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フィナの実践練習


「前衛が二、後衛が三です」


 フィナがマップを開いていたのか、すぐに情報が入ってきた。

 分断できたとして、タクトの他にもうひとり着いてくるということか。


 タクトに質疑できない可能性があることを心積りしておこう。


「冒険者パーティと、フレアウルフとの戦闘が始まりました」


 ひとまず作戦通りに進んだ。

 まずは最前線で突撃していくフレアウルフを見守ることになった。


「剣筋とか、一応確かめておこうかな?」


 私は監視の為にダンジョンの様子を映し出す画面を、目の前に出していた。

 前衛二名は両方とも片手剣を持っている。


 このダンジョンでのフレアウルフとは、初対面のはずだ。


「あれは、フレアウルフ……!」

「嘘だろっ。危険だから下がっておいて」


 音声もバッチリ、私のもとに伝わってくる。

 慌てたリアクションを取る前衛二人が前に出て、後衛との距離が離れていく。


 後衛のうち二人が、魔法の詠唱を始めている。が、詠唱速度がやや遅いように思える。

 これなら、フィナが合間に割り込んで、分断できるよう魔法の銃を撃てるはずだ。


「前が出たか、お二人は僕がお守りします」


 後衛の中に、槍を構える男がいた。

 ということは、実質前衛が三名で、彼が後衛に混じっても隊列を維持できるということなのだろう。


「ふむふむ……そうしましたら」


 最初に突撃させたフレアウルフに、その場から少しずつ下がるよう指示を送る。

 それから、二つ目の列のフレアウルフを前衛と後衛の間から入り込むようにして、分断。


 そこから更に、フィナを率いる三列目の部隊が、後衛を直接狙うという形でいこう。


「あたし、行くよ」


 フィナは、前衛二名の避けて後衛の者を狙う。

 最初から狙いは定まっていた様子だった。不意に現れては、後衛にいる槍使いに魔法の銃を当てると、そのまま距離を詰めていく。


 これでフィナと槍使いが一対一になった。

 あとは、フィナが率いるフレアウルフの列が後衛二人に素早く襲いかかる。

 すると、詠唱していた二人の冒険者は行動を取りやめて直ちに逃げ出そうとしだした。


 その後、前衛二名が後衛の助けに入ろうとするのだが、それはさせない。


 ここでダークスライムのお出ましだ。

 ダンジョンのモンスターは、一種類だけじゃないという言い聞かせでもある。


 一見ダークスライムを倒して、勢いのまま後衛の救助、という綺麗な流れがあったが、それははじめからできないよう仕込んでいた。


 ダークスライムは自らの体を使って、まるで津波のように襲い掛かる攻撃を仕掛けていく。


「すまない、これは完全にパーティの整列が乱されたな」

「どうにか耐えてくれ」


 流されることを拒む前衛二名は、やむなく後衛から離れていくことを決めた。

 それを逃がさないと、フレアウルフで前衛二名を追いかけ回す。


 適時ダークスライムで通行の妨げをしながら、前衛二名だけをダンジョンの出入り口まで導いていく。


「これは順調ですね。そろそろでしょうか?」


 私はダンジョンの出入り口に待機すべくワープする。ダンジョンクラフトのスキルで作り出された監視部屋じゃないと、通常のダンジョンマップしか見れないのは少々不便だが、それでも十分といえる情報は得られた。


