ダンジョン製作の再開をする
シクスオにログインすると、原則ログアウトした場所からの再開となる。
ダンジョンの製作部屋を見渡した限りでは、フィナはまだ来てない様子である。
「そんなことより、このアラート……」
――ゾクリと、冷や汗をかいてしまう。
私の着信メッセージの中には、鳴り止まない警告のお知らせがあった。
「これ、開けるしかないかも……」
確認する勇気が足りない私は、必要以上に周囲の目を気にしていた。
右往左往、必要以上に敏感になって目を泳がせても緊張がなくなるわけではないのだが……。
「パルトラ殿、どうしたかね?」
「ひゃわっ」
不意に現れたアレイに驚いて、背筋が凍り付く感覚がした。
ただの気のせいなのだけど、アレイは私の態度をみて少々呆れていた。
「僕は武器工房に行くから、用事があったら言ってやね」
「あっ、はい……」
ふふふと笑うアレイは、すぐに立ち去っていった。
片手には、冷たそうな素材アイテムらしきものを持っていた気がしたのだが、真相は不明。
とりあえず、メッセージを開けてみないことには、前に進まない気がした。
ゴクリと息を呑み。
えいっ。私はタップする。
「なになに、ダンジョンに設置されていた、水の魔法石の動作を運営側の権限で強制停止させました――」
ということは、魔法石の部屋に何か問題が発生したということ?
現場の確認を急がないといけない気がした。
「えっと……いま行くから待ってて、腐敗したお肉さん!」
私は慌てて、風神の和太鼓を天にかざす。
「あれ……?」
ワープすると、殺風景で、砂と壁があるだけの空間に立っていた。
腐敗したお肉はとっくに完成しているはずなのに、どこにも見当たらないのは何故だろうか。
「仕方ない、詳しく調べてみようか……」
しぶしぶダンジョンのマップを開けると、腐敗したお肉のある場所は現在地より座標の低いところにあるらしくて……?
「ああああああああああ――――」
腐敗したお肉が、酸の土に埋もれてしまっている。
この状況で腐敗したお肉を回収するには、作りすぎた酸の土をどうにかしないといけない。これの解決方法は……。
「パルトラは、ここかな……?」
風神の和太鼓を使用したフィナが、私の目の前にワープしてきた。
「あわわわ。フィナ、どうしましょう」
「トラブルならギルドに行こう」
「そ、そうですね。なんとかしてアイテムの回収しないとですから」
ギルドへはダンジョンの地下六階にあるワープゾーンを経由で簡単に行くことが可能だし、少しの間の我慢をするだけで……。
「あたしもギルドで、聞きたいことがあって」
「緊急のアラートが鳴ってますので、私から聞いても大丈夫ですか?」
「はいはい」
「私の扱いが軽いような……」
「そういうつもりはないよ?」
フィナは至って落ち着いていた。不満があるのは、私だけかもしれない。
けど、問題は出来るだけ早く解消しないといけない。
風神の和太鼓でダンジョンの最奥地にワープして、そこからギルドで飛び込んだ。
そして、少し口を酸っぱくする私は、ギルドにいる受け付けのお姉さんに問い合わせた。
「酸の砂に埋もれている、腐敗したお肉を回収したいのですが」
「しばらくお待ちください――。そちらの状況をみる限りでは、アイテム回収判定の拡大スキルが付与されているマジカルハンドといった装備品が必要となります。詳しくはアレイ様に尋ねるとよろしいでしょう。もしかしたら、必要な小道具を借りることができると思います」
「なるほと……アレイさんに聞けばよかったのですね、ありがとうございます」
「いえいえ、お構いなく」
受け付けのお姉さんは喋り終えると、真顔に戻る。
「……さてと、あたしも質問よろしいでしょうか?」
「フィナ、ちょっとだけ待って。ここでひとつ試したいことがありまして」
フィナを呼び止めた私は、風神の和太鼓を手に持っていた。
ギルド内で風神の和太鼓を回してみると、どうなるのか。
それを興味本位に試してみたかった。
「風神の和太鼓、使ってみます。フィナはどうなるか見守ってほしいです」
「すぐに終わりそうだな……わかった」
「はい、よろしくお願いします」
私は、風神の和太鼓をくるくる回し始めた。
しかし、なにも起きなかった。
やはりダンジョンじゃないと駄目なのかな、と思ったのだが……。
『現在、パルトラ様は他の国にある拠点地へは一度も訪れたことがないので、ワープすることが出来ません』
アナウンスが流れた。
「私、出来ないと言われた」
「パルトラ、急にどうしたんだ?」
「ここで使うと、他の国のギルドへ飛べるみたいなんですけど、私って他の国に行ったことないからどこにもいけませんということです」
「ふむっ……その理論だと、あたしは三カ所だけいけることになる」
「フィナで三カ所……フィナは、行ったことない国があるのですか?」
「うん。近くまで行ったけど、ギルドへ入るのを断念したところがあって」
「意外ですね……」
「そうとも言えないけど」
「ふむふむ」
私は妄想を膨らましていた。
フィナが今後、他の国の行く機会があったら、私が同伴しているのかな?
ちょっと想像しにくいけれど……多分そうすると思う。
「あたしの用事、済ませそうかな」
フィナは、質問するために受け付けテーブルに近づいていった。
私はどうしようかな。一度ダンジョンに戻るのも悪くはないのだけど。
「宝箱の作り方って、どうしたら良いですか?」
フィナは、大きな声で尋ねていた。
フィナが聞いておきたかったことって、宝箱のことだったのか。
宝箱の作成は、クレイキューブの地下迷宮に足りてない要素のひとつでもある。
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