キャラクリエイト!!
社会はどうして『遊び』を忘れてしまったのだろう。
大人になった人間は何故、『楽しい』を置き去りにしてしまうのか。
その答え、このゲームで探してみませんか?
それは数日前のこと。仕事の休憩時間の合間に、暇つぶしにスマートフォンの画面を触っていると、広告からたまたま見つけてしまった。
製作者が抱いたとされる言葉に惹かれた私は、とあるゲームを遊ぶことを決意する。
自由に探索したり戦ったり。
自由を感じることの出来るオープンワールドの世界。
もしかしたら、社会人生活1年目にして既に疲れ切っている私が望んでいるものかもしれない。
そのゲームのタイトルは、シックス・スターズ・オンライン。
通称『シクスオ』は六つの国から成り立つバーチャル対戦型ゲーム。
ゲームの始め方は、スマートフォンが普及した現代において、簡単に出来るようになっていた。
まずはゲームアプリのダウンロードをする。
その後、VRゲームを遊べるようにする小型のリング機器を片手に装着し、アプリを起動する。
そして初回起動時に、アバター作成画面へと移行する。
全身が映り込む大きな鏡。
それ以外何もない薄暗い部屋に私はいた。
というか、もうVRゲームの中に入り込んでいる?
そんな感覚なんて全然なかったけど。
「えっと、鏡に触れて……」
髪を触ると色の選択肢が出てきた。
長さも変えられそうだ。
身体それぞれの部位に触れて設定を変えることにより、自身の理想とする見た目のアバターを作成する段階なのだろう。
サクッと遊び始めたいなら、適当に済ませることも多いらしいのだが。
見た目を理想郷……頑張ってみるか。
アバターの見た目は後から変更可能なのだが、少しばかり時間を掛けてみたくなった。
丸みのある藍色の瞳、比較的目立ちにくい薄水色の長い髪。身長が小学五年生くらいと思われる小柄な身体をもつ女の子。
それとぷにぷにの頬……までは出来ないかもだけど、それに近い肌触りにして。
よし、バッチリだ。次に進もう。
アバターの作成が終わると、職業と好きな武器のタイプの選択肢が、大きな鏡に浮かび上がってきた。
職業といっても、前衛職、魔法職、生産職の三つしか選択肢がなくて、武器も片手剣、杖、弓から選ぶ形になっていた。
恐らくだが、他の武器はゲーム内通貨を使用したりして、手に入れることが出来るのだろう。
ひとまずは……この場に出されている選択肢から選ぶしかない。
ここは自身の欲望に問いかける。
ファンタジーな世界に飛び込んだら、魔法を使ってみたい。
魔法職と、杖を選択した。
次に進むと、自身が生まれた場所となる国をひとつ選ぶことになる。
これは一度しか選択することができないので、非常に悩みそうだ。
火の鉄道都会フェニクル。
水の都アクエリア。
大地の農園帝国ベフュモ。
神風の集落トルード。
天空都市セラフィマ。
迷宮神殿オシリス。
国名から、雰囲気が分かるような分からないような。
こういう時は直感が一番である。
指先を震えさせる私は、迷宮神殿オシリスを選択した。
『それでは、ユーザー名を設定してください』
そのようなアナウンスが入ったので、慎重に文字を入力していく。
パルトラ。
これは私が、一晩考えて思いついたプレイヤーネームだ。
ちなみに私は、MMORPGをプレイするのは過去に一度だけあるが、タイトルを既に忘れてしまっている。
新しく始めるゲームでの出会いについては不安も付き纏うが、怖がっていては何も始まらない。
私はユーザー名を入力し終えたので、次に進むための決定ボタンを押した。
『それでは、パルトラ様。広大なオープンワールドでの仁義なき戦いをご堪能ください』
アナウンスが途切れると、視界が一瞬で真っ暗になり、どこかへ落ちていく感覚がした。
†
意識が戻って目を開けると、迷路のような模様が刻まれた白い壁が視界に入った。
現在地は、そこそこ広い部屋といったところか。
壁に天使のオブジェクトがあり、綺麗に並べられた長椅子があることから神殿を容易に連想させていた。
私は首を少し動かす。シンプルな黒のカウンターがあって、そのカウンター越しには、暇そうにしている受け付けのお姉さんが立っていた。
「ふああ、あっ?」
「す、すみません、ごめんなさい……」
急に受け付けのお姉さんと視線が合うと、なんだかちょっぴり恥ずかしい。
私は視線を下に向けると、身につけている白のローブが視界に入ってくる。
ただ、これでは受け付けのお姉さんに失礼な気がしたので、ひと息ついたら頭を上げた。
「迷宮神殿オシリスのギルトへようこそ。初めての方は、こちらでチュートリアルの手引きをご案内します!」
明るい受け付けのお姉さんの声が途切れると、たちまちもの静けさが漂う。
ここはオンラインゲームのはずなのに、他のプレイヤーは物陰すらないので、私と受け付けのお姉さんの二人っきりという状況。
なんだか気まずい雰囲気になってない?
