No.9:陰水晶
―北の城―
水鈴は出口のない部屋の中で窓の外を見ている。
そして小さく
「兄さん」と呟いた。
クロノ、ラル、神無は雪の降る道を北に向かって歩いている。
「クロノ、大丈夫か?」
突然、ラルはクロノの心配をし、声をかけた。クロノはラルの方を見て首を傾げた。
「昼だけど大丈夫なのか?クロノは・・・その・・・半吸血鬼・・・」
どんどんラルの声が小さくなるがクロノにはしっかりと聞こえていた。
「大丈夫だ。北に近付くにつれ、陽の光も弱まってきている。こんな自分がつくづく嫌になるな・・・」
クロノはラルに背を向け再び歩こうとしたが神無が動こうとしない。
「神無?」
ラルが呼び掛けても反応しない。今度はクロノが呼び掛けてみることにした。
「どうし―」
「人間の気配がする」
神無はそう呟くと走り出した。
「神無!?」
クロノとラルは神無を追いかけた。
しばらくして神無は足を止めた。神無の見詰める先を見るとボロボロのローブを着た人が木に寄り添っていた。クロノとラルがその人を警戒したが神無は無防備に近付いて行った。
「神無!?」
「大丈夫だ。こいつは人間だ」
神無の言葉を信じ、二人は警戒を解いた。
「神無・・・か・・・」
倒れている人間は神無の名を言った。
神無は黙って頷く。
「神無、知り合いなのか?」
神無はラルの問いかけにも黙って頷き、口を動かした。
「私はこの男から陰水晶をいただいた」
神無の言葉にクロノとラルが驚く。
「すまない。陰水晶は・・・」
「吸血鬼に奪われた」
「!」
言うのをためらった神無の言葉をその人間が続けた。
「すまない。お前との約束を・・・」
神無は辛そうに謝礼するが、その人間は首を横に振る。
「いいんだ。本来は私が守るものだった。傷付いた私が偶然通りかかったお前に押し掛けてしまった。それに奴等は恐れている・・・陰水晶に・・・」
人間の言葉にクロノもラルも神無も驚きを隠せないでいる。
陰水晶は闇が封印されている。ならば喜ぶはずが何故恐れているのか。
人間は口を動かす。そして陰水晶の真実を語りだした。
「陰水晶は闇が封印されているのではない。陰水晶は吸血鬼たちが恐れているこの世の闇を消すためのものだ」
「つまり、陰水晶は闇の源か」
クロノがそう言うと人間は黙って頷く。
「だが!陰水晶は壊れないぞ!」
ラルは大声で問い詰める。
「当たり前だ。陰水晶は聖なる血を持つ者にしか破壊出来ない。この聖霊石で出来た剣・・・聖剣で・・・」
人間はそう言うと一本の剣を出した。剣は刃が短く鞘に収まっている。クロノは人間から剣を取ると、刃を見ようと鞘を抜こうとした。しかし、いつまでたっても剣は鞘に収まっている。不思議に思ったラルがクロノに声をかけた。
「クロノ、どうした?」
「剣が抜けない」
「は?」
今度はラルが鞘を抜こうとする。
「抜けない」
返ってきた言葉はクロノと同じだった。
3人は人間を見た。
人間は口を動かした。
「聖剣は聖なる血を持つ者にしか抜けない」
クロノと神無は人間の言葉を聞いて気付いた。
「だから、聖なる血を持つ者にしか破壊出来ないのか」
「どういうことだ?」
未だに分からないラルに神無が口を開き説明する。
「陰水晶を破壊するには聖剣が必要だ。聖剣を扱える者は聖なる血を持つ者。だから、陰水晶は聖なる血を持つ者にしか破壊出来ない」
「そういうことか!」
神無の説明でようやくラルは理解した。理解した直後にラルは
「でも」と言った。
「その聖なる血を持つ者って何処にいるんだ?」
その言葉にクロノと神無は頭を抱えた。しばらく沈黙が続いた。
「私の・・・」
沈黙を破ったのは人間だった。3人は人間に注目した。
「私の・・・妹・・・水鈴だ」
その言葉に全員が驚きを隠せない。全員が目を見開いた。
クロノは驚きのまま口を動かした。
「水鈴の言っていた行方不明の兄はお前か」
「水鈴を・・・知っているのか」
人間はクロノを見た。
「水鈴はお前を捜しに北の地に来た。だが・・・吸血鬼にさらわれた」
「そうか・・・水鈴が来ているのか・・・」
人間は笑った。「水鈴にこれを・・・」
人間が取り出したのは銀色に輝く首飾りだった。
「私は・・・もうすぐ死ぬ。代わりに水鈴に・・・渡して・・・くれないか・・・?」
人間の声は少しずつ小さくなり、呼吸も荒くなっていく。「そして・・・水鈴に・・・心配をかけて・・・ごめんな・・・って伝えて・・・く、れ・・・」
人間が首飾りをクロノに差し出してもクロノは受け取らなかった。
クロノは人間を睨んだ。
「馬鹿野郎!それくらい自分で伝えろ!」
人間はクロノをじっと見詰める。クロノは言葉を続けた。
「水鈴はお前が生きていると信じて北の地にまで来たんだ。水鈴を裏切るきか!」
クロノが言い終わると人間は微笑んだ。人間の目からは涙が流れていた。
「私も・・・自分の手で・・・渡したい。伝えたい。でも・・・私は吸血鬼に・・・血を吸われて・・・しまった」
「!」
「今は・・・自我を持っているが・・・もう少しで自我を・・・持てなくなる。そうなったら、自分の命を・・・自分で消す・・・」
人間の言葉を聞き、クロノは暫く沈黙した。そして、人間から首飾りを受け取った。
「水鈴に・・・ごめん・・・そして、ありがとう、と、伝えてくれ・・・」
「お前の名前は?」
クロノは人間をもう一度見て訪ねた。
「火琉・・・。頼む、私を・・・殺して・・・くれ・・・」
クロノは無言で頷き口を動かす。
「火琉、伝える。安心して眠れ」
クロノは剣を抜き、剣を火琉に向けた。ラルは目を瞑り、下を向いた。神無は辛そうな顔をしている。
クロノはゆっくりと剣を頭上に上げた。
火琉は目を瞑り、下を向いて微笑んでいる。
「(水鈴、幸せに。私の大切な、妹)」
そして、剣が火琉に落とされた。
クロノ、ラル、神無の三人は墓の前に立っている。墓には『火琉』と書かれている。「哀しんでいる暇はない」
クロノの言葉にラルと神無は頷いた。
彼らは再び北へ足を進める。「哀しんでいる暇はない」
クロノの言葉にラルと神無は頷いた。
彼らは再び北へ足を進める。
To be continue...
今回は無理矢理な展開にしてしまいました。水鈴に兄がいるというので兄の存在を出さなければと思い、出してみましたが・・・、無理矢理すぎましたね。反省してます。