No.11:血の味
―北の城―
クロノは一人薄暗い廊下を歩く。
手に握っている剣には血が付いていて、吸血鬼を斬ったということが予想がつく。
「キシャアァァァァァ!!!」
吸血鬼がクロノを襲って来た。しかし、クロノは慌てることなく襲って来た吸血鬼を斬り捨てた。クロノは足を止め、呟きだした。
「ここに来てからとても身体の中にある血が興奮する。吸血鬼衝動はまだの筈だ」
クロノは止めていた足を再び動かし、廊下を突き進む。「水鈴が心配だ。ここに留まっている訳にはいかない」
だが、しばらくして再び足を止めた。そして、自分の歩いてきた道を振り返る。
「ラルと神無は無事なのか?いや、大丈夫だと信じよう」
クロノは再び足を進め、暗闇に姿を消した。
ラルと神無はクロノと別れてから吸血鬼とは一度も戦わずにいた。それでもラルと神無は慎重に先に進む。
そして、一つの扉にたどり着いた。扉を慎重に開け、中を確認する。中には誰もいない。突然、ラルは神無の名を呼んだ。
「神無、見ろ!」
ラルに言われた通りに中を見ると・・・。
「陰水晶・・・」
二人は部屋の中へと入って行く。そして、二人は陰水晶に近付いた。
「早くクロノの所に行こう」
ラルは陰水晶を持って部屋を出ようとした時、神無がラルの腕を掴む。
「何だよ?」
「簡単すぎる」
「?」
神無の言葉をラルは理解出来ず、クエスチョンを浮かべた。
「陰水晶を渡したくないならこんなに簡単に手に入る筈がない」
「言われてみれば確かにそうだな」
神無の説明を聞き、ラルは理解した。
「何かある筈だ」
「その通りよ!」
突然の未知の声に二人は身構えた。
突然下から氷の柱が出現する。二人は別々の方向に逃げた。次々に出現する氷の柱を避け、二人は再び同じ場所に立つ。氷の柱は出現しなくなった。
「何者だ!?」
神無が叫ぶと二人の前に女が姿を現した。
「お前はこの前の・・・」
神無言うと女は微笑んだ。
「ちょっぴりしか見てないのに覚えててくれたの!私は吸血鬼で名前は“エリトリア”。貴方達を痛みつけたら戦いがつまらなくなるからわざとここまで楽に進ませたのよ。だから、私を楽しませてね」
エリトリアはそう笑顔で言うと氷の結晶を二人に飛ばした。二人は避け、互いに武器を素早く抜くとエリトリアに同時に攻撃を仕掛ける。
するとエリトリアは氷の剣を造りだし、二人の武器を受け止めた。
二人は驚く。
エリトリアは近付いた二人の顔をじっくりと見ると、ラルに氷の結晶を飛ばす。
ラルは避けるためにエリトリアから離れる。「大丈夫か!?」
「大丈夫だ」
神無がラルの所に行こうとしたが。
「足が・・・動かない・・・」
足元を見ると、氷が足張り付いていた。
「ねぇ」
エリトリアが神無に話しかけてきた。神無はエリトリアを睨み、身構える。
「私ね、可愛いモノとか綺麗なモノが好きなの。貴女、名前は?」
「神無」
「そう。神無、貴女って可愛いくて綺麗よね。私、神無が欲しい」
エリトリアの言葉にラルと神無は驚く。エリトリアは話を続ける。
「でも、人間は永遠の若さがない。いづれは醜くなってしまう。だから、貴女に永遠の美しさをあげる」
エリトリアは神無の服を破り、首筋を指でなぞった。神無は短刀でエリトリアを攻撃しようとするが手までも氷づけにされ、動かせなかった。エリトリアは牙を見せ、神無の首筋に噛みつこうとしたとき。
「ガッ!」
エリトリアは突然口から血を吹き出す。人の手がエリトリアの身体を貫いている。
神無はエリトリアの背後にいる者を見て、目を疑った。エリトリアの背後にいる者はラルだった。
ラルは翼を生やし、人間とは全く異なった化け物みたいな手をしていた。
「どこかで見たことのある顔だと思ったら、ラル・ドルじゃない。50年くらい姿を見せないと思ったら・・・人間を助けてたとはね」
エリトリアが言う。ラルさエリトリアの身体から手を引いた。
「ラル・ドル、何で人間の味方してるの?」
エリトリアの言葉に対し、ラルはエリトリアを鋭く睨んだ。そして口を開く。
「人間を殺すのに疑問を感じたからだ。人間を殺すくらいなら我々吸血鬼が滅ぶ。それが答えだ」エリトリアはラルの答えを聞くと笑いだした。
「吸血鬼が人間を殺すのに疑問がある!?アハハハハ!当たり前のことじゃない!私たち吸血鬼は人間の血無しじゃ生きていけないのよ!」
「確かにそうだ。だが、人間の血を吸い付くし、殺す必要はないはずだ!」