とにかく、私から話しかけるしかなさそうだ。
「えっと……何かの受け付けをしたら良いのですか?」
「チュートリアルの手引きでございます」
にこやかにする受け付けのお姉さんは、一枚の書類を出してきた。
とりあえず、何か要項を読まないといけないのかも。
目を細める私は、カウンターに近づいた。
「その、チュートリアルでしたっけ」
「はい。まずはコチラに触れてください」
「えっと……」
受け付けのお姉さんの指示で通り、私は提示された紙に触れた。
すると、紙から文字がひとつずつ浮かび上がってきた。
ただ、全文を読めるようになるには、少し時間が掛かりそうである。
その間、受け付けのお姉さんが気を利かせる。
「まずプレイヤーの皆さまには、スキルをひとつ配っております。スキルを配られたプレイヤーは冒険者として、シクスオの世界をご堪能頂いております」
「スキルはひとつ……」
「どうかされましたか?」
「いえ……」
私は、既に異変に気づいていた。
文字列が、何か変だ。
ユーザー名とスキルが書かれているのは分かるのだが、スキルの行が二つあるように思えたのである。
やがて全文が出来上がると、それははっきりと分かってしまった。
ユーザー名:パルトラ
固有スキル1:ダンジョンクラフトLv.MAX
固有スキル2:杖行動&投擲SONIC
「私のスキルが、二つあるのですが……」
「なるほど、確認してみますね」
受け付けのお姉さんが早急に調べてくれるそうだ。
テーブルの上にモニターが出てきた。
どうやら、これで確認を取るらしい。
「名前はパルトラさん。固有スキルがふたつ……不具合はなし……」
「ど、どうなのですか?」
「固有スキルはレア枠であり、現時点で所持しているほうが珍しいこと……それが二つもあるとなると、パルトラ様はとても運が素晴らしく良いということです」
「運が良い、ですか……」
受け付けのお姉さんの言葉に、私は首を傾げる。
本当に運が良かったのか、いまいち実感が湧かない。
「パルトラ様の凄さがどのくらいかと申し上げると、インターネット上の書き込みでさえ前例を確認したことがないくらいですよ!」
この受け付けのお姉さんはウキウキしている。
前例がなかったこと。それはシクスオにとって、良いことなのかもしれない。
「失礼しました、次の項目に進ませてもらいます。パルトラ様には、今から簡単なモンスターの討伐クエストに挑戦して頂きますね」
「クエストということは、報酬とかもあるのですか?」
「そうですね。チュートリアルのクエストは報酬として記憶の石像というアイテムが手に入ります。記憶の石像は、各プレイヤーがそれぞれひとつだけ置くことができ、ギルド内から記憶の石像がある地点まで瞬時に移動することが可能となる便利アイテムとなっております」
「好きな場所にすぐ移動できるアイテム……!」
シクスオの世界は広大なので、遠くへ移動できる手段はなるべく活用したいところではあった。
それがチュートリアルの最中で手に入るなら、楽に越したことない。
「クエスト、やります!」
「受注ですね。パルトラ様はクエストをクリアしたら、ギルドへ自動転送することを希望しますか?」
「ふむ……。一応、する方針でお願いします」
「かしこまりました。では……対象モンスターの出現及び座標を確認……完了。パルトラさんの準備が出来ましたら、中央に位置するワープゲートに踏み入れてください。すぐさま転送します」
受付カウンターから少し離れた位置に、ワープできるであろう魔方陣が出現した。
これを使えば、クエスト発生エリアのすぐ近くまで移動することができるようだ。
「よし、行きますか!」
私は魔法陣に踏み入れた。すると、ギルドからそこそこ離れた地点へと移動していく感覚がした。
「あっ……武器のこと聞き忘れた」
いつの間にか障害物のない大平原に立っていた私は、手元を確認する。
当然、手ぶらである。
だがしかし、ここはゲームの中である。
メニュー画面が存在するのだ。
「あった……杖かな」
空中に出現するタップ出来る画面を触った私は、右手に茶色い杖を取り出した。
これで戦闘は大丈夫そうかな。
早速、チュートリアルクエストに取り掛かる。
いま私が立っているすぐ近くには、紫色に帯びたスライム、通称ダークスライムがいる。
それが合計三匹もいた。
今回のクエストでは、このダークスライムを討伐することが目的だ。
今のところ、こちらの存在に気づいていない様子。
距離を見る限り、ここから少しでも近づいたら向こうから襲いかかってくる気がするので、下手に動きたくない。
けど、モンスターを倒さないとチュートリアルクエストをクリア出来ないので……。
「聖なる花吹雪。――激しく散り逝き、大地を燃やし尽くせ」
魔法職らしく、私は詠唱しはじめる。
杖を振り、暖色の花びらを解き放つイメージを持った矢先、ダークスライムの近くで爆発が発生した。
「終わりましたね」
ピンクの花びらが、火の粉のように散る。
私はダークスライム三匹を、まとめて一撃で倒したのだ。
魔法の威力や効果は、使用者が持つイメージと詠唱した際に放つ言葉によって大きく変化する。
