乱入者
「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 聖王国が誇る良品揃いの三店舗が、本日限定で大特価セールを開催中ですよ!」
「「ぜひ見にきてくださーい!」」
俺たちは店の前で声をあげ、道行く人たちの注目を集めようとしていた。
セールについては各店主から事前に許可をとってある。
いくら中身が良くても、値段で手にとってもらえなかったら始まらない。
「おい、聞いたか。あそこの店セールだってよ」
「物は良いんだけど高かったんだよなぁ。見に行こうぜ!」
「というかレド様の両隣にいる女子可愛くない!?」
一人、また一人と、客が客を連れてくる形で人が集まってくる。
つかみは良い感じだ。
ウェイナが上目遣いで男性客達に解説を始める。
「こちらのハーフサイズのフルライブポーションですが、たった一口飲むだけであっという間に傷が治っちゃうんです!」
ミリスがウェイナの解説に合わせてスキル【ムービー】を使った。
ウィンドウには、腫れ上がったウェイの顔が一瞬で元に戻る様子が映し出される。
「ここまでの回復薬は他では手に入りませんよ〜。ってちょっとお客さん? 私の話、ちゃんと聞いてくれてました?」
「ご、ごめん……君が可愛すぎて聞けなかった、かも」
「またまたー。お上手なんですからぁ」
ウェイナの笑顔に店の空気が和やかになる。
やるな。百点満点の営業スマイルじゃないか。
さすがは中身チャラ騎士の陽キャなだけはある。
たった一晩でメイクアップの接客術をモノにしていたとは。
「うおおっ! すげえ回復力じゃねえか! 一本くれ!」
「俺は三本だ!」
「はーい。毎度ありがとうございますっ!」
って、感心してる場合じゃないな。
「ミリス、頼む」
「かしこまりました!」
彼女の【ムービー】で、今度は俺が白金ドラゴンを一撃で倒す映像が流れる。
「なんだいまの、本当に初級剣技【ソードスマッシュ】かアレ!」
「聖王騎士団でも敵わなかったドラゴンをワンパンかよ!」
どよめきが浸透した頃合いで、息を吸い込んだ。
「ここ、武器屋セイントウェポンズの武器は俺も愛用しています。質の良い武器をセールで買えるのは今日だけ。皆さんぜひ見ていってください!」
わあーっと大量の客が押し寄せてくる。
「レ、レド様……本当に、なんと言葉を申し上げてよいやら……」
バザックさんは目に涙を浮かべて喜んでくれた。
「お礼を言うのは俺のほうです。閉店後に祝杯でもあげましょうか」
「それはいいですなぁ。良い肉をご用意いたします」
「店主! この槍なんだけどよ!」
「はいただいま!」
店主の皆さんが生き生きとした顔で客と話をしている。
──これだけでもやってよかったとは思うが。
俺は向かいの店の前に立っている、二人の男の動きを注視していた。
「ぐぬぬ、あの店どもが急にどうしてあんなに繁盛を……!」
「どうやら本日限りのセールを始めたみたいですよ。ウチよりは高いですが、それでも向こうは品質が良いですから」
「フッ、ならばこちらもセールといこうじゃないか!」
なにやら話がまとまったのか、男の一人が店の前で大声を張り上げた。
「聖王国民の皆様! いつもご愛顧ありがとうございます! 感謝の意を込めまして、ただいまよりタイムセールを行います!
いまならロングソードが銅貨六枚! ヒールポーションはなんと銅貨三枚です!」
「ど、銅貨三枚だって!?」
「たくさん買えば安心感あるよな!」
「あっち行こうぜ!」
次々と客が向かいの店に移動を始める。
値段の高いほうから提示して、本命の商品をより安く見せたか。
「バカやろう! ヒールポーションが銅貨三枚とかどれだけ薄めてあるんだよ! それにたくさん持ってたって戦闘中じゃそう簡単に使えねえ!」
ウェイナの声に何人かの客は動きを止めるが、それでも多数の客が流れていった。
「どうすんだレド! この空気じゃ回復薬の説明をしても聞いてもらえそうにないぞ!
こっちもセールかけるか!」
「落ち着けウェイナ。下手に低価格競争に乗っかれば相手の思うつぼだ。あくまでもこっちはコスパの良さと品質で勝負をする」
とはいえ価格で向こうに流れているのは事実。
だが、これくらいなら巻き返せるはずだ。
領地経営学の先生は言っていた。
長く繁栄する商売は“負け組をつくらないこと”が大切だと。
あんなふうに客を蔑ろにする商売に、俺たちが負けるはずがない。
「本当に良い商品であればまずは試してみたい! そう思いますよね!」
俺は力一杯大きな声をあげる。
「そんなあなたに朗報です! これより先着百名様に、先ほど見ていただいた驚くべき回復力を持つハーフサイズのフルライブポーションを、試供品としてプレゼントしちゃいます!」
向かいの店にいた冒険者たちの目の色が変わった。
「それはぜひ試したい!」
「俺が先に目をつけてたんだぞ!」
「お前は銅貨三枚のポーションたくさん買うんだろ!」
流れていった客が一斉にこちらに帰ってくる。
試供品戦略は物がいいからこそできる芸当だ。
試食でマズい物を食べさせれば、二度と食べようとは思ってもらえない。
「ぐぬぬぬぬぬ、試供品とは卑怯な! ……かくなるうえは、ウチの商品をアイツらの店に混ぜるしか」
「店長落ち着いて! そんなことしたらすぐバレますって!」
「ならば……」
店長と呼ばれた男が声を張り上げる。
「さらにさらに大セールとして、銅貨三枚のヒールポーションを銅貨一枚に、いやその半分でウチは提供します!」
「ちょ、なに言ってるんですか店長! さすがに赤字ですよ! それにこれ以上薄めたら回復しなくなって詐欺になっちゃいます!」
「バッカお前なに言って……!」
「あ……」
彼らは冒険者たちと顔を見合わせて、表情を青くさせた。
「お前らふざけんなよ!」
「たくさん飲んでも傷が治りにくいわけだ!」
「金返せッ!」
「い、いやーいまのはちょっとした冗談でして」
「「「「「そんなわけあるかッ!!!!!」」」」」
別に向かいの店を追い込むつもりまではなかったのだが、自滅してしまったようだ。
明日か明後日には聖王国中の人々から信頼を失って潰れてしまうだろう。
とか思っていたら。
バコーーーーーーンッ!!
──向かいの店が木っ端微塵に吹き飛んだ。
「おいおいなにが起こったんだ! 向こうの店が物理的に潰れちまったぞ!」
ウェイナが目を見ひらいて叫ぶ。
潰れた店に舞い上がる土煙の中から、紫髪の小柄な女の子が姿を表した。
「待たせたな聖王国の人間ども! 魔王ルナティック様が遊びに来てやったぞ!」
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