ふたつの相談ごと
「えへへ……ご馳走さまでした」
食事を終えたノアは、すっかり大満足していた。
「吸血するノアちゃんの笑顔が見れたら、もっと癒されそう……」
結局見れなかった後悔が押し寄せてくる。私の心に潜んでいた声が無意識に出ていた。
それをノアは、見て見ぬ振りをした。
「すみません。オシリスのダンジョンマスターであるパルトラ様に、ご相談したいことがありまして」
話題を切り替えてきた。それはそうと、お願いごとか……。
「私に相談ごとだったら、遠慮なくどうぞですね」
「パルトラ様、ありがとうございます。ノアがご相談したいことは、二つあります。ひとつめは、失われたシリーズと呼ばれるアイテムを探しておりまして、そのアイテムを発見したらご報告してほしいのです」
ノアは真剣な目つきになって、気を張っていた。
失われたシリーズ。
ノアが乗っていた乗り物、あれが失われたシリーズのひとつ。
私のところには、先日入手していた『失われた青き水晶の破片』という素材アイテムが三個あるのだが、これも何か関連しているのかどうか。
「パルトラ、いま戻ってきた」
シクスオから離れていたフィナがこの場に現れると、ノアが息を呑む。
「フィナ様でしたっけ。お帰りなさいです」
「ああ、それで今は何の話をしているんだ?」
フィナは、私に尋ねてきた。
「ノアちゃんは、失われたシリーズを探しているらしくて。失われたという名のアイテムを発見したらノアちゃんに知らせる、で良いのかな?」
「そうして頂けると幸いです」
「わかりました。それで……私、同じものを三個ほど持っているですよね。失われた青き水晶の破片というアイテムですけど」
水晶の欠片を手のひらにのせた私は、ノアに見せびらかす。
「ふむぅ……。あれに該当しないサイズ感とはいえ、これを研究すればあるいは……」
ノアは真剣に見つめていた。
「出来れば、ひとつ貸して頂けると幸いです」
「失われた青き水晶の破片は、別に素材アイテムとして使う予定がなかったから大丈夫ですよ」
「わかりました。パルトラ様、ありがとうございます!」
失われた青き水晶の破片を手に取ったノアは、ほんの少し顔が緩む。
ノアは研究と仰っていたが、いったい何を調べているのだろうか。
シクスオには、隠された要素がたくさん眠っている。海殿――グレイブ・クローニア攻略中に知ったシクスオの歴史でさえ、後になってギルドで情報開示できた。
研究して何かを知ろうとするノアのこと、ちょっとだけ応援したくなる。
「お願いが二つと言っていたが、もうひとつはなんだ?」
フィナは、ノアのお願いが二つあることを気にしていた。
失われたシリーズを探すのは、真剣になればなるほど大変だと感じてしまうことでもある。もし二つとも難しそうなお願いごとだったら、どうしようか。
「そのですね、迷宮神殿オシリスにダンジョンマスターがようやく現れたということですので、お祝いごとをしたくてですね……」
ノアは照れ隠しする。
何か言いずらそうな雰囲気ではありそうだ。
「私だったら、なんでも大丈夫だよ。たぶん」
「そうですか。では、言いますね」
一度深呼吸を挟むノアは、覚悟を決める。
「三カ国ダンジョンマスター交友会を、開催したいと思います」
二つ目のお願いというものは、プレイヤーが主催するイベントの実施だった。
「ノアちゃん、具体的にはどういったことをするのですか?」
「各国のダンジョンマスターが手を取り合って、期間限定で特別なダンジョンを作成及び解放をしようと思ってまして」
「ふむふむ……面白そうですね! フィナは攻略組に入るのかな?」
「あたしは確かに攻略組に入った方が良さそうだが……。パルトラを入れて三人……何故、三カ国なんだ?」
「本当は六カ国でやりたかったのですが、いまの時期、スケジュールの折り合いが難しいギルドマスター様が思ったより多くてですね……。交友会をしてみること自体はじめてのことですが、企画に乗っかってくれたのがアクエリアのギルドマスター様だけでしで」
「えっと、ノアちゃん。小規模で開催するということかな?」
「すみません。そうなりますね」
ノアの、どうしても祝いたかった想いが、先行してしまった感が否めない。
けど、祝いごとをしたいと申し出ているというのなら、その企画に乗らない理由はない。
一応、アクエリアのギルドマスターであるセレネは、私との面識がある。
まだ顔を合わせたことのないギルドマスターとお会い出来ないのは残念だけど、みんなで特別なダンジョンを作るのは楽しそうではある。
「それで、パルトラ様のスケジュールは大丈夫でしょうか?」
「私のスケジュールは大丈夫です。ダンジョンを作るのは楽しいですから!」
「そう言って頂けるとは……。ありがとうございます」
ノアは一礼すると、胸に手を当てた。
「お話は終わりました。そろそろノアは自分の国に帰ろうと思います」
「そっか……。ノアちゃんを、ダンジョンの入り口まで転送したら良いのかな?」
「パルトラ様、そうして頂けると幸いです」
「うん? 本当に、ダンジョンの入り口までで大丈夫なのか?」
「フィナ様、ノアの心配はご不要です。お外に放置してあります、失われた円盤に乗って帰りますので」
「ああ、あれか。あれで……?」
「ノアちゃん、無理しないでね」
「お気遣い、ありがとうございます」
ノアは、もう一度お辞儀をした。
「それじゃあ、ノアちゃんをワープさせるよ」
私はノアの足もとに、魔方陣を展開した。
ノアの身体が異空間に吸い込まれていき、ダンジョンの出入り口に送り出される。
「帰ったな」
「そうですね……。さてと、フィナ。いまから何をしようかな?」
「今日のパルトラは、武器の使用感を試した後、新しいモンスターを作りたいって言ってたような気がするのだが」
「そういえば、そうだった」
手元にある素材アイテムを確認しはじめた私は、作りたいモンスターの容姿をイメージする。
海殿――グレイブ・クローニアで見かけた、ゴーレム系モンスターであるメルヘンマトン。
私は、それに似たような外見のモンスターを試しに作ってみたいと思っていた。
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