ダークスライムに蹂躙された冒険者の残骸が、たくさん出現していた。努力して地下二階まで進んだグループもいたが、強化されたダークスライムの数に圧倒されてしまい、あえなく全滅してしまった。
これ、もしかしてモンスターをとんでもない方向性で強化しずぎたのかな?
誰も最深部までたどり着くことが出来ない。そうなれば、選別はしやすいだろうけどお友達を探すのに時間が掛かってしまい、あまりよろしくないと思う。
再挑戦も出入り口付近で出落ち。
モンスターが強すぎるというコメントが溢れかえる。
これにより、探索を諦める者が増えていく。
そんな中、地下四階層を探索しているプレイヤーがひとりいた。
「これ、ちょっと気になるね……」
私はプレイヤーの姿を映してみた。
髪が長い金色のツインテールで、体格が小柄な女の子。魔法学校の生徒っぽい青色をベースとした服装を身に着け、右手に持った軽そうな白い剣でダークスライムを翻弄していた。
だが、白い剣ではダメージがあまり入っていないように思える。
そこで女の子は、剣の刃先をモンスターに向けた。
次の瞬間、剣が変形して拳銃になった。
銃の先端からは、僅かに赤みに帯びた魔法の弾が発射される。
「このプレイヤーの装備は、間違いなくSSR装備ですね……」
女の子は数発撃ち込んでから、ダークスライムの様子を伺う。
「気になる。この方の名前、何でしょうか」
私は検索をかけてみる。
そしたら、すぐに判明した。
プレイヤー名は、フィナ。
初回ログイン時から、女の子のアバターである。
調べてみたけど、どうしようか。
ここは……。
転送魔法を使って、接触を図ってみる。
「初めまして、こんにちはです!」
「はぁ、はぁ。貴方は、どちら様ですか?」
息を切らしていたフィナは、喋るのがやっとだった。
「このダンジョンのボスである、パルトラといいます」
「ダンジョンの……ボス……?」
突然のダンジョンボス登場に、フィナは物事を全く理解していない顔になっていた。
「その証拠は……あるか……」
「はい。ここのモンスターは、私の元で制御することが可能なのですよ」
近くのダークスライムには、フィナを襲わないよう待ての命令をしていた。
「それで、貴方はあたしを殺したいの?」
「まずは詫びたい……。このダンジョンに今のところダークスライムしかいないことに、です」
「そんなこと気にしたことないよ」
「そうでしたか……」
私はなんとなく、ひと安心した。
「それで、急になんですが……」
「うん……?」
「フィナさん。私と一緒にこのダンジョン、大きくしませんか?」
「ダンジョンの発展のお手伝い? ちょっと考えさせて」
「はい。私は、お返事をいつでもお待ちしておりますよ」
「うーん、ダンジョンの発展に手を貸すと、あたしはもっと強くなれるか……いやいや……」
首を横に振るフィナは、迷いがなかった。
「あたしは最深部に辿り着く。ダンジョンマスターさんはそれまでおとなしく待っていて!」
そう言ったフィナは、まるで今までの疲労が嘘と思える速さで駆け抜けていった。
「お友達勧誘、失敗したかな……?」
とりあえず、フィナが地下六階層に辿り着くことが出来るかの見物がしたいので戻ろうか。
私は自身に対してのみ、転送魔法陣を展開した。
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