物語が進んだ先に
まずは、黒板に出現したワープゲートに近づいてみる。
「これは行けるかも?」
触れると何処に飛ばされるかわからないけど、機能停止はしていない。
この先にセレネがいるとして、ここでやり残したことがないか確かめる。
「あっ、賢者の石……」
赤く輝く伝説の宝石。私は慎重に左手を近づけた。
すると、左手の先端からほんの少し、水晶のように固まりだした。
「うっ……」
私の左手に激痛が走った。
賢者の石が、拒絶している?
それでも、是非一度は触れておきたい。私は一気に腕を出し、水晶のように固まった先端を、賢者の石の表面に当ててみた。
『パルトラは、エネミーポイントを使って賢者の石を交換できるようになりました』
通知が入ると、左腕を賢者の石から手早く離した。
エネミーポイントで引き換えできるようになったということは、これで私も賢者の石を扱えるようになるのかも。
そう思ったのだが。
「賢者の石の交換レートは、五千兆エネミースコア……!?」
果てしなく到達できそうにない数字を前にして、ただ頭を抱え込むことしか出来なかった。
でも、落ち込んでいる暇はない。
「セレネさんは、きっと何処かにいる……!」
黒板が気になる私は、ハッキリと描かれている魔方陣をじっと見つめた。
この手のワープ方法は……事前情報にあったかな……。
うろ覚えの記憶を頼りに魔方陣の起動を試してみる。右手で魔方陣の円をなぞってから、手のひらを広げた。
「あとは、こうやって……」
円の中心に手のひらをあてると、私の意識は黒板に吸い込まれいった。
いつもより、少し長く感じるワープだった。
一度飛び込むと、後戻りが出来なさそうに思えた。
「ふぅ……ここは……?」
意識がはっきりとした私は、クローニア学園体育館の地下のような、結晶化している通路に立っていた。
「とにかく進むとして、セレネさんはどこにいるのかな……」
暫く歩いてみることを決めたが、同じ景色がずっと続いていく気がした。ここもダンジョンの中の筈なのだが、モンスターや精霊が出てくる気配すら感じなかったので、ちょっぴり不思議な通路であることに間違いはなかった。
「セレネさん、どこですか?」
定期的に声を掛けても、反応はない。
出口の見えない道、どこまで歩けば良いのか。
ただ、歩いていくうちに分かってきたのだが、ほんの少しずつだが、道幅が広くなっていく傾向がみられた。
だから、もうちょっと歩いてみよう。
セレネがこの先にいると信じて。
「えっ……ここは……」
足を止めた私は、息を呑む。
教室でみたものとは比べものにならないくらい大きな賢者の石が目立っている、とても広い空間にたどり着いたのである。
そこにはブルースピリット五匹と、セレネがいた。
もうどれくらいの時間を歩いたかなんて、はっきり覚えていなかった。
『オカエリ、ダ!』
『オカエリ、カ!』
『オカエリナ、サイ!』
『オカエリ!』
『オカエリ、デスネ!』
「全部、思い出したから……。精霊さん、ただいま」
セレネは精霊に対して特に怯えたりする様子はなかった。特に、この五匹は家族のように親しくしているように思えた。
「セレネさん、もしかして……」
「あっ、パルトラさん……!?」
セレネは、私の存在に気づいた。
「わたくし、全部思い出したの。精霊さんたちと、仲が良かったということを!」
セレネは手を振ってくれるけど、その場から一歩も動く気配はない。
「ギベオ校長がセレネさんのことを、記憶喪失と言ってたから心配していたのですけど。思い出したなら良かったですね」
「実は、そのことなんだけど……」
「どうしたのですか?」
セレネは、どこか戸惑っているように思えた。
全部思い出して、すべては解決。
そう言いたいのだけど、単に言い出せないだけなのか。
いや、違う。
セレネの視線が、やや下を向いていた。
「わたくし、ほんと全部思い出したんだよ。わたくしは、クローニア学園を破壊するモンスター側の立場にあったことをね」
「セレネさんが、クローニア学園を破壊……ですか……?」
「うん、そうだよ」
何か大きな決心をしたセレネは、背中にある髪留めを外して、白い髪を揺らす。
それから、口を小さく開いた。
「わたくしに眠りし力、解放せよ。ドラゴンソウル――」
セレネの足もとに魔方陣が形成されると、セレネ自身が白銀の水晶に覆われてしまった。
その後、白銀の水晶が大きくなって。
砕けた時。
私は目を疑った。
「吾輩は、賢者の石となった竜の子孫なり」
硬い爪、白銀の胴体、透明度の高い大きな翼。
これがセレネの正体――。
クリスタルシルバードラゴン。
「セレネさん……」
「吾輩の真実を知ってしまったら、例えどんな者であっても、ここから帰すつもりはない」
セレネは冷たい息を吐いた。
ブルースピリットのスカウトが完了するまで帰る気のない私には、どうでも良いのだけど。
ただ、セレネが深く悲しんでいるように思えて心が痛む。
『シンニュウシャ、ハッケンダ!』
『シンニュウシャ、ハッケン?』
『シンニュウシャ、ハッケン』
『シンニュウシャ!』
『シンニュウシャ、ハッケンデスネ!』
五匹のブルースピリットが、私を敵だと認識する。
しかしながら、攻撃を仕掛けてくる気配は今のところない。
「いでよ、光の雷鳴――。無数の流星となりて、降り注ぐ」
私は、右腕を上げて詠唱する。
ブルースピリットに魔法の効果がないと分かっていても、セレネには分かってほしい。
「元凶はクローニア学園の校長先生! だから、セレネさんは何も悪くないっ!」
必死に訴えかける私は、十六ある光の隕石を解き放った。
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