因果応報
宿屋へ帰ってきた俺は、リコやエルゼのいる自分の部屋で寝るわけにもいかなかったので、隣の空き部屋を借りて眠った。
が、あまり疲れは取れなかった。
たとえ八時間くらい寝たとしても、夜早く寝るのと遅く寝るのとでは疲れの取れ方が違うんだよなぁ。
外の井戸水で顔を洗おうかと部屋を出て、ウェイ、ではなくウェイナと出くわした。
「お疲れウェイナ。よく帰ってこられたな」
「ただいまですわご主人様」
「うわっ……なんだよその喋り方。気持ちわるっ」
俺がドン引くと、ウェイナは血走った目を見ひらいて両肩を掴んできた。
「誰のせいでこんな風になったと思ってんだッ!」
「いやお前のせいだろ。黙っておくって言っておけば帰ってこられたのに」
「だったらそう教えてくれよ!」
「あの場で教えられるわけないだろ。それより離せ」
ウェイナを押し退けて階段を降りる。
彼女はなぜか俺に付いてきた。
「お前は知らないんだ。あのおっさん共に太ももを撫でられたときの吐きそうになる感覚を。あのおっさん共の口から出る耳を汚されるような猫撫で声を」
「勉強になってよかったな。お前も二度と女子にそういうことするなよ」
「お前はオレをなんだと思ってるんだ! したことねぇよ!」
一階に降りると、冷めた表情のエルゼと、異様な笑顔を貼り付けたリコがそこにいた。
「レド……リコリス殿下という方がいながら……幻滅したぞ」
「その台詞お前だけには言われたくないぞエルゼ」
縛られたがりの聖騎士はどうでもいい。
それより気になるのはリコの様子だ。
「リ、リコ。いったいなにがあったんだ?」
「んー? 別になにもないよ」
にこーっと笑顔のリコである。
だが、いまの彼女の笑顔はいつもの気の抜けるようなものではない。
笑顔の裏にもっとヤバいなにかが隠れている。
「なにもないってことはないだろ。長い付き合いだし、それくらいは分かる」
「そっか。じゃあ昨日の夜、レドくんが私を放りだして、他の女の子と楽しそうにお喋りしに行っちゃったときの、私の気持ちもわかってくれるかな」
リコはどこから取りだしたのか、俺とその隣にいた女の子が一緒に写っている写真を見せてきた。
「なっ!?」
思わずウェイナを睨むと、口に手を押さえて笑いを堪えていやがった。
コイツ……! チャラいくせして告げ口とか、やることが陰湿だぞ!
しかも俺から店に行ったわけじゃないし!
「ち、違うんだリコ! これはウェイのやつに連れだされて仕方なく」
「それは知ってるよ。レドくん一人じゃお店に入れないだろうし、だからセバスちゃんに頼んでウェイくんにもちゃんとお仕置きしてもらう」
「へっ……?」
ウェイナが気の抜けた声をあげ、リコがパチンと指を鳴らす。
彼女の忠実な執事がどこからともなく姿を現した。
「では参りましょうか、ウェイ殿」
「なぜなんだあああぁぁぁぁああーーーーーッ!」
いつのまにかウェイナから元に戻っていたウェイは、セバス殿に首根っこをつかまれて奥の部屋へと消えていった。
浅い。考えが浅すぎるぞウェイ。
って、リコはさっきウェイくんに“も”ちゃんとお仕置きって言ってなかったか!?
「リ、リコ。俺はお仕置きされないよな。ついさっき俺の無実は証明されたはずだ」
「あのねレドくん。連れだされたから仕方がないとか、そういう問題じゃないんだよ。レドくんが私を捨ててこの子とお喋りしにいった事実が、私はどうしようもなく許せない。わかってくれるかな」
捨ててない。捨ててないから。
なんて言い出せる雰囲気ではない。
聖女の背後に見えるのは、鬼だ。
そしてあの鬼には、たとえ俺の【強者喰い】をもってしても一生敵わない。
「……どうしたら私は許していただけるのでしょうか、リコリス殿下」
その言葉が聞きたかったのか、彼女はぱあぁっと安心感のある笑顔を咲かせた。
「レドくんには今日一日、私とデートしてもらいますっ!」
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