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6. 冗談の限界

 三軒茶屋デート?から、俺らの距離は少しだけ近づいた。

海斗から連絡が来ることも少しだけだけど増えた。


【来週の木曜って、望はシフトに入る?】

【入らないけど、俺に会いたいの?笑】

【佐伯さんが、シフト表を変更したって言ってたから確認しただけ】

【そこは会いたいって言ってよ】

【じゃあ、会いたい】

【絶対に思ってないじゃん】

【笑】


 相変わらず文章はそっけないけど、前よりかは「笑」が増えた。


 俺が休みの日にホテルに行くと、海斗は決まって俺に「今日は何の用?」と聞いてくるようになった。


「海斗に会いに来た」

「それは用事にならない」

「なるでしょ」

「俺、仕事中なんですけど」

「じゃあ、海斗のシフト上がるまで待っとく」

「大学の課題は?」

「終わった」

「本当に?」

「海斗は俺のママ?」


 そう言いつつ、海斗が俺のことを心配してくれることがどうしようもないくらい嬉しかった。


 優しい。

 俺をよく見てくれている。

 時々、二人でご飯にも行く。


 でもそれ以上にはならない。


 俺が「好き」と言っても、最初のご飯に誘ってた時のように冗談だろうと流されてしまう。

でもそれは、俺が、俺自身が冗談にしているからだ。


 本気であると伝えて、海斗に拒絶されるのが怖かった。

 

大学では、俺の軽いノリを本気にするやつなんてほぼいない。

それはホテルでも同じだ。

明るくて、人懐っこくて、誰とでも仲良くなれる。


 そういう柏木望でいる方が何かと楽だった。


 「好き」と言って笑われても、冗談だったことにできる。

でも本気だと言って、本気で困られ、拒絶でもされたら、もう今までのような関係には戻れない。


 それに、海斗は俳優を目指している。


 今はホテルで週に何度も働いているけれど、いつか仕事が決まるようになったら、簡単にいなくなる人だ。


俺とは違う場所を見ている。


好きになればなるほど、俺はそのことに怖くなった。


そんなある日、俺はホテルの近くで海斗を見かけた。


俺は勤務ではなく、大学の友達と近くの店にご飯を食べに行く途中だった。


海斗は、俺と同じくらいか少し高いくらいの背丈の女性と楽しそうに話していた。


長い綺麗な黒髪に、顔が小さくて、モデルのような美しい綺麗な人だった。


二人とも台本のようなものを持っている。


女性が何か言うと、海斗はその人のことを見ながら楽しそうに笑った。

それは俺には向けたことのないような、そんな笑い方だった。


 自然で、柔らかくて、なんだか距離が近い。


 胸がざわついた。


 最初は声をかけようと思ったのに、足が止まってしまった。


 女性が海斗の腕も軽く叩く。


 海斗は嫌がることもなく、そのまま二人で駅の方に歩いて行った。


 十中八九、俳優の仲間だろう。

そんなことは考えればわかる。


 それでも、俺は声をかけることがどうしても出来なかった。


 その日の夜、海斗からメッセージが来た。


【望、今日もしかしてホテルの近くにいた?】


 どうやら海斗も俺に気が付いていたらしい。


【いたよ】

【声かけてくれれば良かったのに】

【邪魔しちゃ悪いかなって】

【ワークショップの知り合い】


 海斗は何も聞いてないのに俺に説明してくれた。

少しだけその説明に安心した。


【てっきり彼女かと思った】

【違う】

【海斗、ああいう綺麗な人がタイプそう】


 送った瞬間に、間違えたかもと思った。でも、もう送ってしまったものを消すことはできない。


 しばらく既読はつかなかった。


十分後に返信が来た。



【望は、俺が誰といても気にしないと思ってた】


 意味が分からなかった。


【なんで?】

【誰にでも好きって言ってそうだから】


 画面を見たまま、時間が止まった。

冗談をこれまで重ねてきてしまったせいで、海斗にとって俺の「好き」は、その程度のものになっていた。


【誰にでもは言わないよ】


 送った。


 でも、本当のことは、「海斗にだけだよ」とは、やっぱり言えなかった。


【海斗くらいイケメンな人にしか、言わないって笑】


 また逃げてしまった。


 海斗から届いたのは、短い返事だった。


【そっか】


 その三文字が、前よりもずっと冷たく見えた。


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