メイクアップ、そして剣聖再び
「んーっ! このクレープ美味しいね〜!」
「それはよかったです。リコリス殿下」
「もう、デートなんだからその喋り方禁止っ!」
ということで。
リコを怒らせてしまった俺は絶賛償いデート中であった。
さっきから周囲の視線が気になって仕方ない。
それもそのはず。
リコは、ここホーリーナイト聖王国を何度も訪れては治癒魔法で民を救っている超有名聖女である。
対して、その隣にいる俺はというと、闘技場の戦いで多少は名が知れているとはいえ、つい昨日専属騎士見習いとなったどこの馬の骨かもわからない男。
「リコリス殿下やっぱ超かわいいよなぁ」
「誰だよ横にいる男。うらやましぃ〜」
「きっとお付きの人とかだろ。それにしたって地味だとは思うが」
とまぁ、当然のようにこんな口を叩かれているわけである。
それはどうでもいいんだけど……
「……なあリコ」
「なに? あ、レドくんもクレープひとくち食べる?」
差し出されたクレープに俺は躊躇なくかぶりついた。
甘すぎない生クリームが口の中でとろけ、酸味の効いた苺と混ざり合い、それがほんのり甘味のある生地と重なることで、柔らかくもありつつ確かな食感とくどすぎない甘さを実現している。
今朝からなにも食べていないのだ。
ひとくちと言わず、できればもうひとくち食べたい。
って、そうじゃない。
ごくりとクレープを飲み込んで口をひらく。
なんか知らんけどリコは顔を赤くしていた。
「本当にこんなので許していいのか。俺も普通に楽しんじゃってるぞ」
「えぇっ!? ゆ、許すってなにを許すの?」
「……あのなぁ、このデートはお前が言いだしたことだろ。俺からすればこんなご褒美みたいなデートで許してもらっていいのかなって」
「ご、ご褒美……!?」
頭から湯気をだしそうな勢いでリコは顔を真っ赤にする。
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫! あとまだ許してないから! きょ、今日は一日付き合ってもらいますからっ!」
「はいはい、わかってるよ」
その後もリコといろんなお店を見て回る途中。
「おおっレド様! 闘技場での戦いっぷり見てましたよ! よかったらこの、うちの自慢の武器を使ってください!」
「レド様! 俺の防具も!」
「私からは特製の強化薬と回復薬を! リコリス殿下の負担を少しでも軽くできたら!」
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可変杖シェイプシフター × 1
魔軽装アサシンズローブ × 1
攻撃力鬼化薬 × 5
フルライブポーション × 3
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「……こんなに貰ってよかったのか俺は」
「みんな笑顔だったでしょ。レドくんに宣伝してもらいたいんだよ」
「それならいいんだが」
せっかくの頂き物ということで、一式装備してみる。
右手には漆黒の杖。ところどころ魔法紋が施されたフード付きの純黒ローブ。左手には血のように中身が赤く染まった瓶。
いかにも聖女らしい白を基調とした装いのリコと並ぶと、俺の格好は誰がどう見ても彼女の命を狙う悪人にしか見えない。
「か、カッコいい……!」
「確かに装備自体はカッコいいとは思うけど、これでリコの隣に立つのはちょっと」
「えーカッコいいよレドくん。今日一日その格好でいて、ううんずっとその格好がいいと思います」
「……まぁせっかく貰ったものを使わないのも悪いしな」
それにこの装備。
見た目だけじゃなく中身も一級品だ。
可変杖シェイプシフターは、装備者の魔力を強化するだけじゃなく、イメージして魔力を送り込むことで素早く漆黒の長剣へと形を変えられる。
俺が闘技場で剣技と魔法を使ったのを見てたんだ。
その気持ちがとても嬉しいと思う。
魔軽装アサシンズローブだってそうだ。
まずこれまで着ていた軽装以上に軽い。それでいて装備者の敏捷性を強化し、各属性攻撃を軽減する魔法紋が施されている。
ノーダメージでスキルを受ければそのスキルを習得できる俺にとって、属性攻撃を軽減できる装備はありがたかった。
攻撃力鬼化薬とフルライブポーションは……さすがにいま飲むわけにはいかないが、いざってときにはありがたく使わせてもらおう。
武器屋“セイントウェポンズ”と防具屋“絶対死守”それに道具屋“ホーリー商店”。
王都最高位治癒魔法士リコリス・メイヤー殿下に誓って、その専属騎士見習いレドが謹んで宣伝させてもらおうじゃないか。
そんなこんなで昼が近くなったので、どこで飯を食べようか歩いていると。
「あっ! レド様っ!」
げっ、あの子は!
昨日喫茶メイクアップにいた、胸の大きい子じゃないか……!
彼女は店長のスキル【メイクアップ】でつくられたそれを揺らしながら、手を振ってこちらに走ってくる。
周りにいた中身巨漢の美人らも駆け寄ってきた。
「……へぇ〜。一晩で随分仲良くなったんだね、レドくん」
だあああああああああぁぁぁぁ!
せっかくリコの機嫌が戻ってきてたのにどうしてこうなる!
つーかなんであの人たち外で【メイクアップ】してるの!?
「レド様、こちらの女性は?」
「バカっ! この方は何度も聖王国を救ってくれた聖女リコリス殿下よ!
ごめんなさいリコリス殿下。この子まだ聖王国に来て日が浅いので、どうか許してやってください」
「いえいえ、私は気にしていませんから。……初めまして、私はリコリス・メイヤーと申します。あなたは?」
リコはデートが始まる前の、笑顔の裏になにかを飼ってる顔に戻ってしまった。
「わたしはラフィンと言います。えっと、リコリス殿下は、レド様のお友達でしょうか」
「お友達とは、ちょっと違いますね。レドく、んんっ。レドは私の専属騎士なので」
殿下。“見習い”がとれてますよ。
「なるほど。仕事の関係、ということですよね。だったらわたしがレド様と将来的にお付き合いをしても、なんの問題もありませんよね」
なんだって!
この子、ラフィンって俺のことそういう目で見てたの!?
特にラフィンに対して、普通に可愛い子だな以外の感情を持っていなかったとしても、そういうことに全く慣れていない俺は動揺してしまう。
ヤバいな。もしリコの敵が色仕掛けとかしてきたら困るかもしれん。
対策の仕方がよくわからんけど。
「問題大ありです。レドは私の専属騎士。どんな人なのかもわからない女性に渡すわけにはいきません」
「レド様のお母様じゃないんですから、さすがに過保護だと思いますよ。それにお付き合いしてから見えてくるものもあるんじゃないでしょうか」
お互い笑顔のままバチバチに視線の刃を交えている。
女のケンカ怖すぎるよ。
……それにしても母上か。
俺が小さい時に亡くなってしまったけど、これからはもう実家にある墓に挨拶もできないんだな。
「よぉクソ兄貴。かっけぇ装備にチャラチャラ女を引き連れて楽しそうだなァ」
……また面倒くさいヤツが現れた。
ここまでお読みいただきありがとうございます! 初投稿作品です。
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