なので、魔法ひとつにしても割と自由度が高いといえる。
「クエストクリアのお知らせ……。私、チュートリアルクエストをクリアしたみたいです」
報酬である、記憶の石像が手に入る。
ドロップアイテムを獲得した通知も入ったので、そちらも確認してみた。
「なになに……ダークスライムのコアですか……」
説明文には、ダークスライムを精製することのできるアイテムと書かれていた。それが三つも手に入ったのだ。
こんなアイテム、使い方はどうするのだろうか。
その場で使用方法に悩んでいると、足音が聞こえてきた。
「よう、さっきの魔法は凄かったな。顔はみたことがないけど新入りか?」
黒い鎧に覆われた赤髪の青年が、気軽に話しかけてきた。
私はもうすぐ自動転送されるのだが、せっかくの他のプレイヤーとの接触だ。
とりあえず、ギルドへの移動は保留にしておいた。
「えっと、他のプレイヤーさんですか?」
「そうだが……」
赤髪の青年とは、握手出来る距離まで縮まっていた。
「私はパルトラといいます。本日シクスオに始めてログインしている身でして」
「そうか、俺はタクトと言うてな。それで、だ」
赤髪の青年は、腰に引っ掛けていた片手剣を抜いた。
「早速で悪いんだけど、お前には死んでもらおう」
私の頭部に狙いを定めていた、容赦ない上からのひと振りがきた。
それを私は、必死になって杖で受け止める。
「いきなり、何なのですか!」
「ほう、やるな。流石レアスキルを持ってるだけあるな!」
「レアスキル? レアスキルがあると、どうなるのですか?」
「シクスオで貴重なスキルを持っているプレイヤーを倒せば、それだけレアなアイテムを入手することができるようになっているんだよ!」
「レアアイテム狙い……」
私は少し冷静になりたい。
タクトからの最初の攻撃は、私が持っていたスキルによって、偶然防げたに過ぎなかった。
杖を使った行動と投擲行為がとても早く行えるということになるスキル、杖行動&投擲SONICがあったことに感謝すべきか。
今はそんな余裕すらなさそうだけど。
「おかしい……押し込む力を全力で加えている、俺の攻撃が止まっている」
しばらく攻撃を受け止め続けていると、タクトの表情が少しばかり曇ってきた。
「タクトさん、どうしましたか?」
「シクスオってさ、ゲーム開始時の身体能力は現実世界のものと同等なんだぜ。だから普段から鍛えていた俺は強いはずなのに」
「あ……それは……」
これは私生活に関係することでもあった。
私は、オブスタクルという競技を趣味でやっている。
様々な障害物の乗り越えるスピードを持っており、身体能力には自信があるほうだ。
でも、シクスオでは語らないでおく。
シクスオはファンタジーの世界。それだけで勝負が決まってしまうようなことはない。
「ちっ、こうなったら……。スキル発動、アースロック!」
タクトは大声を出すと、私の両足に重い重力がのしかかった。
「いたっ……」
瞬く間に両膝が地面に当たり、タクトの剣が私の頭に近づく。
「レアアイテムの為に、このまま押し切る!」
タクトは全力で私を倒そうとしている。
押し切られる前になんとかしないと!
「私を早く自動転送して!」
と口に出すると。
『15秒後、自動転送を行います』
アナウンスが耳元で聞こえてきた。
「逃がしたくない! 倒した敵が所持しているレアスキルが二つもあったら、レアアイテムのドロップ率とかが倍増するのだから!」
「うっ……くっ……」
「倒れろっ!」
あと何秒?
どのくらい持ちこたえたら良いの?
私の頭部に剣先が触れ始めて、このまま切られそうになり――。
「パルトラさん、お疲れさまです。本日はどうされましたか?」
受け付けのお姉さんの声が耳に入ってきた。
気がついたら、私は迷宮神殿オシリスのギルドにいたのである。
「私、どうなったのかな……」
生きているのか死んだのか、気になったので確かめる。
調べてみると、戦闘のログにはリスポーンという文字はない。
つまり、今回は危機を逃れたということだ。
自動転送のお陰で、本当に命拾いした。
けど、ひとつ課題が浮き彫りになる。
『シクスオ』をどうしたら楽しく遊べるのか、についてだ。
このゲームの戦闘開始がさっきの感じだと、私はいつでもどこでも危険な目に遭う可能性があるということになる。
レアスキルを持っているだけで、いきなり襲われるのはなんか嫌だ。
気楽に遊んでいきたいという気持ちが、どうか消えてしまわないように。
だから考えないと……。
そうだ、ダンジョンを作ろう。
私には、ダンジョンクラフトのスキルがある。
シクスオがバーチャル対戦型ゲームとはいえども、これはもう、ダンジョンを作るしかない。
そこを私だけの拠点にして……。モンスターを呼んで……。
冒険者であるプレイヤーなんて全て敵扱いなんだから倒し続ける。
倒しまくって最強を目指す!
宝箱は、どうしよう。その辺りはドロップに関しての基本情報をもっと調べてから、あとで考えるとして。
考えているだけで、わくわくしてきた。
お読みいただき、ありがとうございます!!
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