「それだけじゃ足りないのよ」
神無は色々あり、頭の中が混乱している。二人の会話についていけないのだ。
二人は神無を気にすることなく会話を続ける。
「ブラドが吸血鬼王の前に姿を現してから吸血鬼の中に人間を殺す者が現れた。吸血鬼王もそれからおかしくなった。人間を殺すようになった」
「ラル・ドルそれで姿を隠したの?くだらないわね。ところでアンタ、何年くらい血を吸ってないの?」
「2年くらいだな」
「死ぬわよ、アンタ。神無の血、吸ったら?」
エリトリアの言葉を理解した神無は身構える。
「そろそろ殺戮衝動が目覚めるんじゃない?人間の姿だって保ててないじゃないの」
「黙れ!!!」
ラルはエリトリアに爪で攻撃する。エリトリアは避けると氷の結晶をラルに飛ばした。ラルは氷の結晶を弾く。
ラルは手をエリトリアに向けるとエリトリアの足元に闇が出現する。
エリトリアは驚き、闇から逃げようとしたが闇から逃げることが出来なく、ラルの攻撃を直撃した。
ラルはこの隙に神無に近づき、神無に張り付いている氷を砕いた。そして、神無に触れようとしたとき。
パァン
神無はラルの手をはじいた。
そして、ラルを鋭く睨む。
「今まで騙してたんだな!」
神無の言葉にラルは沈黙し、神無は続ける。
「私だけではない!クロノも水鈴も皆を騙してたんだな!」
ラルは何かに気付くと神無を押し、神無の前に出た。
神無は驚きラルを見ると目を疑った。
ラル身体には氷の剣が突き刺さり、氷の剣が刺さっているところから血が出ている。
ラルは氷の剣を身体から引き抜き、氷の剣を砕いた。そして、神無を見て口を開く。
「神無・・・大丈夫だな・・・。お前は陰水晶を持ってクロノの所に行け」
神無に陰水晶を渡した。その代わりに神無から短刀を取るとエリトリアを睨み、神無に話しかける。
「衰弱している俺にエリトリアを倒すことは出来ない。だが、足止めは出来る。早く行け!」
「だが、お前は死ぬぞ」
「俺は長い間血を吸ってないからもう長くはない」神無はラルのその言葉を聞き、耳を疑った。
ラルは一瞬だけ神無に微笑むとエリトリアの所に突っ込む。
ラルとエリトリアとの戦いはどう見てもラルが負けている。神無は目が放せなかった。
「何、心配している?」
小さく呟き、自分に言い聞かせる。
「奴は吸血鬼なんだぞ。私を騙してたんだ。心配する必要はない筈だ」
神無は立ち上がり、この場を去ろうとした時。
「ラル・ドル、これで終わりよ!」
エリトリアの声が響いた。
ラルは傷付き、倒れていてエリトリアはラルにとどめをさそうと氷の剣を振り上げていた。
「ラル・ドル、逆らわなければ生きていたのに。さようなら」
エリトリアの手はラルの所に落下してくる。ラルは目を瞑った。
しかし、いつまで経っても剣が刺さる感触がない。そっと目を開くとラルの代わりに神無が剣に刺されていた。
ラルは驚いた。自分を嫌っている神無が助けたことに。
「神無!?」
エリトリアの攻撃は神無に直撃し、神無はラルの方に倒れる。ラルは倒れてくる神無を受け止めた。
「どうして!?」
「どんな姿でも・・・ラルに・・・代わりないことに・・・気付いた・・・」
ラルはエリトリアに手をかざし、光を出した。
「キャッ!」
エリトリアは目が眩み、何も見えない。その隙にラルは神無を抱き、その場から逃げ出す。
「逃がさないわよ!ラル・ドル!」
エリトリアが見えるようになった時にはその場に誰もいなかったがエリトリアはこの部屋にあるたった一つの扉をくぐった。
エリトリアから逃げ出すことに成功したラルと神無だがどちらもボロボロだった。
「エリトリアを倒さない限り、クロノの所に行くのは無理か」
「ラル・・・」
「神無、大丈夫か!?」
「血は・・・私の傷口・・・から出ている血で・・・足りるか?」
ラルは神無の言葉に驚いた。神無は話しを続ける。
「奴を・・・倒せるのは・・・お前しかいない。私の・・・血がお前を強く出来るなら・・・私の傷口から出ている・・・血を飲め」
ラルは神無の言葉にしばらく考えた。しばらくし、神無の言葉に頷く。
そして、神無の傷口から出ている血を飲み始めた。
―血はこんな味だったのか―
To be contnued.
投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
ここまで読んでいただきありがとうございました。