3. 会うための理由探し
海斗は、ホテルに週に四日、五日入っていた。
俺は週に多くて二回。
大学の授業がある上に、課題や研究が重なると一週間丸ごと休むなんてこともざらにある。当然シフトはあまり被らなかった。
シフト表が出るたびに、自分より先に海斗の名前を探すようになったのは、海斗がホテルに来てから一ヶ月ほど経ったころだった。
その週に一回も被ってない時は、普通にテンションが下がる。逆に、一回かなんなら二回被ってる時なんかは、海斗に会うのが楽しみで仕方がなかった。海斗に会えるという事実だけで、辛い授業や課題だって頑張れた。
自分でも単純な奴だとは思う。
そんな海斗と連絡先を交換したのは、海斗と三回目にシフトが被った時だった。
「シフトの変更とかあるし、連絡先交換しようぜ」
俺がスマートフォンを差し出し、QRコードを見せると、海斗は少し笑って
「それ、本当に仕事のための交換なの?」
「え、俺が海斗の連絡先を欲しがってるみたいに言うのやめてよ」
「違うの?」
「違わないけどさ」
「望は、正直だな」
海斗のアイコンは、海辺の夕焼けの写真だった。
自分の写真ではないところが、なんだか海斗らしいなと思った。
その数週間後、俺は実験レポートの提出締め切りの期限を勘違いしていたので
急遽、シフトを変わってもらった。
【本当にごめん!シフト変わってもらってありがとう!今度何か奢る!】
メッセージと共に、謝罪をしているリスのスランプを送ると、すぐに返信が来た。
【大丈夫。レポート頑張って】
絵文字もなければ、スタンプもない。なんなら記号もない。俺なら、別に仲良くないような人にでも絵文字や記号の一つくらいは付ける。
【海斗、なんかメッセージだと冷たくない?】
【そう?】
【もしかして、怒ってる?】
【別に怒ってないけど】
【ほんとに?】
【本当に笑】
ようやく、「笑」がついて、それだけで俺はちょっと嬉しくなっていた。
レポートを提出した翌日、大学の帰りの足で俺はホテルへ寄った。
今日はシフトない、休みだ。代わってもらったお礼として、近くの店で買ったお菓子を持って行った。
別に今日わざわざ持ってく必要はない。次のシフトで被った時に持っていけばいい。ただ、その日はシフト表を見て、海斗がいることを知っていた。
自動ドアが開くと、ロビーにあるフロントカウンターに、今日も爽やかな海斗が立っていた。海斗は俺に気が付くと、少し驚いた顔をした。
「あれ?今日、望はお休みだよね?」
「そうだよ。今日も大学疲れた~」
「お疲れ様。どうしたの?」
「これシフト代わってもらったから」
俺はお菓子の入った紙袋を手渡しすると、海斗は袋の中身を覗き込んだ。
「わざわざ大学終わってから来たの?」
「大学から近かったしね」
実際には、一回電車を乗り換えている。
「ありがとうね」
「俺も食べたいから、一個は俺の分だけどね」
「自分も食べるんだ」
「だって美味しそうだったから」
「そしたら一緒に休憩に入る?」
海斗はごく当たり前かのように俺に言った。
俺は休憩の時間をわざわざ狙ったとはいえ、内心でガッツポーズをした。
「いいの?俺今日はホテルの部外者だけど」
「別に部外者ではないだろ」
事務所の中にある、休憩スペースで、二人で並んでお菓子を食べた。
どうやら海斗は、案外お菓子が好きらしい。
「意外かも」
「ん?何が?」
「買っといてなんだけど、海斗ってお菓子とかそんなに好きじゃないと思ってた。なんか、普段からフレンチとか食べてます的な顔してるし」
「なんだよそれ、どんな顔だよ」
「爽やかイケメン」
「望は、シュークリームとか似合いそう」
「俺のこと子どもだと思ってるでしょ!」
「別に、思ってないって」
「じゃあ、男として見てくれてるの?」
自分が発言してから、しまったと思った。
でも、冗談っぽく笑って誤魔化しておけば、いくらでも引き返せる。
海斗は、一瞬だけ俺を見た後にお菓子に視線を戻した。
「一応、成人男性としては見てる」
「なんだよ、一応成人男性って」
「正確に答えたつもりだけど」
「理系の俺より理屈っぽくない?」
海斗は、いつものように爽やかに笑った。
それ以上は踏み込んでこなかった。
それ以降、俺は時々、なにかと理由をつけてホテルに行くようになった。
忘れ物をした。佐伯さんに確認したいことがあった。近くまで来たから挨拶に来た。
適当な理由をつけるなんて簡単にできた。
海斗は俺が来るたびに、「また、来たの?」と言って、出迎えてくれた。
呆れているようにも見える。でも俺の都合のいい勘違いかもしれないけど、少しだけ嬉しそうにも見えた。