「ふむ、こちらへ来そうですね」


 私はエグゼクトロットを構えて、息を整える。

 ダンジョンの出口最後の壁として、立ちはだかることにしたのだから。


「なんかいるー」


「そうだな」


「ふふふっ。とても仲良しさんなこと」


 私の目の前にいるのは、カラットという少年と、タクトという美少女。


「モンスターの判定なのに喋っている……お前は誰だ?」


「初めまして、そしてお久しぶりといったところでしょうか? 私、ここのダンジョンマスターをしておりますとパルトラと言います」


「パルトラ……あっ……」


「うん? わからんな」


 男の方は反応が薄いが、美少女のほうは気づいてしまった様子。


「タクトは、知っているのか」

「ああっ、俺はあいつと一度かち合ったことがあってなっ――」


「ふーん。タクトが知っている者か。でも、どうしてだ」


 男は疑問を抱いていた。


「どうして……とは?」

「わざわざこんなダンジョンの入り口で、ダンジョンマスターが待ち構えているなんて、何を企んでいる?」


 警戒心を強める男は、手を震えさせながらも剣を構えていた。


「私がここへ出向いた理由ですか? それはですね、タクトさんと少しお話しがしたくて」

「どういうことだ?」

「タクトさんと初めて剣を交えた際には、青年の姿をしていましたので。タクトさんの身に一体何かあったのかなと」

「そんなことか。タクト、嘘つかずに言ったれ」

「うぐっ……。この姿な理由は、な……」


 タクトは何故か嫌そうに思いながら、口を滑らせる。


「師匠に、言われたから」

「何をです?」

「今朝頃、俺は実姉と喧嘩になったんだ。そのことを話したら師匠から、パルトラさんに勝つか日付変わるまでは女の子の姿のままな、と」


 タクトは顔を赤らめていた。


「タクトさんが女の子の姿な理由……。なるほど、そういうことだったのですね」

「なぁ、面白いだろ?」

「俺で面白がるな、恥ずかしいから!」


「そうですね。それで本日は、私を倒しにダンジョンへお越しになられたと」


 私はくすくすと笑った後、魔力を杖の先端に蓄えるよう意識した。


「そうなんだけど。ほんとタクトと、その師匠の約束が面白くてな!」

「う、うるさい……。この姿は一日限定だし、シクスオは遊びだからなっ!」


 男は豪快に笑っていて、タクトは肩の力が抜けて羞恥心で腰が抜けていた。


 どのみち戦意喪失か。

 せっかく顔出ししたのに、ちょっぴり勿体ないようにも思える。


「宿れ、炎の球体――」


 私が持っていた、エグゼクトロットの先端に火の弾が出てくる。



「パルトラさん、何をしようとしている?」


「そうですね。せいぜいタクトさんは、私を倒せるよう努力してくださいね!」


 にこっと満面の微笑みを見せた後、炎の球体を二人に目掛けて解き放った。


 瞬く間にカラットと、タクトが、リスポーンしたという通知が入る。

 手応えは、思ったよりなかったかもしれない。――が、カラットとタクトが落としていった装備品は回収しておこう。


 それはそうと――。

 フィナのほうは、どうなっているのかな。


「こっちは片づいている。手応えはあったが、瞬殺した。そっちも終わったか」

「はい。私が知りたいことは、聞き出すことが出来ました」


「それはそれで、よかったのやね?」


「勿論です。……というか、アレイさんがどうしてここに?」


「新しいアイテムを作成したから、早速持ってきたんやね」


 アレイの手には、緑色の和太鼓があった。

 それが三つだ。


「そいつは風神の和太鼓といってな。中央にある和太鼓の部分が、くるくると回転するようになっておるんや。これを回すと、プレイヤー側に記憶されるマップ内に限ってだが、ダンジョンの中を自由に行き来できるんやね」


「これで今後、わざわざワープゾーンを出さなくてもあたし達がダンジョン内で行ったり来たりすることが可能ということです」


「ワープゾーンを出す手間が省けるアイテム、ありがとうございます!」

「ひとまず三つあるから、ひとり一つな」


 と言われて、風神の和太鼓を手に取った私は――。


 早速、天にかざして魔力を込める。


 魔力を注ぐと、和太鼓の部分が回り出して風が吹き出し、ダンジョン内で行きたいと願う場所へすぐに転送してくれる。


 ひと足先にダンジョンの製作部屋へと戻っていた私は、驚きを隠せないでいた。


「このアイテム、なんか凄いです!」


 私は風神の和太鼓を胸元に当てて、ぎゅっと握りしめる。

 ダンジョン製作する上での便利なものは、肌身離さないでおきたいものだ。


お読みいただき、ありがとうございます!!

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― 新着の感想 ―
こんにちは、ここまで拝読しました。VRゲームということで、この手の小説をあまり読んだことはないのですが、少女が何かを一生懸命クリエイトしながら友達を増やしていくという、ほんわかな空気感がいいですね。 …
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